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100/176

100. 問題児は傍観する

 起きて早々、ベッドで横になりながら赤い指輪を手元で転がす。


「これがなぁ……」


 話し合いの終わり際、テルラに手渡された魔導具だ。

 なんでも記憶させた魔法を誰でも使えるようになるらしい。


「インスタンスコア、ね」


 数回使うと魔導具自体がダメになるが、どんな魔法も意のままになる代替詠唱装置。

 それは異端書であっても例外ではない。


 何度聞いてもバカバカしい話だ。

 だがテルラはコイツを使い、回帰の書や例の転移魔法を行使していたという。


「信じがたい話だが、事実は受け入れるしかない」


 ここまで高性能な魔導具、そう簡単に作れるとは思えない。

 だが万が一にでも、もし量産が可能だったとしたら。


「魔術士同士の戦い、ひいては戦争のバランスがぶっ壊れるな」


 ドラグシアであれば『翼』であり、エーリュスフィアであれば二つ名持ちであり。

 そういった強力な魔術士を多く持つ国が勝者となる。それが戦争の常識。


 だがこの小さな魔導具が広まれば、軍事力の評価基準は質より量へ。

 間違いなくそのようにルールが塗り替えられてしまうだろう。


 正直言って、あまりぞっとしない話だった。



----



「チーッス」

「教師にその挨拶、殺されたいのか」


 教え子にその挨拶、クビにされたいのか。


 なんて言えるはずもなく。

 登校してまもなく、俺はベレールに殺意を浴びせられていた。


「今日は重要な話があるって言うから頑張って来たんですよ。少しくらい大目に見てくれてもいいんじゃないすか?」

「ほう、その話よく知っていたな」


「フレイヤが教えてくれましたので」

「……やはりここで始末しておいた方が後世のためか」


 ベレールが心底楽しそうに笑い出すと同時、教室にチャイムが鳴り響いた。

 素晴らしいタイミングとしか言いようがない。


 俺は逃げるように席に急いだ。


「レイシスさん、おはようございますー」

「あぁ、おはよう。それと昨日は助かった。フレイヤのおかげで命拾いしたかもしれん」

「あはは……。それはさすがに大げさだと思いますよ」


 そんな訳はない。

 もし今日の事を教えて貰っていなければ、確実に面倒な事が起こっていただろう。

 始業前にもかかわらず、すでにベレールが教室にいる。

 それだけで『重要な話』とやらの重要度がうかがえた。


「まぁなにも起こらなければいいが」


 ちゃんと出席したからといって面倒ごとが起きないとは限らない。

 というか今までの経験から言って、大抵こういう時は話の内容自体がそもそも面倒ごとである。


「ミーリヤは何か知らないか?」

「関係してるかは知らないけれど、職員室で騎士がどうの、ペアがどうのって話はしてたわね」


 面倒ごとでしかなかった。


「いや待てよ」


 アリシャと組めば全て解決じゃなかろうか。

 彼女であれば時間を奪われる心配もないし、むしろ人前で堂々と会えるようになる。


 ペアであれば二人っきりで話し合う機会が多くても、不審に感じる者はいないだろう。



「よしお前ら。昨日も話したが、今日は早めに決めてもらう必要のある大事な話からだ」


 俺が考えている間にも、ベレールの話はどんどん進んで行った。


 ペア制度。たしかライエンの話では王家の風習を模した物だそうだが、俺の予測では実戦的な意味合いも含んでいると見ている。


 魔術士同士が詠唱のスキを埋めるため、ツーマーセルを組むのはよく取られる手法だ。

 だから早いうちに、複数人での行動を慣れさせる名目もあることは容易に想像がつく。


「ペア相手の選出、および届け出は来週までに済ませとけよ。私からは以上だ」


 彼女は質問を受け付けることも無く締めくくると、さっさと教室を後にしていった。


「さてと」


 早速アリシャにペアを持ち掛けるとしよう。

 そう考えて彼女の元を目指すと、なぜか大勢の人間とすれ違った。


 俺は不審に思い振り返る。

 そこにはすでに人だかりが出来ていた。


「フレイヤさん! 俺と組んでください!」

「おいお前! 先に着いたのは俺の方だぞ!」

「待て待て! それを言うなら俺は入学した時からお願いしていた! 順番的に俺からに決まっている!」


「邪魔だ! どけ!」

「てめえ! 今ワザと腕をぶつけやがったな!」


 言い争う男たち、その中心で目を回しているフレイヤ。

 いや、よく見ればミーリヤも言い寄られているな。


 どこからどう見ても、文句なしの『面倒ごと』だった。


「レイシス様、気になるなら助けに行かれてはどうですか?」

「無茶いうな」


 目の前の惨状を見て思わずため息をついていると、後ろからアリシャに声を掛けられた。


「あの中に俺が飛び込んでもみろ。確実に『平民の分際でー』とか、『雑魚が調子に乗るなー』だとか、この前みたいに難癖付けられるに決まっている」


 フレイヤを取り囲んでいるのは全員貴族だ。

 対して外野からチラチラ様子をうかがっているのはどれも平民。

 この勢力図から見て、俺が突っ込めばどうなるかは目に見えている。


「ではお見捨てになられると」


 首を動かしてアリシャを見ると、目元が少し笑っていた。

 あれはからかっている時の顔だな。彼女が状況を把握しきれていないハズがない。


「ほっとけ。どうせそのうち収まる」


 ペアの届け出を行うには、二人で受付に向かう必要がある。

 だから無理やり組むなんてことは出来ないし、どのみちこの場で決まるとも思えない。


 フレイヤたちには悪いが、余計な事をしない方がかえって穏便に済むだろう。

 なんて結論に至っていたのだが、人だかりの言い争いはさらに白熱していた。


「そこまで言うなら模擬戦で決着を付けようじゃねえか!」

「望むところだこの野郎!」


 模擬戦というとたしか、あらかじめ申請することによって教師立ち合いのもと、ルールにのっとって戦えるというアレか。


 さすがは貴族同士。

 俺の時みたいに、いきなりこの場で魔法を打ち合うようなことはしないらしい。

 いやまぁ、俺は一切魔法を使ってなかったんだが。

 というか冷静に考えたら、俺はまったく悪くないような。


 まぁ過ぎた話だ。忘れておこう。


「そうと決まれば早速今日の放課後だ。逃げるんじゃねえぞ」

「そりゃ俺のセリフだ」

「おいおい待ってくれよ、俺たちも混ぜてもらうぞ?」


 続々と声を上げる生徒たち。

 何だか話が雪だるま式に大きくなっているようだが、フレイヤたちの意見はガン無視なのがまた……。


「お前たち、少しいいだろうか」


 俺が呆れていた時だった。


 ひと際大きな声を上げ、集団の中に威風堂々と混ざっていく一人の男が映る。


 覚悟を感じさせる力強い一歩。

 それはまるで死地におもむく英雄の背中。


「その戦い、私も参加させてもらおう」


 ライエンだった。

投稿作業中に気づいたのですが、今回まさかの100話です。

書き始めた当時はこんなに続けられるとは思っていませんでした。ここまで応援して下さった皆様、本当にありがとうございます。圧倒的感謝です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 100話到達おめでとうございます。大変面白く一気にここまで読み進めさせて頂きました。主人公を取り巻く大きな謎を抱えながら、それに関連するイベントを配するという展開は、飽きさせず今後の展開を期…
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