23. 異端の翼は問題児に帰る
地下水路を出た俺は唖然としていた。
「おいライエン、これはどういうことだ……」
「流石、我が国が有する騎士団の先輩方だ」
俺たちは完全に囲まれていた。
別に敵意を向けられているとかじゃない。
むしろその逆だ。
メチャクチャ心配している表情だ。
「にしたって来るのが早すぎないか?」
「当然だろう。連れ去られたのはあの――」
「レイー!」
ライエンに耳を傾けていた時だった。
誰かが俺に飛び込んでくる。
「ぐぼぉっ!」
強烈な体当たりだ。
肺の中の空気がすべて押し出されていく。
「あ、ごめん……」
「いや、――ゲホッ! 気に、するな…………ゴホッ!」
思わずせき込んでしまうが、気にする必要はないことを伝える。
今回は骨まで行っていないからな。
「それでフレイヤは……?」
「心配要りません。この通り眠ってはいますが、ケガなどはありません」
「よかった……」
彼女は泣きそうな顔で俺に倒れ掛かってくる。
力が入っていなくて助かったな……。
「というかなんでここにいるんだ。俺の部屋で待てとあれほど言っただろ」
「もちろんずっと待ってたのよ? でもお父様が来て下さったから……」
お父様?
お父様ってあの『お父様』か?
たしかに被害に遭ったのはフレイヤだ。
父親が来ていても不思議じゃないが、それにしたって早すぎだ。
「ミーリヤ、フレイヤは大事ないのか?」
「あ、お父様!」
彼女が振り返った先、そこには戦士がいた。
いや、戦士というか騎士だ。
だがそこらに居る騎士団の人間とはすべてが違う。
鎧に施された装飾、造り、材質そのすべてが。
そしてその風格が。
「フレイヤ様にお怪我はありません。どうかご安心ください」
ライエンは膝を着いて頭をさげる。
よく人を抱えてその姿勢が取れるな。
「ふむ、君はたしかベルデーリの息子だったか」
「はっ! 覚えて頂き光栄であります!」
あー、なんか読めて来たな。
そりゃ確かにすぐ来るわな……。
「顔を上げたまえ。こんな場面を見られれば、またベルデーリに怒られてしまうよ」
今度は俺に視線を向けてくる。
「そちらの君は?」
「レイシス・ロズウィリアと申します。ライエンの親友です」
そう口にすると、ライエンはこちらに強い視線を……。
なに、向けてこないだと?
「お父様、彼が例の方よ」
「そうだったのか。二度も娘たちを救って下さるとは、感謝の言葉しかない」
彼は言いながら腰を曲げる。
瞬間、場の視線が俺に集まる。
騎士団の人間全員分である。
やはり予想通りだ。
この男は間違いなくエーリュスフィア騎士団、その団長だ。
「ちょっとお父様!」
「――おっとすまない。レイシス君、申し訳ないがお礼はまた今度で構わないだろうか?」
「お世話になりっぱなしですから、むしろこちらがお礼をしたいぐらいです。それに今回は彼の功績です」
「ライエン君が……? それは本当かね?」
そう聞かれたライエンは考えることなく即答する。
「私もよく分かっていないのですが、彼はこのように主張し続けているのです」
「ふむ……」
いやそこは胸張って自分が助けたと言っておけよ。
フレイヤに気に入られる絶好の機会だろ。
おまけに相手先の父親にまで売り込めるチャンスなんだぞ。
「とにかく今度、もう一度しっかりとお礼させて頂きたい。今日はさぞ疲れている事だろう。君たちは帰ってゆっくりと休んで欲しい」
「フレイヤ様はどうされますか?」
「私はまだ仕事がある。たびたび申し訳ないが、娘を頼めるだろうか?」
「はっ!」
やっと解放された俺たちは寮へと向けて歩き出す。
だがミーリヤはここにいない。
父親に呼び止められたからだ。
なにか用件があるようだったが、あの男がそばにいるなら心配ないだろう。
「ロズウィリア、少し良いか?」
「フレイヤに気に入られる方法なら知らんぞ」
折角のチャンスにすら気づかないみたいだからな。
俺にはお手上げだ。
「真面目な話だ!」
そう言ってこの前、フレイヤの話を始めたのはお前だろうが……。
「実際のところ、私が眠っている間になにがあったんだ?」
「だからさっき話した通りだよ。俺が追いついた時にはお前が先に……」
っと、思い出したな。
「そういや何でフレイヤの居場所が分かったんだ?」
あの場所は探知魔法で探し出すことが出来ない。
まさか俺みたいに学校で無茶苦茶したって事はないだろう。
ライエンが使った方法だが、戦争を経験している俺ですらまったく予測がつかない。
後学のためにも是非聞いておきたいところだ。
「それはもちろん目を光らせていたからだ」
「は?」
「だからフレイヤ様を陰から見守り、周囲に目を光らせていたのだ」
「あ、そうすか」
考えた時間が無駄だったな。
いやマジで無駄だった。
「次同じことしたらベレール先生あたりにチクるからな」
「――な! 待ってくれ!」
お前も共に恐怖を味わうといい。
「頼むからあの人だけはやめてくれ!」
俺はフレイヤを抱えるライエンを置いて寮を目指す。
帰ったらテルラに説明しなきゃならないと思うと憂鬱だ。
考えるだけで胃が痛くなってくる。
今回は何とかなったが、次もこうなるとは限らない。
ドラグシアからの逃亡者、二度に渡るフレイヤたちの誘拐未遂。
そして異端書の術刻印。
アイツらだって早く見つけたい。
だがフレイヤたちを見捨てることは出来ない。
とにかく今は調べる事、やる事が山積みだな――。
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レイたちについて行こうとした時だ。
お父様はなぜかわたしだけを呼び止めた。
「ミーリヤ、あの少年はどんな人間なのだ?」
「そう、ね……」
彼の事を思い返してみるけれど、お父様に話せそうな事なんてほとんど無い。
成績は本当に酷いし、授業はすぐサボるし……。
それに先生や風紀委員にいつも怒られているもの。
本当に問題児で、ダメな人。
でも――。
「ん? どうして笑っているのだ?」
「ごめんなさいっ、つい…………っふふ」
レイは本当にダメな人。
でも、とっても頼りになる不思議な人。
そしてわたしが、好きになってしまった素敵な人――――。
「変な人、かしら……」
そう、変な人。
いつも好き勝手して、とにかく無茶苦茶。
そのうえ悪さばっかりで……。
だけど一緒にいるとなぜか安心できる。
そんな変な人よ。
「ねぇお父様、もう行っていいかしら? 彼、また何かやらかしてないか心配なの」
「そうか、呼び止めて済まなかったな。今度ゆっくり食事でもしよう」
「その時は彼を招待してもいいかしら?」
「もちろんだ。彼とはもう一度、話してみたいと思っていたところだ」
レイは実は凄い人だって。
そんなことくらい、なんとなくだけど気付いている。
わたしじゃ釣り合わない人かもしれないって。
そんなことくらい、気付いているのよ――。
でもね――。
今はただ、彼とまた話したい。
そんな気分なの。
今回で一章は終わりとなります。
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