小さな足の大きな一歩
「…すみません、申し遅れました。私、王立シルヴィアナ魔法アカデミーの学園長の、アンガスト・ヘーゼルダインと申します。エマーソン神父の古い友人です。」
「…は、はい」
「この度は誠にご愁傷様でございました」
「…はい、それで…あの…」
アンガストはパッと目をステラの方へ向けて言った。
「実は、先ほどの歌をお聞きして、昔のエマーソン神父のことを思い出したのです。あなたは彼にそっくりだ」
(…血が繋がっていないのに…?)
ステラは疑問に思ったが、アンガストの話を聞く。
「彼はその昔、自分の魔法で人々を癒したいと言っていました。しかし、彼はその努力が仇となり魔力に身体が蝕まれ、魔法看護の道を諦めたのです。」
「…!」
これまで語られなかった父の過去に息を呑んだ。
「どうか、彼の遺志を継いで、私の学園で声楽を学びませんか?人々を救いませんか?」
「…え、えっと…」
返答に困っていると、カイルが間に割って入った。
「…シルヴィアナ王立アカデミーは、全寮制男子校でしょう?ステラは…ウチの妹はれっきとした女です」
「構いません!特例として認めましょう。しかし、異性がいるとなにかと大変ですから性別を隠して学んでいただくことになりますが」
「っ……それに、うちにはそんな名門校に払えるような学費はありません」
「構いません!学費は私がもちますし、この教会に寄付することも約束します」
全く食い下がる気配のないアンガストにカイルは胡散臭ささえ感じる。
「…うさんくさいとお思いでしょう?
…ただ私は、親友の遺志を継いでほしいだけなのです。あなたにはその素質が十分にある。さあ、お決めください」
ステラはちらりとカイルの方を見る。
カイルはふーっとため息をついて肩をすくめた。
これは「好きにしろ」という彼のジェスチャーだ。
「私、私は………行きたい…です。」
ステラは恐る恐るカイルを見た。
カイルはまたもや肩をすくめるだけだった。