20. 異端の翼は友人を巻き込む
今はなによりも敵の情報が必要だ。
奴の魔力情報さえ手に入れば容易に追跡できる。
学校に向かっているのもそのためだ。
「そろそろか」
校舎が見えて来た。
「"ルカ、窓を開けといてくれ"」
俺は先ほど言い忘れた事を伝える。
忙しそうだったため《"魔導通信"》を控えていたが、もう大丈夫な頃合いだろう。
だが少し待ってみても返事がない。
「"おいルカ?"」
もう一度聞いてみるが、それでも返事がない。
と、思ってたら彼女から不機嫌そうな声が返ってきた。
「"――で、今度はなに?"」
「"遅いぞ、なにしてたんだ"」
「"誰かさんが無茶ぶりするから余裕が無かったんです~!"」
確かに急すぎたが……。
ともかく心配は無さそうだ。
彼女が返事してくれているあたり、もう人払いは済んだのだろう。
「"いきなりで悪かったな……。とにかく窓、開けといてくれ"」
「"窓ってどこの?"」
「"そりゃ生徒会室に決まってるだろ"」
言いながら俺は外壁を超える。
見上げてみれば、生徒会室の窓がちょうど開けられる所だった。
少し高いが問題ない。
「"……開けたけど、これなんか意味あるの?"」
「"離れとけよ。そこから入る"」
「"はい?"」
俺は《"タービュランス"》を使用し体を打ち上げる。
さらに空中で再使用、生徒会室へと飛び込んでいく。
速度、コース共に問題はない。
窓から壁までの距離はすっかり忘れていたが。
俺は窓枠をくぐって生徒会室に入ったものの、スペースが足らず壁に突っ込んだ。
「ほひぃぃぃい!?」
今度は完璧だ。
この前の経験を生かして、ちゃんと足から入ったから気絶することはない。
「壁が分厚くて助かったな」
そのままぶち抜いてとなりと繋がったら大変だからな。
いや待て、壁の反対側ってたしか職員室だったよな……。
「まずい、今の音を聞かれたかもしれん」
「ちゃんと防音も済ませましたっ! てかアンタ一体なに考えてんの!?」
「おぉ、さすがルカだな」
防音っていうと喫茶店のあれと同じ奴か。
本来は周囲の音を消す魔法だったはずだが、応用すればその逆も出来るってことか。
便利そうだし覚えておこう。
「しかもなに? その怪しい服装……」
彼女はまじまじと見てくる。
まぁこんな状況だし、たしかに不審者にしか見えないな。
「そんなことはどうでもいいだろ。それより本題だ」
「理由は分からないけど、なんか嫌な予感しかしない……」
「簡単な話だ。定点設置型の探知魔法の場所、知ってるか?」
「……どこでその話を聞いたの」
この顔、やっぱり知ってるな。
「この前飯食ってたとき、先生たちがそれっぽい話をな」
「そんなはず――」
「時間がない」
彼女の言葉を強引に遮る。
こんな場所で言い合っている暇はない。
ルカはしばらく考える素振りを見せる。
が、決心が付いたのか伏せていた顔をあげる。
「誰にも言っちゃダメよ?」
考えることなく頷く。
そのくらいは俺も分かっている。
「でも場所なんか知ってどうするの?」
「装置の記録が欲しい」
「それなら先生に頼んだ方が……ってそれは無理か」
いくら彼女が会長とはいえ、生徒に教える事は無いだろう。
でなければ防犯設備の意味がない。
「でもわたしが知っているのは場所だけよ?」
「そんなのは気にすんな。場所だけで十分だ」
使われている設備に関しては学校の規模から目星を付けてある。
おそらく竜翼魔術士団の兵器保管庫と同程度のはずだ。
「で、どこなんだ?」
「職員室の奥」
なるほど、職員室の奥か。
「……マジで?」
彼女がふざけている様子は無い。
信じられないが本当のことらしい。
いやだって重要な設備だぞ?
普通はもっと目立たない場所に設置するだろ。
亜人はアホなのか?
