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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
11/14

経緯、怒り、後悔、決意

着々と終わりへと向かってます

 状況がいまいち飲み込めなかったが、とりあえず美崎を濡れたままにしておけないので屋内まで手を引いた。嫌がることなく黙って従ってくれた。


 階段に座らせて、「なにがあった?」と尋ねると震えながらも話してくれた。


 __________________



 後日行った心の聞き込み調査での情報も加えた事の経緯をまとめる。


 黒幕は現女子バスケットボール主将、黒崎 夜見。


 始まりは美崎の友人である佐藤さんに対する嫌がらせ。何度か昼休みに購買へパンやらデザートやらを買いにいかせていた。所謂パシリだ。そしてあくまで恐喝するのではなく「買いに行ってほしいんだけど・・・」とお願いする風を装っている。実際、二組の人は誰も脅しているとは思っていなかった。本人と美崎を除いて。


 佐藤さんは断れなかった。近くで見ていた美崎はその悪意に気付いて反発した。しかし、それは黒崎の罠だった。白々しく「ただお願いしただけなのに・・・」と美崎が悪いように見せかけた。何もわかっていない周囲からすれば、綺麗で優等生な黒崎が可哀想に見えた。


 それから、美崎の根も葉もない噂が広まった。いや、広められたと言うべきか。これは黒崎のその取り巻きによるものだ。汚い手でレギュラーになっただとか、先輩の悪口を言っていたとか、先生や男子に媚びを売っているとか。


 これだけなら美崎は真っ向から否定できるのだが、黒崎はかなりのやり手だった。美崎のせいでバスケ部は負けたという否定できない事実も広めたのだ。嘘は本当のことを少し混ぜると信じられやすい。また、入って一、二ヶ月の転校生がレギュラーになったという事実が美崎の信用性を低くしている。


 一つや二つ信じられれば、他もそうなのではないかと思えてくる。教室中でその噂はほぼ真実として蔓延した。


 しかし、教室の外ではあまり広まっていない。これも黒崎の仕業だ。頃合いを見て「あくまで噂だから無闇に広めるのはよくない」と皆に告げた。まんまと周囲から"嫌なことをしてきた相手でも庇う優しい人"という評価を頂き、噂自体は否定しないことで疑いの目を絶えさせない。


 また、噂を広めなかったのは噂が偽りであることが露呈するのを防ぐためでもある。バスケ部関連のものが多いため特に他のバスケ部員の耳には入れたくなかった。不幸なことに二組には美崎と黒崎の他にバスケ部員はいなかった。


 黒崎の目的は美崎の地位を貶めることだ。美崎は人気があった。可憐な見た目に天真爛漫な性格。人気が出ないわけがない。それは黒崎が自分の地位が脅かされるのでは、と考えるのに十分だった。


 無論、美崎にそんな意志はない。なんなら黒崎とも仲良くしたいとすら思っていただろう。だが、クラス内での地位、いわゆるカーストは個人の意志によって決定しない。クラスのなんとなくな雰囲気で曖昧に定められるものだ。


 美崎を慕っていたクラスメートたちは関わることをやめた。簡単に翻ってしまった関係にショックを覚えた。中でも美崎にとって最も大きなダメージになったのが、佐藤さんだ。美崎は彼女なら、と信じていた。しかし、彼女もまた美崎を避けた。


 美崎は彼女を助けようとしたというのに彼女は美崎を見捨てた。佐藤さんは美崎のように強くなかった。


 美崎は必死に信頼を取り戻そうとした。周囲に話し掛けたり、係の仕事に手伝いを申し出るなど尽力した。取り戻せると信じていた。


 だが、それらは拒まれた。『好感度稼ぎ』『騙そうとしている』、そう自ら思う者もいれば陰口を聞いて『そうかもしれない』と考えるものもいた。


 嫌いな人間は嫌な部分しか見えない、またはあらゆる行動を嫌な部分として認識する。人は自分が見たいものしか見ない。美崎の印象がよくなることはなかった。


 それから地味な嫌がらせが続いた。所謂いじめだ。物がなくなる、下駄箱にゴミといったありがちなものだ。しかし、お金を盗られることはなかったし、なくなった物はすぐに見つかり、ゴミといっても生ゴミなんかではなく、紙やビニール袋など臭いがなく捨てやすいものだった。悪戯と言い訳がきく程度の規模と質だが、少しずつ確かに美崎の心を磨り減らしていった。


