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19. 異端の翼は奔走する

「"申し訳ありません。フレイヤ様が誘拐されました"」


 俺はミーリヤに悟られぬよう、口元を拭くフリをしながらテルラに返す。


「"分かってからどれぐらい経つんだ?"」

「"つい先ほどになります。現在は学校中で捜索が行われているようです"」


 もう騒ぎになっているのか。

 こうなると動き辛くなるな……。


 それよりまずはテルラだ。

 まだ学校付近に居るなら下がらせなければならない。


 時期から見て、()()殺人事件と同一犯の可能性も否定できない。

 つまり敵は穢魂(あいこん)の書を保有している事も考えられる。

 非常に危険だ。


「"テルラは今どこにいるんだ?"」

「"校門前になります"」

「"なら急いで俺の部屋に戻ってくれ。こっちも今から向かう"」


 テルラとの《"魔導通信(マギ・テレパス)"》を切った俺はミーリヤに視線を戻す。


「ん? どうかしたの?」

「悪い、外せない用事が出来た。この埋め合わせは必ずする」

「え、ちょっと急すぎない?」


 彼女の手を取って立ち上がらせる。

 相手は町の中で異端書を使うような奴だ。

 ここも安心できない。


「とにかく今日は俺の部屋まで送る」

「ちょ、ちょっと待って!? 説明が欲しいんだけれど!」


 俺はウェイターを呼び、さっさと支払いを済ませて退店する。

 今度こそ変な目で見られたが構っている暇はない。


「だから説明しなさいって!」


 本来であれば彼女に伝えるべきではない。

 だが学校中に知れ渡っているのなら、遅かれ早かれ彼女の耳にも入るだろう。


「……フレイヤが連れ去られたらしい」

「はぁ? その冗談はさすがに笑えないわよ」

「俺だって信じたくないが本当だ。ところでミーリヤ、疾風(しっぷう)の書は使えるか?」

「使えない、けれど……」

「そうか」


 まだ信じてないみたいだが暴れないならそれでいい。

 今はとにかく時間が惜しい。


疾風(しっぷう)の書、第一章、第三節より引用――」

「ちょっとレイ、一体――」

「――《"ウインドストリーム"》」


 ミーリヤを抱き上げ、風を纏いながら建物を駆け上がる。

 今の時間の通りは人が多すぎる。

 これなら屋根を走ったほうが早い。


「いやぁあああああ!?」


 彼女が叫び続けているせいで、下から大勢に見られているが心配はない。

 この速度なら俺たちが誰なのか確認できないはずだ。



 悲鳴を上げるミーリヤをよそに、屋根の上を飛び続けていると目的の場所が見えてくる。


 男子寮だ。


 俺はすぐさまテルラに連絡をいれ、急いで自室の窓を開けさせる。

 正規の方法で帰るより、この方が遥かに速い。


「ま、待ってレイ! あなたもしかして――!」

「ちゃんと捕まってろよ。――《"タービュランス"》!」


 さらに急加速する体。

 本来の使い方ではないが、この距離なら十分届くだろう。


「お、落ちる!? 落ちるって!?」


 ジタバタするミーリヤを無理やり押さえつけて速度を維持する。



 やがて吸い込まれるように窓枠を潜った俺は、もう一度同じ魔法を発動。

 風を逆噴射してピタリと着地する。


「ご主人さま、申し訳ありません」

「いや、気にしないでくれ。俺のミスだ」


 フレイヤが連れ去られた事に対する謝罪だろう。

 だが彼女はなにも悪くない。


 というのも俺は『迎えに行って欲しい』としか伝えていない。

 つまりテルラは校門前で待機していたはずだ。

 エスパーでもなければ、どうすることも出来ないだろう。


「それで、現状はどうなっているんだ?」

「教員、有志の学生が学校で捜索を行っているようです」

「なるほど……」


 なら校内には居ないと見ていいだろう。

 教員がいるなら《"高次探知(ハイ・ソナー)"》は確実に使っているはずだ。


 だがフレイヤを学校から連れ出すのは至難の業のはず……。



 学校に設置されている探知魔法が、魔力識別型なのは事前に調査済みだ。

 つまり登録されていない外部の人間が、一歩でも足を踏み入れればすぐ反応する。

 加えてもうひとつ強力な効果があるが……。


 とにかく犯行を起こせる人間はかなり絞られる。



 頭の中で敵の目星をつけていると、抱えていたミーリヤが肩を叩いていることに気が付く。

 そういえば降ろすのを忘れていたな。


「あの、本当にフレイヤが……?」

「だからずっと焦っているんだ」

「全然そうは見えないんだけれど……」


 犯人は十中八九『異端書基礎』を担当しているアイツだ。

 だがどうやって()()()()()んだ?


