24. 問題児が帰った頃 1
今回より二章の開始となります。しばらくは別視点が続きますが、三話からはレイシス視点に戻る予定です。
はたして僕のしたことは、本当に正しかったのだろうか?
いや、レイをイデア大樹海に置いてきたことに後悔はないんだ。
あの程度の過酷な環境で彼を殺すなんて不可能だ。
理由は分からないけれど、『翼』を全員投入されるような存在なのだ。
そんな人間が死ぬなんて考えられない。
僕にとって気掛かりなのは他の第零の人間だ。
レイとの付き合いは長いし、彼女たちの過去についても少なからず聞いている。
だからこそ仕方ないのは理解できる。
できるのだが、それでも彼女たちはレイに依存しすぎている。
レイだけを逃がしたこと。
それがずっと心残りだった。
「ベイル少尉、入りたまえ」
「失礼します」
ここからが正念場だ。
上手く立ち回ると同時に、誰が敵で誰が味方か。
それを見極める必要があるだろう。
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何度見ても慣れそうにない。
ドラグシア王国の軍部を束ね、実権を握る初老の男、ゼシウス・ヴォルゾーネ。
そして我が国を魔法軍事国家たらしめる、六人の翼たち。
今日で竜翼会議に参加するのは三度目だというのに恐怖は未だに拭えない。
レイはお茶汲み係として、よく参加しているなどと言っていたが……。
あの時の僕は深く考えていなかった。
でも今なら分かる。
彼もこの場に混ざるほどの『化け物』だ。
「では報告を」
「先日の調査の結果、レイシス・ロズウィリア軍曹の死亡が確定したことはみなさんご存じかと思います」
現場検証、遺体の検査、そして周辺地域の調査……。
それらすべての結果がレイの死亡を示している。
いや、示すように細工した。
「第零魔法試験小隊に所属していた他の人間に関しては調査中です。とはいえ本件の目標はあくまでレイシス・ロズウィリアでした。よって作戦の終了を上申いたします」
「彼女たちとて危険人物に代わりないと思うが」
当然そう言われることは分かっていた。
だから準備もちゃんとしてある。
「ハルディス大尉の意見はもっともでしょう。しかし第零魔法試験小隊はレイシス軍曹あっての物でした。彼という柱を失った今、脅威は大きく下がったと考えてよろしいかと」
「じゃあ残りの三人は放っておくのか?」
「今はバードルト王国と再び戦争になってもおかしくない戦況です。そちらの方が重要かと」
「しかしだな……」
まったく納得してくれない様子だ。
次の説得材料を使おうかと考えていると、唐突に別の人物が割り込んでくる。
「わたしはベイル少尉に同意見です。戦争に注視する方が賢明でしょう」
またこの流れだ。
疾風の翼と潺の翼はいつも対立している。
これは僕の推論だが、潺の翼、セレーナは今回の件に疑念を抱いているひとりだ。
判断するにはまだ早いが、彼女であれば協力を仰げるかもしれない。
対してハルディスは危険だ。
彼はどうもレイを嫌っている節がある。
ふたりの間に、何があったのかまでは分からないけど……。
「仮に彼女たちが何かしたとしても、わたしたちが動かずとも十分対処可能でしょう」
彼女の発言に続くように、眼鏡を掛けた金髪の男が手を挙げる。
律儀に会議の基本を守っているのはいつも彼だけだ。
「セレーナ大佐とおおむね同じ考えですが、ここで見逃せば軍の沽券に関わる危険性もありますね」
「烈火の言う通りだ。面子が潰れる」
「ではお二方は戦争を差し置いて、離反者の捜索に戦力を割くべきだと?」
やっぱりこうなってしまう。
予想通りだったとはいえ厳しい流れだ。
もちろん代案は考えてあるが、通してもらえるかどうか……。
「ならベイル君に任せておけばいんじゃないの~」
思わぬ助け舟だ。
それこそがまさに代案なんだ。
またも挙がる彼の手。
「第八中隊も貴重な戦力ですよ」
「そうじゃなくて、ベイル君だけにやらせたらいいじゃん」
豊穣の翼の言葉により、この場の視線が僕に集中する。
正直生きた心地がしない。
「なるほどな」
「確かに彼でしたら実力もありますね」
「ですが隊長だけ別行動というのは……」
部屋中を意見が飛び交う。
が、低く野太い声が一喝する。
「静かにしろ」
ゼシウスは場が静まったことを確認すると続ける。
「レイシス・ロズウィリアが始末できた時点で本作戦の主目標は達成されている。残りの三名は死亡扱いとし、以後本件に関する一切の調査を禁ずる」
調査の禁止……?
「閣下、それはあまりにも早計かと――」
「ベイル少尉、聞こえなかったのか?」
「し、失礼しました」
思わず余計な事をしてしまった。
目立つ行動は極力避けるべきなのに……。
でもやっぱりおかしい。
このやり方は強引すぎる。
「本作戦に関わった者たちには今の旨を通達しておくように。もし不審な人間を見つけた場合、すぐ私に報告しろ。以上だ」
彼の言葉を皮きりに会議は終わりとなり、参加者たちは次々と散っていく。
僕は全員がいなくなるまで立って待つことにする。
階級が高い人間から退室していくのが慣例だからだ。
しかし、いくら待っても最後のひとりが出て行かない。
潺の翼、セレーナだ。
彼女は僕の顔を見ているようだ。
「ベイル少尉、少しお時間頂けますか?」
「問題ありません」
心臓が跳ねる。
彼女とは親しい関係という訳でも無い。
というか、話したことすらほとんどない。
にもかかわらず声を掛けられた。
タイミング的にも良い予感はしない。
そんな感情を読み取られたのか、彼女は苦笑しながら手を合わせて来る。
「突然ごめんなさいね。そこまで気を張らないでくれると助かります」
「ぜ、善処してみます……」
気を張らない方が無理だ。
「実はじっくりお話したいことがありまして、今度わたしの自宅に来ていただけませんか?」
上官、それも『翼』から直々の招待だ。
こんな状況でなければ歓喜したに違いない光栄なことだ。
でも話の内容なんて考えなくとも分かる。
これは事実上の命令に近いだろう。
「お招きいただき光栄です。是非伺わさせていただきます」
レイには振り回されっぱなしだ。
よくよく考えてみれば、僕の寿命を縮めているのはいつも彼のような気がする。




