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21. 異端の翼は思い出す

 フレイヤとドラスの魔力を探索したところ、分かったことがふたつある。

 ひとつは全く同じルートを辿っていること。

 奴が誘拐したことの証明だろう。


 もうひとつは、途中から反応がぷっつり切れていること。

 本来ならあり得ないことだが、この場所なら別に不思議なことでは無い。


「地下水路……」


 前にネクロリーパーと戦闘になった場所だ。

 探知魔法が機能せず、内部も入り組んでいる。

 たしかにここは潜伏するのに最適の環境だろう。


 とはいえ入る以外にフレイヤを助ける方法はない。

 幸い過去に来ていたこともあり、道も大体なら分かる。




 俺は地下水路に足を踏み入れると、地面が目に入りすぐ異変に気付く。


 たしかこの前来た時はホコリが目立っていたはずだ。

 しかし今は違う。

 踏み荒らされたように汚れがまばらだ。

 横に広がって歩いた形跡もある。


「ざっと見た感じ一個中隊クラス、か」


 別に最初から敵はひとりだなんて思っていない。

 が、それにしたって多すぎる。

 そこまでしてフレイヤを狙う理由があるのか?



 しばらく水路を歩いていると、遠くから話し声のような物が聞こえて来る。

 これだけ人員がいれば見張りがいても不思議じゃない。


 柱の陰や通路のくぼみを利用して音の場所へ近づいていく。

 そうやって突き当りに差し掛かったところだ。

 曲がった先から人の気配を感じる。


 ここでは《"魔導通信(マギ・テレパス)"》は使用できない。

 つまり屋敷の時のように、慎重になる必要はまったくない。


 俺は素早く飛び出し、人数を確認する。


 ――五人。


 加えて全員ローブ姿。

 これで民間人、および騎士団の可能性は無くなった。


「な、なんだコイツ――!?」


 氷の槍を無詠唱で放ち、四人は頭蓋骨ごと頭を貫く。

 確認する必要はない。即死だ。



 残りのひとりは両手、両足を打ち抜いて身動きを制限。

 そのまま烈火(れっか)の書で敵の口を焼いて塞ぐ。


 水路はとても反響する。

 叫ばれでもしたら面倒だ。


 俺は地べたで暴れている敵の元まで近づき、その額に手をかざす。

 今欲しいのは敵の情報だ。


穢魂(あいこん)の書、第二章、第四節より引用」

「――――!!」


 敵はさらに暴れる。


 まさかこの魔法を知っているのか?

 やはり敵に()()殺人犯と同一人物がいる可能性が高い。


 フレイヤが心配だ。


「――《"投影の記鏡(ききょう)"》」


 詠唱と同時、頭の中に相手の記憶が流れ込んでくる。



 敵の構成とドラスの居場所は判明した。

 フレイヤも彼と一緒のようだ。


 しかし不可解だな。

 記憶が一部抜け落ちている。


 さらに調べるため記憶を辿る。

 が、今まで流れ込んできていた景色が突如途絶えた。


「もう壊れたのか……」


 予想よりも早く死んだ敵を尻目に立ち上がる。

 魔力に対する抵抗力があまりに弱い。

 ランクはA、といった所だろうか。

 先ほどの戦いといい、訓練された集団では無さそうだ。


 とにかくドラスまでの道のり、見張りの配置は手に入った。

 あとは向かうだけだ。




 俺は迷うことなく通路を駆け抜け、鉢合わせた敵は素早く殺していく。

 回り道する必要はない。最短ルートだ。

 手に入った情報から、敵の配置が分かっているのだから難しいことでもない。



 やがてこれまでの通路とは違い、とても広い空間にたどり着く。

 中心部はまるで湖のようだ。

 おそらく水を溜めておく場所なのだろう。


 だがフレイヤの姿が見当たらない。


 そして向かいに立つ男。

 知っている顔にもかかわらず、知らない男だ。

 最後に見た時と魔力がまったく違う。


 彼は俺を見るや否や目を見開く


「まさかこんな場所に、もうひとり来るとは驚きました」


 彼がチラリと見た先に視線を向ける。

 そこには壁に横たわる制服姿の男がいた。


 あれはライエンだ。

 意識はないようだが息はある。

 が、傷がかなり深い。


 どうして彼がここに?

 そもそもなぜ、この場所が分かった?


