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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
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唯一無二の君

最終話

 この物語は被害者のためのものではなく、加害者に当てたものだ。きっと君たちはそれが悪いことだとか、人が嫌がることはしちゃいけないとか言われてきただろう。だが、そんなことを言われたところでやめる気なんてさらさら起きない。だから私はこの方法を選んだ。いつまでバレずにできる?バレない根拠はあるのか?バレたらどんな目に遭う?どんな目で見られる?そんな想像をする手助けができれば私は満足だ。人を想ってその行いを止められないのなら保身のためにその行いを止めろ。これは忠告ではなく警告だ。それでもやるというのならせいぜい痛い目に遭うといい。

 著者 如月 解心


 昼休み、屋上への階段を登りながら本を閉じた。


 夏休みが終わり、既に二学期が始まっている。最近は「学校だるいわー、夏休みもっとあればなー」なんて声がしなくなってきた。


 夏が過ぎたとは言えまだまだ暑い。上に行くほど暑さは増し、階段を登るほど汗が垂れ落ちていく。汗を掻くのは好きじゃない。むしろ嫌いだ。だが、不思議と登るのを止めようとは思わなかった。いつも行ってるからではなく、行かなきゃいけない。そんな勘が働いた。


 階段を登り終わって扉を開くと陽射しが飛び込んできた。暑い、とまだ思う時期だが今日の太陽は暖かかった。空を見上げると青い空と白い雲が広がっていた。一学期末の屋上の空は黒い雲ばかりで今のこの光景はなんだか久しぶりだ。やはりこの空が一番美しい。青と白さえあればいい。黒なんて必要ないんだ。


 そういえば美崎と会った日もこんな空だっただろうか。


 そう思い出して目線を上から前へ戻すと先客がいることに気付いた。こちらに背を向けて突っ立っている。制服を見てそれが女子だとわかった。それが誰だかすぐにわかった。彼女が振り返る。顔を確認すると思った通り美崎だった。


「久しぶりだね」


  笑っているのと無表情との間のような表情で、こちらにギリギリ届く声で美崎は呟いた。

 

「そうだな」


 妙な緊張感を抱きながらもハッキリと返答した。彼女は戻ったのだろうか。確かめるのが怖くて未だに心の声は聞いていない。


「あのね、私いじめられなくなったの」


「・・・知ってる」


 それは既に調べた。というか二学期になってからそればかり気にして過ごしていた。


 無事夏休み中に書き上げられた俺の二作目、その名は「疑心」。


 成績優秀、運動神経抜群な高校生の少女である主人公は表向きは非常に周囲から好まれる態度なのだが、実は腹黒く歪んだ性格の持ち主、とまぁただの黒崎だ。回りくどいいじめも行っているし隠れてタバコを吸っていることなんかもまるごと頂いた。


 そしてストーリーなんだが、少し特殊な形をとっている。いくつも分岐しているのだ。いじめの被害者が耐えきれなくなって主人公を刺し殺した。いじめがバレて学校での地位を失い、周囲から蔑まれて精神的に追い込まれ自殺、もしくは親に勘当され流浪、あるいは・・・・と多岐にわたる。バレ方も様々だ。クラスメートが怪しんで教師に報告。教師が直接目撃。被害者が記録する。取り巻きが主人公の地位を妬んで裏切るなどなど。その他、取り巻きにはすぐさま主人公を見捨てる役を担ってもらった。「私は命令されただけ」、「私たちはやりたくなかった」なんて言われて絶望する黒崎・・・じゃなくて主人公はスムーズに書けた。少々やりすぎでは、と担当さんに怒られてしまったが。担当さんには無理を通してなるだけ早く出版してもらった。本当に頭が上がらない。


