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13. 問題児は本気を出す

 探知魔法の使用痕跡。

 30回目にもなる調査が終わった記念すべき日だ。

 経験上、ドラグシアが裏切者を粛正する際に掛ける期間がこの数字だ。

 とりあえず一安心というやつである。


 振り返ってみれば、ここに通い始めてからかなり経った。

 前とは打って変わって平和な毎日だ。

 時折夢と錯覚する時すらある。


 授業中はフレイヤに苦笑いされ、ミーリヤには散々叱られる。

 たとえサボったとしても今度は図書室で魔法談義だ。

 寮に帰ってもテルラは事あるごとに心配してくるし、とにかく毎日が騒がしい。

 本当に騒がしく、それでいて忙しい。


 でも平和だ。


 俺が()()()()と思い描いていた、欲しかった未来はこれなのかもしれない。




 今日も俺は彼女と会うため図書室へと足を運ぶ。

 もう何度目か分からない。

 とにかく気が向いたらあの場所に入り浸っている。


「ルカー? 入るぞー」


 扉を開けながら先客に挨拶する。

 どうせ今日もまた、いつもの席で本を読んでいるに決まっている。


「あら? 今日は早いんだね」

「まぁな。今度からはもうちょい早くなると思うぞ」


 そう言うと彼女は嬉しそうに微笑む。

 こうして話しているだけだと親近感の湧く、可愛いお嬢様なんだけどな。

 この仕草に騙された人間は数えきれないほどいるに違いない。


「んじゃ、今日も始めますか」

「待ってました!」


 彼女と出会ったあの日以来だ。

 俺たちはこうして授業をサボっては、何度も図書室で魔法談義を繰り返している。

 最初は鬱陶しさすら……。

 というか逃げ出したいくらいだったな。


 だが彼女と話していくうちに気づいたのだ。

 結論から言えば彼女、ルカは本物の天才だ。

 異端書の研究を終えた俺ですら、感心するような仮説を立ててくる時がある。


 つまり話していて楽しいのだ。

 小隊のアイツら以外で、会話が噛み合う人間と出会えるとは夢にも思わなかった。




 そうして今日も魔法書について議論を交わしていると、話題は授業の内容へと移って行った。

 といってもほとんどが彼女の愚痴ではあるが。


 それもそのはずだ。

 俺も気が向いた時には授業に出席しているのだが、教えている内容の質は確かに高い。

 流石、王立であるシトリス魔法学院であると言える。


 とはいえ学生レベルの域は出ていない。

 魔術士見習いが通う学校なのだから当然ではあるが。



 そんな授業だからこそ、ルカにとっては退屈で仕方ないのだろう。

 これは憶測だが、彼女は時間のムダとすら思っているはずだ。

 それほどまでに魔法に対する理解が飛びぬけている。


 これでまだ学生、それも一般人だというのだから驚きだ。

 もしかしたら近いうちに彼女は独学で、今の魔法研究の矛盾点に気づくかもしれない。


「そういやルカはこの前の筆記試験どうだったんだ?」

「もちろん満点――って思い出した!」

「いきなりどうした」


 突然大きな声を出したかと思えば、なぜか彼女は怒り気味だ。


「採点の張り紙みたんだけど」


 たしか職員室前に張り出される奴だったか。

 全生徒の成績をランキング形式で公開することで、学習意欲を上げることが目的だとか先生が言ってたな。


 俺はチラ見した程度だったが、ルカが一位だったのは覚えている。

 あーあと、フレイヤとミーリヤが並んで十位らへんに居たな。


「お前は一位だってな。おめでとう」

「ありがとう! ……じゃなくて!」


 なんだ、褒めて欲しかったんじゃなかったのか。


「レイシスのことを言いたいの!」

「なんだそっちか」

「どうして624位なんて最下位にいるの? しかもあと一点でも足りなかったら再試験だったでしょ?」


 よくそんな細かい数字まで覚えてるな。

 やっぱり頭いいなこいつ。


 ちなみに一番下の俺ですら再試験じゃない。

 つまりみんなちゃんと点数を取っているって事だ。

 真面目なやつしかいないのである。

 一人ぐらい俺みたいな問題児がいても良いと思うんだがな。


「てかギリギリセーフなんだから良くね?」

「はぁ、やっぱり手を抜いたのね……。あなたはもっと評価されるべき人間よ」

「俺は目立たず生きたいんだよ」


 というか目立ったら困る。


 魔術士見習いを育成する学校なんてどこも同じだ。

 どいつもこいつも成績上位者にしか興味がない。

 ここに関しては貴族まで多いのだからなおさらだろう。


 つまり一番下ギリギリを狙うのが最も()()ってことだ。