 そして限界が来てしまった。


 ___________________



「どうして誰にも言わなかった?」


 話し終わった美崎に尋ねた。少し間を置いて、唾をごくりと飲み込んでから震えながら息を吸って答えた。


「迷惑をかけたくなかったから」


『また裏切られるんじゃないか。見放されるんじゃないか』


 心の声が聞こえた。綺麗さは感じられず、他の人間と同じように。それは美崎が普通に成り下がったということだ。


 はらわたが煮えくり返る。未だかつてその言葉を理解できるほどの怒りを感じたことはなかった。だが、今ならわかる。体の内の方からふつふつと熱が込み上げてくる。この熱を今すぐにでも何かにぶつけてしまいたい。抑え込むのもやっとで、その抑え込む行為にも苛立っていく。


 彼女をなぜ汚した。自分の地位のため?ふざけるな。他人を巻き込むな。お前の快楽のためになぜ美崎が犠牲にならなければならない。


 いや、理由はわかっている。自分が上に行くことよりも誰かを蹴落とすことの方が楽だからだ。階段と一緒だ。ちょっと押したり躓かせれば転がり落ちる。どこまで落ちるかもわからない。登るのは疲れるが、落とすのは楽だ。


 暗に、努力しても敵わないと言ってるようなものだ。どうしてそのことに気付かない。自分が劣っていることを理由に人を腐らせることなんて許されるはずかない。その時点で自分も腐っていることに気付け。そんなやり方でしか人の上に立てないのならそもそも人の上に立てる実力も資格もない。愚かで醜いやり方だ。胸くそ悪い。殺したいほどに。反吐が出る。こんなやついない方がいい。憎い。死んでしまえ。


 子供染みた思考になってしまっている。怒りで我を忘れている。落ち着け。でないと本当にやりかねない。


 フゥーと息を吐いた。怒りや憎しみが息と一緒に出ていってくれないかと思ったが、そうなるわけがなかった。だが、いくらか冷静さを取り戻せた。


「どうしたい?」


 何か俺に出来ることはないか。あくまで俺のやりたいことじゃなく、彼女が望むことを手伝ってやりたい。


「したいことは・・ない。けど・・やめてほしい。こんな嫌がらせを・・もうやらないでほしい。それだけで・・いい」


 嗚咽を必死に抑えながら掠れた声で言葉を吐いた。正真正銘心からの声だった。


 美崎は復讐を考えていなかった。同じ目に合わせたいとか、苦しませたいとか、罰を受けるべきだとか、そんなことは一切望まなかった。普通ならそれを望む。苛めなんかで自殺するのだって復讐だと俺は思っている。生きているのが辛いという思いよりも苛めていた人間を困らせてやろうとか、どれだけのことをしでかしたのかわからせてやるだとかそんな気持ちが強いんじゃないだろうか。


 まだ、美崎は美崎なのかもしれない。完全に別人になっていないのかもしれない。


 だったら、あの美しく綺麗な彼女を取り戻せる?


 どうすればいい。どうやって黒崎をとめる?

 教師に報告。駄目だ、黒崎への信頼が勝る。あいつは教師からの信頼も厚い。

 美崎の両親に相談。いや、結局学校側が動かなければ意味がない。やんわりと説得されるのが落ちだ。それによって却って嫌がらせが悪化するかもしれない。さらに周囲から「言い掛りだ」と言われれば余計に立場が悪くなる。

 証拠があれば学校側も動くのではないか。だが証拠はあるのか?勢いとか魔が差してとかではなく計画的な犯行だ。証拠や痕跡は消せるだけ消しているだろう。

 バスケ部の人間なら噂を嘘だと否定できるのではないか。いや、もう黒崎が根回ししているだろう。それに美崎がスタメンの座を勝ち取ったことをよく思ってない人間もいるだろう。

