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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
2/14

友達はいない

 昼休み、屋上で独りパンを喰う。一年の時からここでよく食べている。二年に上がり一学期を終えてもそれは変わらない。教室で食ってもいいんだが、授業でのストレス発散させているかの如くやかましい。そしてうるさいなと少し意識するだけで心の声が聞こえてしまいさらにやかましい。というわけでここに避難しているわけだ。


 友達がいないだけなのではないか、なんて思うやつもいるだろう。否定はしない。友達が欲しいと思ったこともない。自分から人に関わろうとしない。話しかければ答える、相槌を打つくらいしかしない。結果、俺はかなり抽象的に「そういうやつ」と言われるようになった。好都合だ。下手に話して心の声のことを知られたりしたくないしな。


 二つ目のパンを口に運びながら思う。やはりここはいい。風が気持ちよく人がいない。風や空気、山などの景色には心の声などない。そんななかだと自分は異常ではないただの人間でいられる。晴れの日に限るがな。まぁ雨の日には雨の日用のスポットがあるので別に困らないのだが。


 三つ目のパンに手を伸ばしたときガチャ、キィとドアノブが捻られドアが開く音がした。


「よぉ。やっぱまたここか」


「まぁな。あんなやかましいところにはいたくない」


 扉から姿を現したのは俺と同じ紺色のブレザーと爽やかな雰囲気を纏い常に笑顔の男子学生、松葉 洋介だ。こいつはざっくり言えば人気者だ。容姿、学力、運動、性格、どれをとっても文句の付けようがない。人が寄ってくるのはもちろんだが、自分から人に寄っていくことも多く、クラスでこいつと話したことのない人間はいないだろう。


「いいのかクラスの人気者がこんなとこ来て」


「たまには羽を伸ばしたくなるのさ」


「だったらやめればいいだろ。ご機嫌うかがい」


 こいつは天然の人気者ではない。誰にでも話を合わせ相手の性格から自分の言動を選ぶ。


「それはできない。周りからちやほやされるのって結構気分いいんだぞ?」


「遠慮なくぶっちゃけすぎじゃないか?」


「どうやったってお前には誤魔化しようがないからな。心の声とか反則だろ」


 こいつは俺のことを知っている。


 松葉洋介という人間は誰にでも声を掛け、親しくなろうとする。人気者でいたいから、敵を作りたくないからなどの理由なので誉められたことではないのだが。そんなこいつは俺のことも例外ではなく声をかけてきた。『大人しくてあまり話したがらないタイプのやつだな。とりあえずは流行や芸能の話は避けて・・・・』などごちゃちゃと考えながら話してくるので


『疲れないかそれ?』


 と思わず俺は言ってしまった。こいつの瞳孔開きまくったアホ面は鮮明に覚えている。なかなか面白かった。それにこいつは基本笑顔だからな。珍しいというのもあった。現に今も笑顔だ。人工の偽物だがな。


「だったらその爽やかスマイルもやめてくれ」


「癖になってるから無理だ」


『お前も笑顔を心掛ければ?』


「断る。てか心で話しかけるな」


「これ便利だな。他のやつに聞かれる心配ないし」


「俺からお前に話すことはできないがな。そもそもお前と秘密の会話なんざしたくない」


「あぁ、俺もしたくない」


「じゃあなんで言ったんだ」


「はっはっは!」


『やっぱ気が楽だ』


「・・・・はぁ」


 アホ面を曝して以降、こいつは俺が一人の時を狙って話しかけてくるようになった。主に愚痴やら不満やらを洩らす。なんでも本性を見破ったのは俺が初めてだったらしい。バレないようにしていたが誰か本音でしゃべれるようなやつが欲しかったとも言っていた。見破ったと言われたが反則みたいなものなんで少し後ろめたさがあった。だからかもしれないが、こいつが俺になんでわかったのか似たようなやつと会ったことでもあるのかなど根掘り葉掘り聞いてきた際、心の声のことを話してしまった。驚くことにあっさりと信じた。それどころか「だからバレたのか」なんて笑い(つくりものではなく本物)ながら納得していた。その時少しだが嬉しかった。ひょっとしたら俺もこいつと同じように隠し事無く話せる人間が欲しかったのかもしれない。


 余談だがお互いのことは他言無用にしている。まぁどちらも口を漏らしたところで信じてもらえないだろうが。心の声が聞こえるなんて非科学的なことは冗談にしか聞こえないだろう。松葉の裏の顔を話したところで俺と松葉とでは信頼度が違う。俺の言葉と松葉の言葉では確実に松葉が信用される。そして俺は松葉に嫉妬しただの嘘つきだのと罵られるのだろう。