「しかし戦い方が成っていない。魔法は優秀だと言うのに、これでは宝の持ち腐れだ。正直失望したよ」


 彼は優しく微笑む。


「フードのせいで素性が分からないが、君はどうかな……?」


 つぎの瞬間、水面から視界を覆いつくすように"柱"があらわれる。


「――《"ウォーター・ボルテックス"》!」


 数えきれないほどの水柱が殺到してくる。

 詠唱の短縮が難しい、作戦級に分類される軍用魔法。

 敵はあらかじめ用意していたのだろう。


 俺は水路の柱や天井を蹴り、次々と避けていく。

 見た目はただの水だが、その正体は高速で回転する渦だ。

 砂浜に流れ着く石のごとく、もし当たれば一瞬で削り取られる。


「ほう?」


 このまま避けているだけでは意味が無い。

 奴の攻撃を止める必要がある。


 あの魔法に必要なのは膨大な水だ。

 つまり水を無くせばいい。


烈火(れっか)の書、第五章――」

「悠長に詠唱させるとでも?」


 彼の手元から飛来する氷の槍。

 すでに回避動作を取っているため避ける事は不可能だ。

 普通なら防ぐために詠唱を中断、なにかしらの魔法で対処する必要がある。


 敵の詠唱を妨害し、自身の詠唱を成功させる。

 それが魔法戦の基本。


 ドラスはただの貴族だと聞いていたが、かなり戦い慣れているようだ。

 

 しかしその手は俺に通用しない。

 基本が通用するのは同格の相手だけだ。



 俺は敵の魔法を無視して詠唱を続ける。


「やはり君もダメですか……。この町の魔術士はどれもこれも……」


 氷の槍が心臓を貫通するが気にする必要はない。


 即死さえしなければ、気にする必要がない。


「――《"ショックウェーブ・ハイテンパート"》」


 胸に刺さった氷は気化、周囲一帯の水は一滴残らず蒸発。

 流れ落ちた俺の血までも霧散する。



 液体という液体、そのすべてがこの場から消滅した。


 同時にドラスの足元を無詠唱で爆破、胴から下を吹き飛ばす。

 爆風でフードがめくれるが気にしない。



 あの出血量なら近いうちに死ぬ。

 見られたところで問題はない。


「……ロズウィリアくん、まさか君だったとは。……素晴らしい」


 彼は満足気に笑う。


「でも私の勝ちだ。私も君も死ぬでしょうが、目的である彼女の引き渡しは既に終わっていますから」

「人は心臓が止まっても数分の猶予がある」

「……?」

「それだけあれば俺は死なない」


 もっといえば、十秒あれば問題ない。


「――まさか!? そんな物はあり得ない!」

「回帰の書、第二章、第五節より引用……」

「あり得ない! あってはならないんだ!」


 俺からすれば、殺すよりも死ぬ方が難しい。


「――《"自己回帰(セルフェーション)"》」


 光に包まれ、瞬く間に塞がる胸の穴。

 傷跡など残るはずもない。


「ほ、本物なのか? 私は死の間際に夢を見ているのか!?」

「安心しろ、まだ現実だ」


 続けて穢魂(あいこん)の書を詠唱、フレイヤについての記憶を探していく。


「複数の異端書……? こんな存在、あり得るわけ……」


 が、いくら探しても肝心の手がかりが出てこない。

 コイツも記憶が一部抜け落ちている。

 自分で穢魂(あいこん)の書による記憶操作をしたのか?



 まて、コイツは何の魔法を使っていた?

 彼が生まれてから今に至るまで、俺は(せせらぎ)の書しか()()いない。

 ならば穢魂(あいこん)の書は誰が使ったんだ?


「おい、お前に穢魂(あいこん)の書を使ったのは誰だ!」


 ドラスの胸倉を掴んで持ち上げる。

 だが答えは返ってこない。


 彼はずっと笑っていた。


 笑いながら死んでいた。


「クソ!」


 思わず悪態を付きながら死体を投げる。

 すると同時に彼の顔から笑顔が()()()()()()


 決して比喩なんかじゃない。

 その証拠に、剥がれ落ちた皮膚の下からは別の顔が覗いている。


 彼はドラス・フォン・ローゲンの()()()()()別人だ。




 この瞬間、俺の中ですべてが繋がった。

 いや、思い出した。


 俺はこのやり口を知っている。

 過去に一度、見たことがある。



 全身の皮を剥がされ、殺されたのは本物のドラスだ。

 教員たちの間では事前に打ち合わせをしているだろうし、前から顔は知っているはずだ。

 にもかかわらず誰も不審に思っていなかったのだ。

 ()の方はドラス本人で間違いないだろう。



 穢魂(あいこん)の書を使い、ドラス・フォン・ローゲンのあらゆる記憶をコイツに移植、皮膚までも利用することでもう一人のドラスを生み出す。


 それなら思考は本物とまったく一緒になるはずだ。

 定点設置型の探知魔法の計測も誤魔化せる。


 あとは作戦決行日に記憶を戻せばいい。

 魔力の乱れに関しては装置を直接確認する必要がある。

 つまり一日程度なら見つかることはない。



 普通の人間では考えつく事すら不可能な方法だ。


 こんな事が出来る()()など、俺はひとつしか知らない。


 いや違う、ひとつしか存在しない。



 突然、背後に人の気配を感じる。

 見なくても分かるほどの強力な魔力だ。


「てっきり戦争に疲れた奴らの妄言だと思っていたが……。七人目の話、まさか本当だったとはな」


 彼が誰かなど、振り返らずとも分かる。


「なぁ、『異端の翼』さんよ?」


 竜翼魔術士団、第八中隊。


 元副隊長、エイドロス・ブルゾワールだ。


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