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16. 問題児は噂を知る

「お帰りなさいませ、ご主人さま」

「おう、ただいま」


 持っていた荷物をテルラに預け、そそくさとシャワーに向かう。

 この流れも最近になってやっと慣れて来た。


 だが今日は少し違うらしい。


「すみません、少々お時間を頂けますか?」

「珍しいな、どうかしたのか?」

「実は今日、妙な話を聞きまして」


 彼女は険しい顔つきで切り出してくる。

 普段あまり表情を変えない彼女が、である

 ともかくただ事では無さそうだ。


「内容は?」

「少し前に建物の裏手で、男性の遺体が発見された話はご存じですか?」

「ちょっと待ってくれ」


 人が死ぬこと自体は珍しい事でもないが、街中となると話は別だ。




 ……あぁ、思い出したな。

 窓から落下死したって奴か。

 たしか風紀委員に捕まった少し前くらいに聞いたはずだ。


「窓から落ちた奴で合ってるか?」

「はい。実は今日、遺体を目撃したと言う友人と会いまして」

「そりゃ気の毒だったな」


 誰だって死体は見たくないだろう。

 俺みたいに仕事柄見慣れてる人間ならまだしも、普通の人間なら堪えるはずだ。


 まぁテルラの友人がどんな奴かは知らんが。


「その友人とやらはなんて?」

「私自身、彼女の話が信じられないと言いますか……」

「続けてくれ」

「事故現場を騎士団が取り囲んでいたらしいのです。まるで隠すかのように」


 現場検証のために来ていたのだろうが、取り囲んでいたって表現が気になるな。

 しかも隠すかのように、か……。


「それで肝心の遺体なのですが、友人いわく皮が全て剥がされていたそうです」

「待て、もう一度頼む」

「皮が全て剥がされていた、です」


 彼女の言う事が本当なら確実に殺人だ。

 それも猟奇的なヤバイやつだ。



 どう考えても噂になりそうなものだが、俺が耳にしたのはただの落下死だ。


 あまりにも地味な死因だ。

 記憶に残るわけがない。

 というか俺も忘れていたぐらいだ。


 話を聞く限り、情報統制を行ったのはエーリュスフィア騎士団か。



 話が嘘という可能性も当然ある。

 が、テルラがわざわざ俺を呼び止めたぐらいだ。

 友人とやらは彼女にとって信頼できる相手なのは間違いない。


 動くなら早い方が良いだろう。


「悪い、夕飯は先に食べといてくれ」

「またひとりで行かれるおつもりですか?」


 俺がどこに向かうのか、もう察しはついているらしい。


「大丈夫だとは思うが念のためな」

「『念のため』なら私もご一緒するべきです」

「いやでもな――」

「そもそもご主人さまは遺体があった場所をご存じなのですか?」


 言われて気づく。

 そういや覚えていない。

 いや、そもそも耳にすら入ってないな。


「場所をお教えする代わりに、今回は私もお連れ下さい」

「……はぁ、さっさと準備してこいよ?」

「もう出来ております」

「はやっ!」


 どうやら今日に限っては一歩も譲る気が無かったらしい。

 悔しいが俺の負けである。



----



 活気づく通りを抜けた先、テルラに案内された場所はジメジメした路地裏だった。

 この暗さは時間帯の問題だけではないだろう。


「こちらです」

「ふむ……」


 連れて来られた場所には何もない。

 綺麗に掃除された後なのだろう。


 ともかく始めるとしよう。

 テルラが居るが仕方ない。


 一緒にいる時間も長いのだし、どうせそのうちバレていた事だ。


「《"痕跡探知(トレース・ソナー)"》」


 これで少し待てば使われた魔法が分かるだろう。

 とはいえ()()があったのは相当前だ。

 測定できない可能性も十分ある。


「黒の書なんていつの間に保有したのですか?」

「この前覚えた」


 いや、自分で言っといてなんだが無理が――。


「なるほど」


 ――マジ?