「そういや、お前の小説薦められたぞ」


「知ってる。そんでウザいんだよなーとか思ってたな」


「・・・・・本当悪趣味な能力だよな」


「悪用はしてないから安心しろ。あと俺が作者だとか言うなよ」


「わかってますよ解心先生」


「ペンネームで呼ぶな」


 解心というのはペンネームだ。本名を使うのは嫌だったので主人公の、そして俺の力から適当につけたのが解心だ。


「はいはい。にしてもこんな人気になるとはな」


『書いてみれば?とか割りと適当に言ったんだけどな』


「適当に言ってたのかあれ」


「あ、やべ」


 しまった、と言う表情で松葉は口元を抑えた。それ、意味無いから。


 実は小説を書いたきっかけはこいつだったりする。「心が読めるって小説とか漫画とかにありがちだよな」なんて話から発展していったと記憶している。


「まぁ別にいいけど。もともと好きだったから」


「そういや、小説とか漫画好きなんだっけ?」


「まぁな。アニメも見るぞ」


「意外だわ」


 風景同様小説、漫画、アニメからは心の声は聞こえない。だから単純に楽しむことができる。本当に裏のない人物というのが物語の中では生まれる。現実ではないとわかっていてもやはり憧れてしまうものだ。・・・・・まぁ逆にとんでもない本性を隠す奴がいたりもするが。


「そういう系の友達とかつくれば?」


「ネタバレされるからつくらない」


「いやそんなん口止めすりゃ・・・・そっか聞こえちまうもんな」


「そういうことだ」


 まぁそこら辺の会話聞いてたらたまたま読んでた本のオチを聞いてしまったこともあるんだが、友人になれば会話が増えネタバレ率も増えてしまうためつくらないと言った方が正しいか。


「そこらへんは不便だなあ。でも有益なことの方が多いか」


「そうだな。正直聞こえない生活なんて考えられない」


「だろうなあ。反則じゃね?なんか弱点とかねぇの?こうすれば聞こえないとか」


「方法は知らんが、心の声が聞こえない人はいたぞ」


「本当かそれ!?」


 前のめりになって尋ねてくる。驚かせるなよ。あと近い。お前一部の女子に妄想のネタにされてるんだからな。そういうのやめろ。気持ち悪い。


「会ったのは今日が初めてだけどな。一年通して気付かなかったってのは不思議だが」


「そういやどっかのクラスに転校生が来たとか聞いたな」


「なるほどそれでか」


「今までそんなやつに会ったことは?」


「ない。単に聞こえなくなったんじゃないかとも思ったが、彼女の声だけ聞こえないみたいだ。さっきお前の心を当てることができたしな」


「そいつが何か特別ってことか」


「それと声が聞こえない代わりに心が綺麗だと思った」


「は?思ったって何?」


「正確には『わかった』かな。心の声と同じようにスッと頭の中に入り込んで来たんだ」


「え、お前そういうのもわかんの?」


「いや、他の奴はわからん。彼女だけだ」


 まぁお前の心が綺麗でないことはわかるがな。でもそれは同じ「わかる」でも別のもので推察に近いものだ。


「つまり綺麗な心は聞こえないってことか」


「そうだな。とりあえずその説が最有力だ」


 ただ単に万人の心が聞こえるわけではなくて、たまたま今まで出会わなかっただけだとか、心が綺麗だというのは気のせいで見た目が綺麗なだけ、なんていう可能性もあるが、おそらくそれはない。今まで聞こえなかった人間はいないと言ったが、それはすれ違った人たちも含めた話だ。それと彼女は綺麗系ではなく可愛い系だった。


「なぁ、綺麗ってどんな感じなんだ?」


「どう、か。なんだろうな。この屋上の眺めとはちょっと違う気がするな。でも確かに綺麗だと感じた。思わず口に出してしまったぐらいだしな」


「・・・・・・え?」


『口説いてんじゃんそれ・・・・』


「口説く?」


「勝手に聞くのやめてくんない?落ち着いて会話できないんだけど」


「いいから答えろ」


「はいはい。てか、言わなくてもわかると思うけどなあ。考えてみろよ。突然、『君、綺麗だね』って言ったんだぜ?」


「そんな言い方はしていない。それにそんな意図もない」


「あのな、そんな意図があるかなんてお前みたいにわかるわけじゃねぇんだよ。綺麗とか可愛いっていうのは褒め言葉だ。つまりあなたの事をよく思ってますよって言ってるようなもんなんだよ」