「まぁいいか。楽な事に越したことはないし」
「もしかして先生たちと戦う気なの……!?」
「なわけあるか」
そんな面倒な事するわけない。
「ルカ、ここは最上階だろ?」
「そうね」
「では魔法が設置されている場所の上は?」
「それは当然屋上……あ、なるほど」
そう、屋上から無理やり入ればいい。
「でも職員室が横にあるのよ? 先生たちに気づかれない?」
「それも大丈夫だ」
その点に関しても抜かりはない。
場所を聞いてからとっくに方法は考えてある。
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ルカが魔法の準備を済ませた事を確認する。
風はあまり強くない。
これなら飛び散る心配もないだろう。
「よし、俺の合図と同時に床を壊してくれ」
屋上の床、つまり目的地の天井だ。
念のため《"地形探知"》でも確認したが、たしかに真下には部屋がある。
廊下から入れない場所だ。
ここで間違いない。
俺は屋上の隅へ移動し眼下を見下ろす。
そうだな……。
よし、あの外壁にするか。
あそこなら人がいない。
「烈火の書、第四章、第六節より引用――」
「レイシス、まさかそれって……」
俺がしようとしている事に気づいたらしい。
が、もう遅い。
お前はもう共犯者だ。
「ルカ、今だ」
「えぇー……」
なにか言いたげな唸り声が聞こえたが心配無さそうだ。
ちゃんと魔力が伝わってきている。
やがて俺は彼女に合わせ、詠唱を完成させる。
「《"オキュランス・ブラスト"》」
次の瞬間、狙いを定めていた外壁が爆散する。
凄まじい轟音と爆風だ。
同時にルカの魔法も発動、人ひとりが通れる穴が作られる。
こちらも大きな音が出ているが問題ない。
事前に外壁の耐魔力性能を調べといて正解だった。
「完璧だな」
「完璧、なのかなぁ……?」
「いいからさっさと入るぞ」
今頃職員室は外の光景に釘付けのはずだ。
そのうえ教員も多数現場に向かってくれるだろう。
念のためルカより先に穴から入る。
だが中には俺の背丈ほどの巨大な箱しか置かれていない。
目的の装置だ。
「入っていいぞー」
ルカを呼び入れ、さっそく装置に手を触れる。
――予想通りだな。
これは前にバラした奴と同型だ。
フレイヤの入退記録を検索、さらにドラスの記録も引っ張ってくる。
「レイシスはこれの使い方が分かるの?」
「昔バイトでちょっとな」
「どんなバイトよ……」
箱に張られた羊皮紙に文字が浮かび上がってくる。
「当たりだな。犯人はドラス・フォン・ローゲンで間違いない」
フレイヤが魔法の範囲外に出た時刻がドラスの物と一致している。
つまり同時に学校から出て行ったという事だ。
それに計測された魔力にも途中から大きな乱れが出ている。
いや、大きすぎる。
これではもはや別人だ。
このデータは一体なんだ?
すると突然目の前で文字が入れ替わっていく。
この記録は――。
「ってこれ俺のじゃねえか。なんで表示された」
「あ、やっぱりこうやって使うんだ」
どうやらルカのせいらしい。
「なにしてんだお前……」
「レイシスの真似をしてみたら出来ちゃった」
「『出来ちゃった』じゃねえよ。さっさと戻せ」
というかこれ、一応軍事設備だぞ。
民間人が簡単に動かせたら意味が無いだろ。
いや、ルカならあり得ない話じゃない……のか?
「ごめんごめん、今戻したから。にしてもレイシスの魔力、ぐっちゃぐちゃだったねぇ?」
「ほっとけ」
そりゃずっと魔力が乱れるよう、悪い事ばかり考える様にしてるんだから当たり前だ。
まぁ記録が見れて安心したな。
入学したときから問題児の思考を続けてきた賜物だろう。
再度フレイヤとドラスの計測結果を頭に焼き付ける。
ここまで詳細に分かれば十分だ。
「よし、はやく逃げるぞ」
「ほーい」
俺たちは屋上へ戻り、誰にも見つからないよう生徒会室へと戻る。
「で、アレはどうするつもり?」
ルカが窓の外を指さしながら聞いてくる。
思っていたより消火作業が早いな。
教員とはいえ、Sランク魔術士の集まりであることに変わりないってことか。
「もう鎮火しそうだし大丈夫だろ」
「いやそうじゃなくて、その後の話なんだけど」
「あぁ、そんなことか」
当然それも考えてある。
「フレイヤを誘拐した奴のせいにでもすればいい」
「考えることが犯罪者ね。……うん、その服すっごい似合ってる」
なんだその感想は。
「とにかく今回は助かった。お前は安全な場所にいとけよ」
「レイシスはどうするの?」
「これからフレイヤの所に行く」
やっと必要な情報が揃った。
ドラスの戦力も検討はついている。
準備は万端だ。
「助けはいる?」
「必要ない」
数秒の沈黙。
最初に破ったのは彼女の方だ。
「ならわたしは先に逃げよっかな!」
ルカは気楽な感じで生徒会室を出て行く。
が、不意に扉の前で立ち止まる。
「また今度、話に付き合ってよ?」
「気が向いたらな」
今度こそ彼女は出ていく。
残ったのは俺ひとりだけだ。
さて、急いで向かうとしよう。
窓を乗り越え、飛び降りながらブレスレットを外してポケットに仕舞う。
「今日は仕事じゃない。交戦規程は無視だ――」




