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第二話 ~裏しかない依頼~

「さて、お嬢さん方。面倒な話は抜きだ。俺に、どんな仕事を頼みたいんだ?」


 酒場から場所を移し、ギルドの奥にある殺風景な個室に入った後の第一声に、俺はそう口を開いた。


 傭兵を雇う理由は様々であり、その中には第三者に知れると都合が悪いものもある。

 法を犯すようなものはともかく、商人がライバルを出し抜くために掴んだ商機の情報だとか、領主がいつ賊の討伐を行うかなど、正しく守られるに値する情報もあるわけで、そのような情報が漏れないように相談事などをする部屋がここだ。


 俺の正面、テーブルをはさんだ向こうには黒髪の傭兵のような安物の武装を身にまとう少女が固い表情で座り、男装した幼い少女はその後ろに悠然と控えている。


 口を開いたのは、黒髪の少女だった。


「護衛の仕事です。私たち二人は、ここから王都まで行きたい」

「護衛ねぇ。王都なら、順調に進めば5日ってところか」

「ええ。確実に5日以内で王都まで送り届けて頂きたいのです」

「『確実に』、ねぇ……」


 仕事としてはかなり楽な部類だろう。

 特に、大都市間は街道の整備もしっかりしているし、国も威信をかけて警備を行うから治安もいい。確かに危険がないとは言えないが、『どう考えてもおかしすぎる』。


「で、その話にはどんな裏があるんだ?」


 目の前の黒髪の少女へと問いかければ、固い表情のままで口を開いた。


「裏、とは?」

「王都に行きたいなら、それこそ、この街からも毎日隊商が出ている。なんせ、向こうは王国最大級の商業都市でもあるからな。隊商に便乗してついていかせてもらえば問題ないだろう? 場合によっては怪しまれもするだろうが、少女二人連れ相手に、そこまで露骨に警戒することもないだろうしな」

「隊商相手だと、向こうの都合に合わせる必要があります。途中でどこかに立ち寄るなんて言われたら、困るんです」

「それにしたって、俺を指名する理由なんざないはずだが? さっき自分で言っただろう。『ハイエナ』『不正昇級男』『ロクな実績もないのに昇級した男』『相棒の枕営業のおこぼれで昇級したクズ』。こんな不名誉な二つ名だらけの男だぞ?」


 黒髪の少女は、この問いに対して口を開かなかった。

 代わりに、後ろに控える少女に手で何か合図を出すと、控えていた少女が中身がパンパンに詰まった袋をテーブルの上に置いた。


「……なんのつもりだ?」

「前金です。中に、500万ジル入っています。5日以内に王都まで送りとどけてくだされば、成功報酬で同額。経費は傭兵負担で」


 言われて袋を開ければ、確かに中には大量の金貨が入っている。

 500万ジルもの大金が本当に入っているのかまではぱっと見は確認できないが、前金だけでも普通の中級傭兵の半年分くらいの稼ぎにはなる金額を提示され、ため息を一つ。


「お嬢さん、交渉の仕方を勉強してくると良い。ここまで積まれると、逆に怪しんでくれと言っているようなものだぞ」

「もちろん、普通ならこんなことはしません。でも、あなたは違うでしょう? 『血染めのハイエナ』さん?」


 その二つ名を聞き、俺が顔をしかめるのと対照的に、黒髪の少女はしてやったりと得意げな顔になる。


「あってますよね? 金さえ積まれれば、誰からの、どんな危険な仕事でも請け負う傭兵さん?」

「……なるほど、裏の世界についても無知ではないと。どこまで知っている?」


 問いかけに応えるつもりはないとばかりに、笑みを浮かべるも黙り込む黒髪の少女。

 そこの黙秘も含めて、この報酬ということだろうか。


 依頼を受けるかどうかについては、考えるまでもない。

 チートともいえる戦闘能力をもってすれば、罠だろうと何だろうと正面からぶち抜けば終わりだからな。

 『目的』のために金が必要だからこそ、『こういう』依頼を引き込むために今まで動いてきたのだから迷うことはない。


 だから、一つだけはっきりさせねばならない。


「いいだろう。受けよう。前金五百万、五日以内に王都に送り届ければ成功報酬同額、経費はこっち持ち。――間違いはないんだろうな? ご主人さんよ」


 俺がそう問いかけたのは、黒髪の少女の後ろに控えていた男装した少女だった。


「彼女が主人? いったい何を――」

「俺も割と最近知ったんだが、立ち方一つでも身分ってのは出るらしくてな。お前さんはどこぞのお転婆姫様らしくうまく振る舞えていたが、そっち子はダメだな。そんな気品あふれる従者が居るものかよ。なあ、女騎士様?」


 そう黒髪の少女に問いかければ、黙り込んでしまう。

 金は欲しいが、ここは譲れない。さらに追い打ちをかける。


「以前、似たような形で依頼が入ってな。さあ成功報酬だと受け取りに行けば、あれは従者が勝手に決めたことだからだのなんだのけち臭いことを言われてな。『ちょっとばかり』受け取りに苦労したんだ。それから、依頼主の確認は取るようにしてるんだ」

「しかし、――」

「もういいわ、リリー。ここからは、私が直接お話するから」


 そう言って、男装していた少女はリリーと呼んた黒髪の少女を制し、一歩前に出る。


「初めまして、傭兵さん。私はマルガ。彼女はリリーで、あなたの考える通り、私の護衛なの。私からも正式に依頼を申し入れさせていただくわ。――これでは不足かしら?」

「十分だ。ただし、あんたら二人分の連名での署名と拇印をいただく構わないな」

「ええ。『噂どおり』で安心しましたわ」


 家名も素性も明かさないという、普通なら二の足を踏むような状況で契約は成立した。


「じゃあ、出発は明日の朝。俺の相棒が戻ってきてからだ。夜も遅いし、異存はないか?」


 特に何の意見も出ないので、そういうことになる。

 そして、さて、ギルドに契約内容を申請しに行くかと部屋を出た時のことだ。


「!? これは……」

「静かに。ゆっくりついてこい」


 入口の方から怒号が聞こえる。

 何が起きているのか不明な中でクライアントを置いて動くのは逆に動くのは危険と判断し、ともに様子を見に行くことに。


「臨検だ! 大人しく道を開けろ!」

「うるせぇ!! なんで俺らがお前らの言うことを聞いてやらなきゃならねぇんだ? あぁ!?」


 そこでは、傭兵たちと領主の兵たちが対峙している。

 そして、クライアントたちが目に見えて動揺しだすのを見て、思ったよりも骨が折れそうな仕事になることを確信した。





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