 その甲斐あってか二学期からはいじめはない。美崎のクラスの人間はもう美崎に対して関心がないというのが最も近い。人の噂はなんとやらで時間が解消してくれたようだ。


 しかし、黒崎の取り巻きたちは違っていた。黒崎にいつやるのかと持ちかけていた。だが、黒崎は既に俺の二作目を読んでいたようで、取り巻きたちにやや怯えた様子を見せていた。それを取り巻きたちに怪しまれていた。


 さらに最近は警戒心が強まってしまってタバコが吸えてないらしく、ストレスがたまっているようだ。そこからクラスメートや教師陣に素っ気ない態度、いつもの好かれる対応をとることができないでいた。そして『印象を悪くしたんじゃないか』『信頼が揺らいだかもしれない』と不安に駆られ『この人はいま信用できる人間だろうか』と疑心を抱く。それはどんどんと大きくなっていくだろう。


 お前がそうなることを願って「疑心」なんてタイトルをつけたんだ。願いが叶ってなによりだ。


 ストーリーと関係ないタイトルだからどんな意図があるのかって担当さんに聞かれたっけな。もちろん答えなかったけど。「好きに想像してください」なんて適当なこと言っておいたがあれでよかったのだろうか。


 余談だが、この作品は割りと評価されているらしい。ネットを見ると、某RPGにちなんで「解心の一撃を喰らった」「いじめ界へ改心の一撃になればいいな」「この場合、解心の一冊じゃね?」なんて上手いこと言うなと感心した。「作者、心の闇深すぎwww」というコメントを見たときは苦笑するしかなかったが。


 何はともあれ黒崎に関しては思い通りになってくれた。


「そっか、もう知ってるんだね」


 問題は美崎だ。あくまで戻るかもしれないという一抹の希望に懸けて俺は行動した。戻る保証はどこにもない。


「ひょっとして、何かしてくれた?」


 !・・・直感だけで辿り着いたのか。いや、いじめが止む原因として思い浮かぶのが俺ぐらいだっただけなんだろう。思っただけとはいえ、『たすけて』と俺に願ったのだから。


「・・・・そうだ」


 何をしたのかは言わなかった。どこかそれは躊躇われた。まだ美崎を疑う心があるからかもしれない。


「・・・・そうなんだ」


 ひとりでに美崎はそう呟いた。


 何を考えているのかやはりわからない。あの美しさを取り戻せたのかもわからない。俺は心を聞く覚悟を決め、美崎に意識を集中させた。


 その時。




「『ありがとう』」




 俺が見たのはかつて何度も見た笑顔だった。汚れや陰の無い、純粋無垢の笑み。


 俺が聞いたのは二つの声だった。一つは肉声。見た目に相応した可愛らしい声。もう一つは、俺が彼女と会ったときに求めたもの。綺麗で美しく澄んでいて、なんて表現していいのかわからない。


 考えていた。何でこんな能力を持って生まれたのだろうと。やっとわかった。この声を聞くためだ。この人を救うためだ。この人に出会うためだ。


 そう思えるほどの感動だった。


「え、き、如月君!?」


 美崎が声をかけてくる。その顔はよく見えない。霞んで見えない。そうか、俺は泣いているのか。無理もない。それほどまでにあの声は、敢えて言うなら素晴らしかった。そんな陳腐な言葉で収まるものではないが。


 涙を見られるなんて正直堪えられるものではないが、我慢する気にはなれなかった。我慢するということは抵抗するということだ。それは勿体ない。この感動は死んでも忘れないほどに浸らなきゃいけない。きっとこれ以上のものはこの世に無いのだから。


「だ、大丈夫?」


 声音でしか判断できないが、心配してくれているんだろう。心の声はもう聞こえなかった。聞こうとすると心が綺麗だということがわかるだけだった。それでいいんだ。もう一度聞きたいだなんて思わないから。そのまま綺麗なままでずっといてくれたらそれでいい。


