隣の神社
「腹が減った、、、」
と神は言った。なにせ神はここ半月ほど食事をしていなかった。
と言ってもここで言う食事というのは米や肉のことではない、神が食べるのは人の信仰である。
神社の参拝客の願いを叶え、それで得られる信仰心を糧に神は生きているのであった。
しかしながらここ半月の間この神の神社には参拝客というものが人っ子一人訪れて来ていなかった。
「このままだと儂は死んでしまうぞ、何もかもとなり神社のあいつのせいじゃ。」
というのも半月ほど前、この神社より少しだけ都会に近い場所に出雲の方から神社が移築されて来たのだ。
そこの神がやたら腕利きらしく参拝客の願いを次から次へ叶えていくものだからこの神社には御利益があると周りの神社の参拝客はみーんなその神社に吸い取られてしまったのだった。
「となりのあいつは今頃飯をたらふく食べているんだろうなぁ、、、」
そんな事をぼやいていると階段がコツコツと音を立てた。
「おっ?」
そして一人の男が鳥居をくぐり、境内へ入って来た 、半月ぶりの参拝客である。
不思議な男だった小柄でありながら威厳があり、顔は人を惹きつけるにこやかな笑顔をたたえていた。
男はそのまま賽銭箱に五円玉を入れそのまま二礼二拍手をして願いを願った。
「仕事が忙しくて死んでしまいそうなんです。神さまどうか仕事を手伝って下さい。」
それだけ言って男は行ってしまった。
「何やらえらく直接的な願いだなぁ。ただ半月ぶりの食事のチャンスだ、これを叶えない手はない。」
まずは男が何の仕事をしているのか知らなければならない。
神は男の後を追った。
「それにして神の手も借りたいほど忙しい仕事とはなんだろう?あの男ブラック企業にでも勤めているのだろうか?」
男は道を右へ左へと曲がって都会の方へ歩いて行った
やがて男は彼の職場らしき所に着いた。
「神様よくぞおいで下さいました。」
「これはどういうことだ?」
男が入って行ったのは件のとなり神社だった
「私はこの神社の神をしているものです。この神社は参拝客が多く、始めの方はありがかったのですが次第にその願いをさばききれなくなってしまったんです。お宅の神社は仕事が忙しくなさそうで羨ましい、どうか我々の仕事を手伝っていただけないでしょうか?」
どこの人も神も、隣の芝生は青いのだ。