「テルラ、この前聞いた外部講師の行方は分かっているか?」

「ローゲン氏の事でしたら不明です。まさか彼が……?」

「俺の予想だとな」


 どんな方法を使ったのかは分からない。

 だが状況的に間違いないはずだ。


「待って、それは無理よ」


 ミーリヤが突然割り込んでくる。

 タイミング的に探知魔法の事を言いたいのだろうが、まさか知っているとは思わなかった。


「学校には特殊な魔法が張られてるの。だから少しでも変な事を考えれば……」

「そんなことは知っている」

「――え?」

「俺はその上でドラスが怪しいと言っているんだ」


 定点設置型の探知魔法には部外者の感知に加え、もうひとつ強力な防御機構が存在する。

 登録された人間に対する魔力の観測、そして記録だ。


 人は心を乱した時、少なからず魔力にも変化が起きる。

 悪意なんて抱けば一発だ。

 そうした記録は隅々まで装置に記録されてしまう。


 潜入に長けているあの第八中隊ですら対策は出来ない。

 それだけ強固な能力なのだ。


 そうでもなければ俺だって校内が安全だと結論付けていない。


「ともかく装置の確認をする必要があるな」

「魔法がちゃんと機能しているかってこと?」

「もちろんそれもあるが――」

「でも頼んだって無駄よ。そもそも探知魔法自体、一般の生徒には知らされていないもの」


 確かに説明された記憶はないな。


 まあ防衛設備は、知らない人間が多いに越したことはないのだから当然だ。

 さすがに教員は全員把握しているだろうが。


 だからこそミーリヤが知っていた事には驚かされたのだ。


「無理やり装置を探してもいいんだが、ひとつ俺に心当たりがある」

「心当たり、でございますか?」

「そうだ」


 あの()()のことだ。

 校内の事は知り尽くしているに決まっている。


「とりあえず俺はもう行く。ふたりはここで待機しててくれ」

「かしこまりました」


 いつものように彼女が駄々をこねる様子は無い。

 俺の雰囲気から察してくれたのだろう。

 が、ミーリヤは違ったらしい。



「わたしも行くわ」

「ダメだ」

「どうしてよ!」

「ダメと言ったらダメだ」


 相手が相手だ。

 軍用魔法や異端書の撃ち合いになることも十分考えられる。

 そんなものに巻き込みたくない。


 理由は他にもある。

 周りに人が居ると、俺が得意とする戦法が使えない。

 それだけは絶対に避けたい。


「でもフレイヤはわたしの妹で――」

「いいからここで待っていろ!」

「――っ!?」


 ミーリヤがビクリと肩を震わせる。

 つい強い口調になってしまったが仕方がない。


 この一件で彼女に嫌われたって構わない。

 彼女に危害が及ばない事、そして失敗しないことが全てだ。


「テルラ、彼女のことは頼んだぞ」

「命に代えましてもお守りいたします」

「いや、そこは自分の身も守ってくれ……」


 まあこの部屋にいてくれれば心配ない。

 すでに改造は可能な限り施してある。



 俺は放心するミーリヤをテルラに任せて私室に入る。


 わざわざフレイヤを連れ去ったということは、ひとまず殺される事はないはずだ。

 とはいえ敵がいつ心変わりするか分からない。

 ここからは時間との勝負だ。



 タンスの一番下にある引き出しを開ける。

 そのまま急いで中の衣服を掻き出し、底の蓋を外して目的の物を取り出す。

 黒い外套、そして軍服だ。

 すでに隠密行動用の処理も済ませてある。


 俺は素早く着替えながらルカに連絡を入れる。

 

「"おい、いま学校か?"」

「"あ、レイシス!? 丁度良かった、実は話があって――"」

「"フレイヤの件だろ? 俺の要件もそれだ"」

「"あれ、もう知ってたの?"」

「"これから生徒会室に向かう。ルカひとりだけで待ってて欲しい"」


 もし他の人間、とくに教員や風紀委員なんていれば厄介だ。

 これから堂々と犯罪を行うからな。


「"それは構わないけれど、レイシスは今どこに居るの?"」

「"男子寮だな"」

「"てことは全力で走って五分ぐらいかな? 人払いして待っておくね"」

「"じゃあ頼んだぞ。六十秒後には到着する"」

「"任せ――って一分!?"」

「"さっさと場所確保しとけよ"」


 必要な要件を伝えた俺は通信を切る。


 ……いや、ひとつ大事なことを言い忘れてたな。

 まぁいいか。


 とにかく急いで向かうとしよう。


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[一言] これからが楽しみです。
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