 教室内は完全に黒崎の味方だ。ちょっとやそっとのものじゃ覆らない。下駄箱のゴミを掲げても「自作自演」と、かわされるだけだろう。


 となると自らの意思でやめてもらうくらいしかないのではないか。説得なんかで収まるわけない。時間が経てば飽きてやめてくれるだろうか。いや、飽きる飽きないじゃない。きっと美崎が完全に折れるまでやる気だろう。


 考えがまとまらない。そもそも打破可能なのか?だがやらなければならない。これは絶対だ。考えろ。何かあるはずた。


「・・・・・ありがとね。でも、もういいよ」


 声がして、考え込む内に下がっていた頭を上げる。


「私なら大丈夫だから。全部話して少しすっきりしたし」


 美崎は笑った。それが作り笑いだとすぐにわかった。その笑顔を見ても心が穏やかにならなかったから。それどころか苦しくなったから。俺に出来ることは何も無いと遠回しに言われたようで悔しかったから。


「・・・じゃあね」


『巻き込むのはやっぱり嫌だ』


 そう言って美崎は去っていった。最後まで美崎は笑顔だった。俺はそんな美崎を追いかけられなかった。こんな顔をさせてしまった。逆に気を使われてしまった。情けない。なんて役立たずなんだ俺は。


 もし、俺が心を聞くのをやめてなかったら事前に防げただろうか。もし、俺が人を受け入れようとしなければ美崎は変わらず綺麗なままだっただろうか。


 なんであのとき安直に自分を曲げてしまったんだ俺は!美崎への期待を人間への期待に勝手に置き換えて、その期待に縋って、甘えて、今こんなにも後悔している…。


 少なくともここまで追い込まれる前に気付けただろう。早く気付けていれば何らかの対処をうてたかもしれない。明暗が別れる前なら美崎の無実も訴えられたかもしれない。


 駄目だ。たらればを考えたところで過去は変わらない。過去に戻ることはできない。過去からは学ぶことしかできない。


 人はやはり信じてはいけない。


 これが今回俺が学んだことだ。人間はやはり等しく愚かで醜くい嘘つきだ。いや、嘘つくのはべつにいいんだ。俺だって嘘をつくし冗談を言って場を和ませることが悪だとは思わない。


 平生はみんな善人なんです。

 少なくともみんな普通の人間なんです。

 それが、いざといふ間際に、

 急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。

 だから油断が出来ないんです。


 人は皆、悪になる可能性がある。きっと俺はその可能性が恐くて仕方ないんだろう。例えその可能性がどんなに低くても俺は信じない。裏切られるのが、騙されるのが恐いから。嘘をつく人間はその予備軍と言える。だから俺は嘘が嫌いなんだろう。


 一時でも受け入れようとしてたなんてどうかしている。それはただの妥協だった。怠惰だった。上辺だけの関係で楽しそうにしているやつらを見てそっちの方がいいんじゃないかと考えてしまった。俺はこれから何があっても美崎以外の人間を疑い続ける。


 あぁ、とことん自分が嫌になる。なんで俺は生きてるんだ。なんでこんな力をもって生まれた。俺という存在が無駄なものにすら感じる。


 悲壮にくれていると突然、ブゥーブゥーとズボンのポケットが震えた。スマホを取り出し画面を見ると担当さんからだった。正直、それどころではないのだが、無視するわけにはいかないので応答する。


「はい」


「あ、どうも鈴木です。如月さん、次回作についてなにか決まりました?」


「いえ、まだです。すみません待たせ・・・・」


 そうだ。これなら・・・・・駄目か。・・・・いや、いけるか?・・・やるしかないだろう。


「そうですか。まぁ学校もありますからね。気長に待ちます」


「あの、たった今浮かんだんですけど」


「え、本当ですか?」


「はい。






 いじめを題材にしてみようかと思います」

ようやく「解心(会心)(改心)の一冊」を書き始める

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