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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
12/14

決意を強固に

「お前が俺呼び出すなんて初めてじゃないか?」


 俺たちは立ったまま階段室の入口の横に寄りかかっている。あの日の翌日の昼、屋上に松葉をメールで呼び出した。どうしても松葉の手を借りなければならない。


「基本的に俺はお前に用はないからな」


「なら今日は用があるってことか?」


「ああ、例の結果が出た」





 松葉に事の顛末を話した。こいつになら話しても構わないだろう。美崎のことを悪く思っていないし、黒崎に特別な思いがあるわけでもない。むしろ美崎には好印象だと俺は見ている。


「やっぱり人は信用できない。これが結論だ」


「・・・・そうか」


『ちょっとは期待してたんだけどな』


 松葉は深刻そうな表情で呟いた。こいつは俺のように妥協ではなく、本気で人を信じたかったのだろう。人と多く関わってきたからこそ、頭ではあり得ないとわかっていながらもそれを望んだ。


「がっかりしているところ悪いが、お前への貸しを返してもらいたい」


「・・・・何の話だ?」


「とぼけるな」


「「乗らないとは言ってない」とは言ったけど「乗る」とも言ってないはずだ」


 ・・・・しくった。思わず頭を片手で抱える。あのときなんとなくで持ちかけた案だったから深く考えていなかった。そうだ、こいつだって人間で嘘をついている。騙す可能性は充分だ。


「あの、すまん。冗談だから・・・」


「・・・・・」


 僅かに開いた口が塞がらないまま無言で松葉を睨み付けてやると言い訳を始めた。


「もう心の声聞くの解禁したんだろ?だったらわかるかなーって」


 ・・・・確かにそれは俺のミスだ。松葉の言葉を聞いてすぐ思考に没頭してしまったから心を聞かなかった。


「あと、俺と話すときは他の奴より少し砕けた雰囲気だったんだけど、今日はなんていうか警戒心マックスだっからちょっと落ち着かせようと思ったんだ。いや、本当すまん」


 驚き半分、申し訳無さ半分な表情で謝罪された。逆にこちらが悪いことしたような気分だ。こいつなりの励まし方なのだろう。


「気にするな。俺も悪かった」


 とりあえずそう告げたが、松葉が戸惑いながら「お、おう」と空返事した。なんとなく気不味い雰囲気が漂う。


 んん、と咳き込むフリをする。ベタだがこれが一番話を切り替えやすい。


「話を戻すが、返してくれるんだな?」


「・・・・まぁ、可能なことなら」


『流れ的に美崎さん関係か?』


「察しがよくて助かる」


 ピクッと松葉の体が震えた。目を細めて心地悪そうな顔でこちらを睨んでくる。


「なんかその感じ久しぶりだわ。怖い」


「知らん」


「はぁ。で?」


「黒崎、わかるな?」


「おう」


「あいつが俺の本を読んでるか調べてくれ」


「・・・なんだそりゃ。まぁ、あいつとは面識あるし部長会議なんかで話したりもするからできなくはねぇけど。それだけでいいのか?」


『意味わかんねぇ』


 首を少し傾げ、疑問符を投げかけてくる。


「もし読んでなかった場合読むように促して欲しい」


「あの本読んだって変わりゃしねぇだろ」


「その通りだ。俺が読ませたいのは「本心」じゃなくて次回作だ」


「!・・・それなら変えられるのか?」


「変えられる物を書くんだよ。黒崎だけじゃない。最大の目的は黒崎だが、人いたぶって楽しんでる奴ら全員に影響を与えてやるくらいのつもりで書く」


「・・・・わかったって言いたいとこだけど、俺の役難しすぎねぇか?まだ読んでなかったら進めたり貸したりとかでなんとかできるかもしれねぇけど、既に読んでて嫌ってたらどうしようもなくね?」


「逆に気に入ってたらお前はなにもしなくていいんだ。まぁなんとかしてくれ」


「なんとかって・・・」


『そこは俺任せか・・・』


「頼む」


 頭を下げた。いつもなら何か屁理屈の一つや二つを繕って納得させるのだがなにも浮かばなかった。持ち込めたのは貸し一つだけ。らしくない。そんなことはわかってる。それくらいどうしようもないんだ。


