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22. 異端の翼は始末する

 エイドロス・ブルゾワール。


 まだ戦争が続いていたころの話だ。

 彼は第八中隊の副隊長を務めていた。


 何度か功績もあげており、実力も十分ある人間だ。

 だが彼は軍から始末された。


 異端書に傾倒し過ぎたのだ。


 ドラグシア王国といえど、異端書を使う際には厳格な交戦規定、つまりルールが存在する。


 上からの命令を無視し続け、最終的には暴走した男。

 それが彼だ。


 ベイルから『取り逃がした』とは聞いていたが、まさかエーリュスフィアに居るとは考えもしなかった。




 奴は昔と変わらぬ口調で話しかけてくる。


「お前が来たってことは、ドラグシアは本気で俺を殺そうとしているのか?」

「さぁな」


 そうか、コイツは今の俺の境遇を知らないのか。


「しかし驚いたぜ。お茶組み係の二等兵があの『異端の翼』だったとはな」


 奴は穢魂(あいこん)の書のほかに、烈火(れっか)の書を保有していたはずだ。

 十分ひとりで対処可能だが、ベイルが唯一取り逃がした標的だったというのが気になる。


 リスクはあるが、これまでのように力を隠して戦うのは厳しい可能性が高い。


「俺の夢がやっと叶う……。このために俺は身を売ったんだ……」


 エイドロスの体から漏れ出る魔力。



 ――来る。


「俺は『翼』を()ぐためにここまでやって来たんだよ!」


 瞬間、俺の足元に魔力が収束してくる。

 地点作用の爆発だ。


 素早くサイドステップで避けて口を開く。


(せせらぎ)の書、第三章――」


 が、敵は当然魔法で妨害してくる。


「《"フレイム・ルイン"》」


 詠唱を中断、全力で疾風(しっぷう)の書を使い回避動作を取る。


 コイツにさっきのような戦い方は通用しない。

 おそらく魔法の速さから見て、回帰の書を使う余裕がない。


「おいおい、最強の称号持ちってのはそんな地味な事しか出来ねえのか!」


 しばらくの間、俺は何度も詠唱を妨害されていた。

 だがそれは敵も同じだ。

 無詠唱による打ち合いがずっと続いている。


 戦いは完全に拮抗している。



 避ける。


 撃つ。


 また避ける。


 そして撃つ。



 先に被弾したほうが負ける状況だ。


「はぁ……面白くねえ。――ならこれはどうだ!」


 奴は突然右手を横に向ける。

 その先にいるのはライエンだ。


 つぎの瞬間、敵の手元から火球が放たれる。


「――!」


 俺はすかさず射線上に氷の壁を生成。

 魔法同士はぶつかりあい相殺される。


 そのまま急いでエイドロスに魔法を打ち込むがもう遅い。

 詠唱する時間は十分あったはずだ。


「――引用、《"ヴォルカニック・ホーリーレイ"》!」


 超高温度を収束した光の奔流。

 回避はしたが避けきることは叶わない。



 灼熱の光が左半身に直撃、俺は地面を転がっていく。

 被弾した箇所は炭のように燃え尽きている。


 足をやられた。

 立ち上がることは出来そうにない。


「あっけないもんだな」


 彼は心底つまらない、といった表情で俺に近づいてくる。


「俺はこんな雑魚が持てはやされる国に従っていたのか……」

「従っていたことなんてあったか?」


 挑発するようにそう返す。

 俺の記憶が正しければ、コイツは命令違反ばかりしていたはずだ。


「これでも国のために戦っていたんだぜ? それなのにあのクソ女王は……」


 顔を歪めて怒気を露にするエイドロス。


 陛下と奴の間に確執があったのは知っていたが、ここまでとは思わなかったな。


「まぁいい。それよりもレイシス、今はお前だ」


 俺の額に手がかざされる。


「一応警告してやるが、やめた方がいいと思うぞ」


 彼の性格はよく知っている。

 こう言えば確実に引っかかるだろう。


「最後の最後で命乞いかよ。まぁいくら『異端の翼』さまでも死んじまうもんなぁ?」


 とてもイヤらしい笑みだ。

 この状況が楽しくて仕方がないらしい。


「人間に使う事を想定されていない魔法、か……。まったく最高の力だ」


 異端書を知った人間は大体コイツのようになる。

 強すぎる力は人をおかしくするのだろう。


穢魂(あいこん)の書、第二章、第四節より引用――《"投影の記鏡(ききょう)"》!」


 瞬間、頭が強く締め付けられる感覚に襲われる。

 脳が破壊されていく感覚だ。





 ……そろそろだな。


「お前の異端書に関する記憶は全――――あがぁぁぁぁあああ!?」


 彼は発狂しながら暴れ出し、頭を地面に何度も叩きつけはじめる。


「痛い痛い痛い痛い! 死にたい痛い死にた――」


 叫び続ける様を尻目に回帰の書を使用。

 俺はゆっくり立ち上がり、氷の槍で奴の頭部を破壊した。


「欲をかいたお前の負けだ」


 彼は頭を失ったにもかかわらず、まだ暴れ続けている。

 おそらく痙攣が残っているのだろう。


 が、それもすぐに収まる。

 俺は遺体を処理するべく詠唱を始めた。


 こんな奴でも元竜翼魔術士団の幹部だ。

 騎士団にでも回収されれば面倒なことになる。



 そう考えながら魔法が発動しかけた時だった。



 死んだはずのエイドロスが突然立ち上がり、俺を蹴り飛ばして来た。

 視界が揺らぎ、体が宙を舞うがなんとか受け身を取る。


 俺は何が起きたか確認するべく顔を上げる。

 が、思わず目を細めてしまった。



 エイドロスの頭は光に包まれながら()()()()()


「レイ、シス……」


 あの光は回帰の書によるもので間違いない。

 エイドロスが複数の異端書を保有していたのは予想外だ。


 でも重要なのはそこじゃない。


 死後に魔法を使うことなど不可能だ。

 それは無詠唱であっても例外ではない。

 いかなる方法でも使う人間の意志や思考が必要になる。


 真っ先に頭を壊すのもそのためだ。


「なにが『異端の翼』だ。この化け物が……」


 一体コイツはどうやって魔法を使った?




