レッスン初日〜サミュエル・ガーネット〜
サミュエル・ガーネットは珍しく物思いに耽っていた。
思えば、一目惚れだった。
これまで特定の人間に特別な感情を持ったことがなかった自分がこんなにも一喜一憂するのかと驚くほどだ。
もとからの顔立ちが整っていて人気があったため、学園内の生徒と遊びで付き合ったり、単位のために教師と関係を持ったことはあったが、いくら体を繋げても心はどこか別のところにあった。
しかし、今は全く違う。
全神経が心に直結していて、視覚、聴覚、触覚…全てでステラを感じることに喜びを覚えるようになった。
「…サミー…?」
「あ、あぁ、悪い。考えごとしてた。」
そして今、想い人は自分の目の前で歌っている。
それを見てサミュエルは正気に戻り、次のレッスンへと進む。
「よし、じゃあ次は腹式呼吸な」
「…んっ…くすぐったいっ…」
さりげなくステラの腰に手を回す。
「ほら、胸式呼吸だと声量出ねぇぞ?」
そう言ってわきわきと腹をくすぐると、ステラが可愛らしく身をよじった。
その顔は見えないが耳が赤いことから恐らく顔も真っ赤になっていることだろう。
「うぅー…くすぐったいーっ!」
「ほら、いつまでたっても出来ないままだぞ?」
「んーっ…サミーの意地悪っ…」
くるっとこちらを向いたステラは涙目で上目遣いをしていた。
「…っ…悪い。つい、な。」
鼓動が暴れているのを必死に隠しながらパッと手を放した。
それと同時に自習時間終了のチャイムが響き、アーサーが入ってきた。
「終わったか?レッスンは。」
「うんっ!サミー、上手なんだよ?」
「…オレ、トイレ行ってくるわ」
そう言って2人のもとから離れ、バスルームに入った途端、扉にもたれかかってズルズルと座り込んだ。
以前の自分ならすぐに手を出していたのだが、ステラのことになると臆病になる自分が嫌になる。
(…嫌われたらどうしよう、か…女々しいな、オレ。)
未だ収まらない鼓動を感じながらふーっと深呼吸をした。