「・・・まぁ、やるだけやってみる」


『元々何か手伝おうと思ってたからな』


 松葉は壁から体を起こして出口へ向かう。根は良い奴というのはこんな奴のことなのだろう。あるいはこれが無償て動ける友人関係というやつなのか。そう頭の片隅では思うものの、頭の中の大半は人を信じるのは危険だとサイレンを鳴らしている。俺はきっと人でなしだ。


「・・・すまん」


 口から漏れたように発した言葉は何に対してなのか。


「気にすんな」


 そう言って笑って「じゃあ」と去っていった松葉を見て問いの答えがハッキリした。向こうはもうひとつの方で捉えたのだろう。


 お前は俺に気を許してるのに、俺はお前に対して壁を作っている。お前を信じられなくてすまん。


 けど、お前がちゃんとこなしてくれるってことは信じるよ。




 ____


 ___


 __


 _






 昼休み一杯まで屋上で過ごした後、階段を下りて二年生の教室が並ぶ三階へ行く。六組に近い方のトイレへ入り用を足す。


「お、奇遇じゃん」


「・・梅野」


 あのとき、俺が心を聞くのをやめてしまったきっかけになったやつだ。あれからちょくちょく声をかけてきたが、最近はあまり話しかけてこない。いや、梅野がどうこうではなく俺がまた人を避けるようになったからなのだろう。


「最近お前険しい顔してるよな」


「・・・・そうか?」


「そうだよ。なんかあんなら相談しろよな。友達だろ!」


 笑顔でそう言った梅野を見てイライラした。お前は何もわかっていない。そして今後わかることもないだろう。蔑むようにそう言ってやりたい気分だった。


 友達・・・か。ひょっとしたら成りかけていたのかもしれない。そう思うと虫唾が走る。友人とはいつの間にかなっているものであると聞いたことがある。恐ろしいものだ。知らず知らずのうちに拘束されているということなのだから。


 独りでいるのは不安だから。誰かに間違いを修正してほしいから。誰かに共感されないと自分が正しいと思えないから。そうやって共有して、間違ったときの責任を分散させたいから。


 赤信号も皆で渡れば恐くないと、ある人が言った。多数決というのも少し違うが、ある程度人数がいれば少数派も受け入れられてしまう。「そういうのもアリかも」なんて妥協をする。


 集団とは居心地の良い所なのだろう。俺も惹かれてしまったのだから間違いない。だが、その分敵になったときは恐ろしい。数の暴力。多勢に無勢。悪い噂はすぐ広がるくせに良い話はすぐに消える。どっちが早く印象として刷り込まれるかだけなのだろう。そしてその噂で集団を固く結ぶ。一つの事柄を強く共有することで仲間意識を養う。そこに誰かが苦しむかもしれないという余念は皆無だ。汚れるのは簡単なのに綺麗にするのは困難だ。


 梅野の言う「友達だろ!」という言葉が強要に聞こえる。もしくは友達を大切にする自分に酔いしれている。本当は俺のことなどどうでもいいんだ。


『一回やってみたいんだよな~。お悩み解決!って感じの奴』


 ほうら、人間なんて所詮こんなもんだ。


 お前らが騙してるように俺だって騙してやるよ。


「あぁ、困ったときは頼む」


 ひとに好かれるような微かな笑みを浮かべた。参考にしたのは松葉と黒崎。


「え、お、おう」


『あ、あれ?悩んでねぇのか?てかこんな顔できたのか・・』


 恐らく二度はやらない。松葉や黒崎のように無闇にやろうとは思わない。そんなことしていたら美崎が悲しみそうだから。


 これは決意表明だ。お前らの前で俺は自分を曝け出さない。お前らがそうしているように。


 そしてお前たちを絶対に許さない

梅野は当初から噛ませ犬的存在にする予定だったので無事役目を終わらせられてよかった。もう出てくることはない。

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