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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
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書くべきこと

 夏休み間近、屋上にてあいつを待っている。ここんところ、屋上に来る度空を見上げているが、晴れた空は無かった。雨は降ったり降らなかったりするが、いつも黒味がかった灰色の雲が陽射しを閉ざしていた。もう梅雨は過ぎたはずなのに。


「よう」


「おう」


 現れた松葉に返答する。俺が待っていたのはこいつだ。教室で俺をちらっと見て『今日報告する』なんて伝えてきた。普通に伝えればいいだろう。楽しんでやがる。どうせなら報告もそうやってすればいいのに。


「で?」


「ああ、既に読んでてお気に召してるっぽい。よかったよかった」


『仕事少なくなって助かるわ』


 それを聞いて俺も胸を撫で下ろした。なんとかしてくれ、と頼んだが失敗する恐れがある。このパターンが一番確率がいい。


「何か小説読もうと思ってるってとこから話題振ろうしたら真っ先にお前の本薦められたわ。新作出たら絶対買うってよ」


「そこまで聞いたのか。流石だな」


「ま、まぁな」


『本当は勝手に喋ってくれただけだけど・・・』


「・・・別に強がらなくてもいいだろう」


「うるせー。できる人間演じるのがもう性みたいになってんだよ。・・・多分これからもそうやって欺き続けるんだろうな」


 信じられないから関わらない。信じられないから欺く。表面は大きく異なる俺たちは、根本的に良く似ている。根元は一緒なのに見出だした答えが違うから、共感はできてもどこか気に食わなくて相容れない。俺たちの関係を表す言葉は何なのだろうか。それはきっと綺麗なものではなく、かといって汚いものでもなくて、曖昧で不確かなものなんだろう。


『はぁ、変な空気にしちまった・・・』


「で、小説の内容は決まったか?」


 露骨な話題転換だったが乗っかることにした。


「方針を搾れてきてはいるが、主人公をどんな人間にするかが決まっていない」


 いじめは悪いことだとどれだけ叫ぼうが訴えようが効果はない。そんなの既に誰もが、親から、教師から、メディアから教えられて知っている。しかし、無くならない。知っててやっているんだ。誰かが傷ついても知ったことじゃない。自分が傷つかないならそれでいい。人が傷ついているのを見ても、他人事としかみれない。例え傷つけているのが自分だとしても。そういう人間なんだあいつらは。


 だから自分たちにもリスクがあると思わせられればいい、という結論に至った。それを今模索しているため、主人公についてはあまり考えることができていない。


「だったら黒崎みたいな奴を主人公にすれば?」


「・・・は?」


 あんな奴を主人公に?そんなものを書いていたら怒りでどうにかなってしまいそうだが。


「最大の標的は黒崎なんだろ?じゃあ黒崎が自分を重ねるっていうか感情移入しやすいものの方がいいんじゃねぇの?」


 ・・・確かにそうだ。それが最も効率のいい方法かもしれない。


「しかし、黒崎が主人公か。書けるかどうか・・・」


 あんな奴をメインに書いてくなんて途中で腹が立って匙を投げるかもしれない。


「あー、まぁ書きにくいよな。嫌いな奴なんて」


「・・・・いや、バッドエンドにすればむしろ筆が乗る気がする」


 バッドな部分だけやたらと表現が緻密かつ膨大になるかもしれんが。


「お前ちょっと怖いぞ」


 苦い顔でやや引き気味に松葉が言う。


「あ、一つ言い忘れてた事あったわ」


 思い出した内容が深刻なことなのか、一転して真顔でこちらを見てくる。


「美崎さん、部活辞めたってよ」


「・・・・そうか」


 それでいい、それがいいと思いながらも、彼女がいじめに屈し始めているのではないかとも思えた。幸いにももうすぐ夏休みだ。美崎がクラスメート及び黒崎と出会わずに済む期間である。できればこの間に本を出しておきたい。しかし時間がない。が、やるしかない。


「それじゃあな。確かに借りは返したからな」


 背中を見せた松葉に声をかける。本当に感謝しているから。信じてよかった、そう思ったから。


「そうだな。むしろ釣りが出るくらいだ」


「お、言ったな。じゃあなんか返せ」


 即座に振り向きねだるように手を差し出してきた。

 ・・・台無しだ。下手に出たらいい気になりやがって。まぁいい。逆に困らせてやろう。


「それなら、ある情報をやろう。それでいいか?」


「おお、本当にくれんのか。いいぜ」


 期待している目を向けてくる。


「ある女子たちが」


「おっ」


 女子、というものにテンションが上がっている。計算通りだ。上げて落とす。これが鉄板だからな。


「お前のこと・・・」


「勿体振らず早く言えよ」


「BLのネタにしてるぞ」


「・・・は?」


「BLのネタにしてるぞ」


「いや聞こえてるけど・・・マジで?」


「マジだ。気持ち悪いから詳しくは聞いてないけどな」


「・・・・・」


 わかりやすくがっかりしている松葉を見てほくそ笑む。よかったじゃないか。(腐)女子の話題の中心だぞ。


「聞かなきゃよかった」


「承諾しただろう。まぁこれからは女だけでなく男にも気を付けろ」


「・・・勘弁してくれ」


 そう告げると今度こそ去っていった。欲張ることは良くないことだ。


 一人になったせいか、ふと思考が頭を駆け巡っていく。


 欲を持つこと自体は必要なことだ。欲は生き甲斐であるからだ。目標と言ってもいい。


 ただ、欲を抑えられるだけの理性が無いといけない。欲に身を任せた瞬間、それは人でなくなる。犯罪なんかは凡そこれによって起こると考えている。そして恐らくいじめ、嫌がらせもだ。それが子どもの頃に多いのは倫理観が発達中だから。大人がそれをやるのは理性が弱いから。


 いじめを止めるには理性が弱くても踏みとどませられる何かがあればいいということだ。人がつい動きを止めてしまうもの・・・・恐怖、あるいは危険性だろうか。


 それに関しては馴染みがある。俺は人に怯えているし、人を危険視しているから。


 そう思うと書ける気がしてきた。黒崎が人間不信に陥ってしまうような、そんな話が。

主人公、内容が決まったって話




次で終わりかな?

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