「そんなもんか?」


「そんなもんだ。お前の好きな漫画やら小説でもあるだろ。主人公がヒロインと出会って主人公が可愛いと思った、美しいと思った、みたいな展開」


「確かにあるな。それで十中八九二人はくっつく」


「だろ?普通はわかるもんだけど、お前は普通じゃないからな。例えるならずっとカンニングしてるようなもんだ」


「カンニング?」


「答えはわかるけど解き方はわからない」


 ・・・・・なるほどな。答えはいつでも知ることができるのだから知ろうと努力する必要がない。故に解き方を知らない。当然だな。本に書いたのも「こう考えるだろう」ではなく「こう考えた」という過去の体験を参考にしたものだ。心のことを想像・予想したことは無いかもしれない。カンニングとはうまく言ったものだ。だがそれは半分正解で半分外れだ。


「そういう男女関係に関心がないだけだ。表情から読むことはないからそれは正解だが、行動の裏を想像、予測することはある」


「あーなんかそんなことやってそう」


 ケラケラと笑う。今のがバカにしているということは流石にわかった。少し仕返しをしたくなった。


「そういえばさっきの話だが、お前の周りの女子もそんな感じだな」


「ん?何が?」


「お前が似合ってるだとか可愛いとか言うと女子どもは自分に気があるんじゃないかなんて思ってるぞ」


「うわぁ・・・半分は社交辞令なんだけどなあ。いろんな人に言ってるの知らないの?」


「お前、さっきは意図はわからないとか言っておいて・・・」


「いやいろんな人に言ってれば普通そういうやつってわかるだろ」


「恋愛脳ってやつだろ」


 脳内お花畑とも言うがな。


「あ、なるほど。てかお前俺の周りが気になってんの?盗み聞きするくらいなら輪に入ってくればいいのに」


「断る」


 誰があんなところ入るか。


「お前会話苦手だからな」


「それもあるが、単に傍から見るのがおもしろい」


「は?おもしろい?」


「気になるなら教えてもいいが、後悔するかもしれんぞ」


「・・・・・・教えてくれ」


 欲求に勝てなかったか。多分お前が思ってるよりドロドロしてるぞ。


「お前の周りの女子はほとんどがお前狙いだ」


「・・・・・おう」


 肯定しづらそうだな。「自分はモテる」って言うようなもんだからな。気づいてたのはこいつなら当然か。


「そしてお前の周りの男子はお前の周りの女子を狙っている」


「・・・・おう?」


「女子は敵を減らすために他の女子を周りの男子とくっつけようと画策している」


「えぇ・・・・」


 松葉の顔が曇っていく。だから言っただろう後悔すると。


「傍から見ればどうなるか展開がとても気になるんだが、巻き込まれたくない」


「・・・・・聞かなきゃよかった」


「忠告はしたぞ」


「それはそうだけどよお・・・・はぁ、独りのお前が羨ましくなってきた」


「お前のことを羨む奴のほうが多いだろう。まぁ、俺は違うが」


「そんなこと言うのはお前ぐらいだ。友達にはそんなこと言われたことないし」


「友達か。友達ってどこから友達なんだ?」


「なんだそのザ・友達いない奴の台詞は」


「幼い頃は普通にいたんだがな。段々話さなくなった」


 話せなくなった、のかもしれないが。


「ちなみに俺はお前のことを友達だと思ってない」


「お、奇遇だな。俺もだ」


「そりゃよかった」


「普通はよくねぇんだけどなあ」


 友達ではない。かといって知り合いってほと遠くはない。さらに言えば知り合いと友達の間というわけでもない。よくわからない、というのが結論だ。よくわからない人間と腹割って話して大丈夫なのか、とは不思議と思わない。信頼はしていないが信用はしている、といった具合だらうか。


「ん?誰か来るな」


 カタンカタンと階段を上がる音がする。おそらく一人だ。


「お前の追っかけじゃないのか?」


「えーわざわざ来るかこんなとこまで。しかも一人で」


 確かに来るなら何人かで騒ぎながら来そうだな。


 ガチャリとドアノブが捻られ扉が開く。


「・・・・あ」


「どうした?」


「え?あ、さっきの・・・・」


 扉から出てきたのは心の綺麗な彼女だった。



 

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