朝の挨拶
「…んじゃ、行って来るな」
「いってらっしゃい」
ステラはもともとの癖で早く起きてしまうので、最近はアーサーを見送るようになった。
「…後でね。」
「おう。」
部屋の扉から小さく手を振るステラに返事をして歩いていく。
その時「新婚みたい…」と思ったのはアーサーの心の中だけの話。
そしてアーサーが出て行った後、サミュエルが起きる前に着替えて身支度を済ませる。
それが済むと、今度は低血圧気味なサミュエルを起こす作業に取り掛かる。
「サミー?おーきーてー?」
「ん…?」
今までカイルに起こしてもらっていたステラは自分が起こす側になって初めて起こす側の苦労を知った。
「…ステラ…?」
「おはよう、サミー」
そして毎朝カイルが自分にしていたように、サミュエルの額にキスをする。
すると、サミュエルは決まってガバッと起き上がり、ステラを抱きしめるのだった。
「…はよ。」
「うん、ほら、着替えて?朝ごはん食べに行こ」
「…ん」
そう言うと、サミュエルは上のシャツを脱いでいく。
「わ、わわっ!待って!」
「…何を?」
「バ、バスルームで着替えて!」
顔を真っ赤にしてぐいぐいと自分を押し出そうとするステラを見て、サミュエルの加虐心が煽られた。
「…ふーん」
「きゃっ!」
ステラの手を引いて半裸のサミュエルはぎゅっとステラを抱きしめた。
「…フッ。顔真っ赤。どうかしたのか?」
「〜〜っ!」
「…ま、いいけど?」
そう意地悪に言ってサミュエルはステラを離し、鼻歌を歌いながらバスルームへ入っていった。
ここ最近のサミュエルは誰も見たことがないほど上機嫌で〈氷の貴公子〉の人気がますます上がっている。
「もー…びっくりしたなぁ」
ステラはあまり動じた様子もなく、ただ鈍感にそう独り言ちた。
対するサミュエルは
「………」
1人バスルームで悶絶していた。