「あなたがこんな場所で埋もれてしまえば、それは人類に取って大きな損失になるわ」

「流石に言いすぎだろ……」


 確かにこれまでなんども成果を上げてきたが、別に世界のためだとかそんな大層な理由じゃない。

 ドラグシアすらどうでもいい。

 すべては恩人である女王陛下、そしてアイツらのためだ。


「いいえ、絶対にそうよ。あなたはいつも濁しているけれど、本当は天秤(てんびん)の書の本質も知っているんでしょう?」


 顔に出した覚えは無いんだが、鋭いな。

 おそらく会話の中で勘づいたのだろう。


「知らねーよそんなもん。俺が教えて欲しいくらいだ」

「ほらまたそうやって――」


 その時だった。

 図書室のドアが勢いよく開かれる。

 俺たちはすぐさま音のした方を確認し頷き合う。



 戦闘開始の合図だ。


「ルカ! いつも通り俺が引き付ける!」

「ごめん、お願いね!」


 彼女は窓を開け放つと、窓枠に手を掛け大きく飛び越える。

 すかさず疾風(しっぷう)の書を無詠唱で使用、校庭へと飛んで行った。

 スカートが大きくめくれているが気にしている暇はない。


 俺は対峙する相手の目を睨む。


「お前らの相手は俺だけで充分だ――」

「いえ、今日こそは貴方たちを連行させていただきます」


 さらにゾロゾロと入ってくる敵。

 同じ腕章を付けた8人の精鋭たちが俺を壁際へと追いやる。


「増えたと思ったらそれだけか、拍子抜けだな。もしかして人手不足なのか?」

「――っこの! 風紀委員に対する侮辱は重罪ですよ!」


 この程度侮辱でも何でもない。

 ただの指摘だ。


 だが前回の倍の人数を投入されているのは厄介だ。

 本気を出して来た、ということだろう。

 その勝負、受けて立つ。


疾風(しっぷう)の書、第一章――」

「もう同じ手は通用しませんよ! 妨害班、疾風(しっぷう)の書で相殺を!」


 ふむ、自己加速に同程度の風をぶつける作戦か。

 コイツらはそれなりに優秀だと思っていたが、意外と気づくのが早かったな。

 ということで本日よりプランBを解禁する。


「――うわぁあああ!?」


 敵は全員目を覆っている。

 無詠唱の白の書による目くらましだ。

 詠唱はフェイクとしても利用するのが魔法戦の基本だ。


「ははは! 今日も俺たちの勝ちだな! また作戦を練って出直してこいよー!」


 俺はまだ目を押さえている彼らの脇を通り過ぎ、廊下へと一直線で駆け抜ける。

 が、目の前に思わぬ人物が立ちはだかる。


「レイ!」


 ミーリヤだ。

 風紀委員は学院内で、生徒会に次いで強い権力を持つ組織だ。

 だからこそ成績上位者を連れてくることくらい予想済みである。

 まさかそれが彼女とまでは思ってもみなかったが。


「今日あんまり引き留めてこなかったのはそういう事だったのか」

「作戦の決行までは手を出すなってね。諦めて降参したらどうかしら?」


 後ろの風紀委員たちが立ち直るまであと6.3秒といったところか。

 だがミーリヤの実力はこれまでの付き合いから大体分かっている。

 敵が彼女ひとりであれば強行突破が可能だ。


「黒の書――」


 彼女は詠唱を始めているがもう遅い。


「《"タービュランス"》!」


 俺は先ほど準備を済ませていた魔法を発動させる。

 別にあの詠唱はフェイクだけじゃない。

 こういった不測の事態に対する保険も兼ねているのだ。


「――え!? いつの間に!?」


 驚いている彼女を飛び越え図書室から脱出する。

 あとはさっさと学校を出て寮に逃げ込むだけだ。

 俺の部屋、というか学生寮最上階の守りは一級品だからな。


 しかもそれを与えたのは後ろのミーリヤだ。

 あとでじっくり後悔するが――。


「――第三節より引用、《"大自然の戒め"》――です!」


「は?」


 思わず声が漏れる。

 まさかフレイヤまでいるとは思わなかった。

 ミーリヤと違い、サボる俺をいつも見逃してくれていたのだ。

 忌々しい風紀委員なんぞに手を貸すなんて予想外である。


 この程度の拘束魔法であれば余裕で振り切れる。

 だが問題はフレイヤの立ち位置だ。


 廊下が狭いせいで、俺が突っ込めば巻き込んでしまう。

 それともうひとつ。




 この加速ではもう止まることが出来ない。

 気づいた時の俺の判断は早かった。


「フレイヤ、お前の勝ちだ――」


 次の瞬間、進行方向を真横へと強引に変える。

 そのまま壁に突っ込んでめり込んだ俺は意識を手放した。


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