「あっさり信用するんだな……」

「目の前で見せられている物を否定しても、どうしようもないと思いますが」

「確かに」


 そういえば保有魔法書の偽装技術はまだ周知されていなかったな。

 ドラグシアだと俺の部隊で試作していた程度だ。




 しばらく待つと、《"痕跡探知(トレース・ソナー)"》の結果が返ってくる。

 俺は思わず眉をひそめる。



 騎士団が事故死で処理した理由はこれか。


「ご主人さま?」

「もう少し待ってくれ」


 さらに念入りに調べていく。

 だが日が経ちすぎているせいで、使われた魔法までは分かりそうにない。


 それでも収穫はあった。


「使われたのは穢魂(あいこん)の書だ」

「たしか異端書のひとつ、でしたよね。どんな物かまでは存じ上げませんが」

「気にすんな、俺も似たようなもんだ」


 騎士団が使ったか、はたまたパニックを恐れて隠蔽したかの二択だろう。

 だが前者の可能性はかなり低い。


 こんな街中で穢魂(あいこん)の書を使う意味が無い。

 騎士団なら駐屯地の牢屋にでも誘拐して、それから使ったほうが遥かに安全だからな。


 つまり異端書を使える奴が、この近くで野放しにされているということだ。


「皮が全部剥がされていたって言ったよな」

「はい。なんでも全身ボロボロで表面が乾――」

「よしもういい」


 よく平気な顔で言えるな……。

 普通は想像するだけで気持ち悪くなると思うが。



 しかし犯人は何故、そんな面倒な事をしたのだろう?


 穢魂(あいこん)の書は、精神に強力な作用を及ぼす魔法を集めた異端書だ。

 当然自白を強制させる魔法もある。

 つまり拷問の線は考えにくい。

 

 こうなると状況的に愉快犯としか思えないが……。


「ちなみにこれ以降、この町で()()はあったのか?」

「私が記憶してる限りではございません」


 ますます分からない。

 こういう猟奇殺人は連続して起こるものだ。

 殺すことが楽しくてやってるのだから当然だ。


 となると、この殺人には何か意味があるのか?


「殺された人は誰か……なんて分かるわけないか」


 遺体を回収した騎士団なら分かるかもしれないが、そうなると俺にはどうしようもない。

 この国では何の権限も持たないただの学生だからな。


「そろそろ引き上げるぞ」

「もうよろしいのですか?」

「これ以上の情報は手に入らないだろうからな」


 危険なやつが潜んでいるかもしれないと分かっただけで十分だ。

 明日からはフレイヤたちと行動する時間を増やしておこう。


 とくに登下校の時間だ。

 校内ならまだしも、こうなってくると外はまったく安心できない。




 帰りがけに今後の計画を練っていると、不意にテルラが声を掛けてくる。


「結構時間が経ってしまいましたね」

「だな。付き合わせて悪かった」

「いえ、私からお願いしたことですので」


 お願い、というよりは半強制だった気がするが。


 しかし彼女の言う通り、もうだいぶ遅いな。

 帰った頃にはいつもだと寝ている時間だ。


 こんな時間に夕飯を作ってもらうのも悪い。


「テルラが良ければ飯でも食って帰るか?」

「私はご主人さまが望む場所でしたら、どこでも喜んでご一緒致します」


 そういう事言うやつに限って、着いてから文句を言い始めるんだよな。

 ()()()()とかいつも文句垂れてたぞ。


 といってもテルラの場合は本気だろうが。

 そういえば彼女は大丈夫なのか?


「食欲はあるのか?」

「人並みにはございますね」


 なんだその変な返し。

 てかあんな場所に居たのだし、食欲が失せてもおかしくないんだがな。


 まあ彼女が良いって言うなら気にしても無駄か。

 見たところ虚勢を張っているわけでも無さそうだし。


「そんじゃ適当に……。いや、丁度いいところに酒場があるな。そこでいいか?」

「もちろんです」


 俺たちはたまたま近くにあった店に入っていく。




 ちなみにこれは余談だが、テルラはとても見た目がいい。

 つまり当然酔った男たちに絡まれるわけだが……。


『私にはご主人さまが居ますので』などと言って一蹴するもんだから大変である。


 そりゃもう俺に矛先が向きまくる。

 まぁここを選んだのは俺なのだし、文句を言えるわけないが。


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