「大丈夫だ。ちょっとお前の笑顔を見たらさ」


 涙を拭いてしっかりと美崎を視認する。心配半分、疑問半分といったところか。そんな様子を見て美崎らしいなと思った。


 本物が欲しい、と願った人がいた。それを見て俺にとっての本物は何か考えた。俺を絶対に裏切らない人。100%信用できる人。いろいろ考えたが、どれもそんな人間はいないと諦めた。けど今、目の前にいる彼女は、間違いなく俺にとっての本物だ。


 俺が美崎を救ったと美崎は思ってるが、逆だ。美崎が俺を救ってくれたんだ。ずっと独りで周りを疑い生きてきた俺にとって唯一の存在になってくれた。


「ありがとう」


 自然と口からでた言葉は確かに美崎に届いたようで驚いた表情を見せた。


「初めて見たよ。如月君の満面の笑み」


 俺は笑ってるのか・・・きっと美崎の前でしか出せないんだろうな。


 俺が無愛想で感情を滅多に見せなくなったのは人を疑うようになってからだった気がする。感情を見せることは他人に自分を理解させることだからだ。こんなとき怒る、こんなとき悲しむ、それを覚られることが怖かったんだ。


「如月君の笑顔、私好きだよ」


 そういう美崎も笑顔を見せた。あぁ、俺も好きだよ、その笑顔。


「あ、えっと、今のはその、笑顔だから!笑顔だけだから!」


 なにやら慌てた様子で捲し立て、わちゃわちゃ手を動かして必死に何かを否定する。その様子がなんだかおかしくて、それでいて可愛らしくて思わずクスッと吹き出してしまった。


「わ、笑わなくてもいいじゃん」


 拗ねたように唇を尖らせる。そんなところも無邪気で可愛らしい。


「今日はいろんな表情見せるね。なんだか別人みたい」


 ふぅ、と一息ついて美崎が尋ねてきた。


「別人か。確かにそうかもな。今お前に見せてるのがきっと本当の俺なんだ」


「じゃあ前までのは?」


「あれは・・・偽物ってわけしゃないんだが。警戒心で出来た仮面ってところかな」


「・・・・ちょっとわかるかも。誰にも気を許してないっていうか。松葉君には少し許してるみたいだったけど。でもいいの?わたしに話しちゃって。隠してるんだよね?」


「いいんだ。お前だったら。・・・・・やっと出会えたんだから」


 最後の方は独り言のように呟いた。美崎には聞こえていなかったようで首を傾げている。


 全てを話そう。心の声が聞こえることも。美崎だけその心の声が聞こえないことも。全部。


「あのさ、実は俺・・・・」


 そうやって心の壁を壊していくんだ。一作目の主人公と違って俺は見付けられたから。本心を曝け出す。大丈夫だ。彼女ならきっと信じてくれるし、真の意味で分かち合える。


 やっと出会えた俺にとっての唯一無二だから。





解説というかこんな工夫してみました自慢。


今回、天気と色を結構意識しました。美崎と出会った日は晴れ。黒崎と出会った日は雨。美崎が二度目に屋上に来たときは曇り。美崎が泣いたのは雨。とかその他もろもろ。


色は黒と白を特に意識してました。空が黒いとか。バスケの対戦相手も黒です。その時のタイトルの意味は二重です。美崎のミスが対戦相手の好機になった訳ですが、黒崎が美崎を攻めやすくなったって意味もあります。晴れた日(美崎)は白い雲が~とか。黒崎のことを白々しくって皮肉っぽく言ったりとか。美崎は白。黒崎は黒って感じです。美崎の心の声が聞こえるようになった日は雨で空が黒くなっているってのは黒崎に美崎が黒く染められたとかなんかそんな感じ。


まぁ他にも意味深な部分とか考えて書いてますけど長々と書き連ねるのはあんまよくないと思うんでこの辺で。読んでくれた方、本当にありがとうございます。感想くれたらもっとありがたいです。


それでは次回作で(できれば)お会いしましょう

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