 いや、待てよ。

 人間を必要としない魔法があったな。

 異端書による成功例はまだなかったはずだが、理論上は確かに可能だ。


「回帰の書の術刻印、か」


 異端書ともなれば膨大な大きさの刻印が必要になるはずだ。

 それこそ全身を覆うほどになるはず。


 だが奴の体には何もない。

 非常に興味深いが……。


「俺は誰にも殺されない、死ぬことはない! 俺は、最強なんだ――!」


 彼はよろめき、崩れ落ちながら、うわ言のように何度も叫んでいる。

 動きもなにかおかしい。

 後遺症なのかは知らないが、これがいつ治るかも分からない。


 貴重なサンプルだが仕方ないだろう。


「豊穣の書、第六章、第四節より引用――」


 つぎの瞬間、エイドロスは突然こちらに向かって突っ込んでくる。

 とはいえもう遅い。


「――《"大自然の震怒(しんど)"》」


 地面を、壁を。

 そして天井を突き破って生い茂る木々は敵を拘束し、貫いていく。


 何度も何度も貫いていく。


 これなら回帰の書も意味を成さない。

 戻したところで、拘束から抜け出すことは出来ない。


「クソ女王のお気に入りの分際がぁ!!」


 彼は叫びながら烈火(れっか)の書を使い続け、燃やそうと試みているらしい。


 もちろん無駄だ。

 その程度の炎じゃ燃やすどころか、傷をつけることすら不可能だ。




 俺はゆっくりと歩きながら奴に告げる。


「エイドロス、お前は三つのミスを犯した」


 もう急ぐ必要はない。


 この魔法による拘束。

 それが成功した時点で勝利は確信した。


「一つ、異端書に囚われて余計な欲をかいたこと」


 豊穣の翼から託された秘蔵の魔法だ。


「二つ、回帰の書を過信したこと」


 お前程度が崩せるはずがない。


「そして三つ。……『クソ女王』などと連呼したことだ」


 とうとうエイドロスの目の前にたどり着く。


「たしか『人間に使う事を想定されていない魔法』、とか言ったか」


 俺はフレイヤに関する情報を抜き取りながら問い掛ける。


「ははは! そんな事でも俺は殺せねえ! 俺が手に入れた力は誰にも超えられねえ!」

破戒(はかい)の書、第一部、第一章より引用――」


 回帰の書による術刻印は強力だ。

 その上どこに刻んでいるかも分からないと来た。


 たしかに奴の言う通りだ。

 鉄壁の魔法であることは、認めざるを得ないだろう。


 だがそんな物、俺には関係ない。


「ところで聞くが、『人間()使う事を想定されていない魔法』では試してみたか?」

「……? まさかあの記憶は――」


 時間を無駄にし過ぎた。


 もう終わらせるとしよう。


「――《"dist(  破)ru()zione"》」


 回帰の書が発動することはない。


 発動するわけが無い。



 ここに残っているのは奴の魔力の残り香だけだ。

 術刻印など、残っているはずもない。



----



「起きろー」


 彼の頬をぺちぺちと叩きながら呼びかける。

 そろそろ目を覚ましてもいい頃合いのはずだ。


「んん……。なん、だ……?」

「お、やっと気が付いたか」

「ロズ、ウィリア……?」

「ういっす」


 ライエンは状況が呑み込めない、といった表情でボケっとしている。


 が、突然目を見開いたかと思えば俺の肩を掴んで来た。


「フレイヤ様はどうした! 私は奴に負け――」

「横を見ろ、横を」


 目配せをした先にはフレイヤが眠っている。


 エイドロスの記憶を頼りにすぐ向かい、見張りを殺して連れて来たのだ。

 幸い彼女にケガはなく、意識を失っているだけだった。


「どういうことだ……?」

「ん? お前がフレイヤを助けたんだろ?」

「いや、だから私は負けて……な!? これはどういうことだ!?」


 彼は何かに気づいたのか、自分の体の何度も見回しながら驚いている。


「傷が無くなっている! そんなハズは!」


 そりゃ俺が回帰の書で戻したからな。


「寝ぼけてんのか? 俺が来た時からこの状態だったぞ」

「一体なにが起こっているのだ……?」


 今頃学校中も大騒ぎのはずだ。


 ライエンが助けた事にしておけば、俺が目を付けられる心配はないだろう。

 彼なら身分もちゃんとしているからな。


「そんなことよりさっさと帰ろうぜ。ここはなんか不気味だ」

「あ、あぁ……。しかし本当に私がフレイヤ様を?」

「一緒に寝てたんだから多分そうなんだろ」

「ううむ……」


 納得いかない様子の彼を叩き起こし、フレイヤを抱えさせて出口を目指す。

 彼は最初フレイヤに触れる事を拒んでいたが、俺が護衛する事にして丸め込んだ。


 体は元通りでも疲れは相当溜まっているハズだ。

 合理的な案を出されれば、いくらライエンでも断れないだろう。



 まぁ帰り道は安全なんだがな。


 残った敵はもう掃除済みだ。

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