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解心の一冊  作者: 叶山 慶太郎
10/14

曇り後、雨

各話ちょこちょこ手直しているんですが、なんかもうキリなくね?とか思っちゃう

 美崎の表情は暗かった。いや、いつも明るいから相対的に暗く見えているだけで俺よりも暗い雰囲気はない。


「おお、デジャブ」


「あはは、そうだね」


 松葉がおどけて見せると美崎は笑顔を浮かべた。無理して笑っているようには見えない。その様子にひと安心する。


「今回は探索じゃないんだろう?」


「うん。ここに来ればなんだかスッキリするかなって思ったんだけどね・・・」


 苦笑いして空を見上げた。釣られてこちらも見上げると相変わらずの灰色だった。彼女が前に来たときは、雲は白く澄みきった青があった。彼女はそれを見たかったのだろう。


 美崎は俺の横にペタンと座り、同じように階段室にもたれ掛かった。


「そういえば、総体来てくれてたんだっけ?不甲斐ないとこ見せちゃったね」


 自虐的にそう言った。未だに癒えてないようだ。


「不甲斐ないなんてことはないだろう。ミスはあったがそれ以上に格好いいところを見せてもらったからな」


 お世辞やご機嫌とりではない。ただ事実を述べただけだ。印象ではなく彼女の実績を考えれば、誰も彼女のせいで負けたなんてことは言わない。


「ありがとね」


 ふわりとした優しい表情でそう言われた。彼女の言葉一つでこんなにも心が動くなんて。もし心の声で言われたら、俺はどうなってしまうのだろうか。


「礼を言われることはなにもしてないと思うんだが。今のもただ事実を述べただけだ」


 できるだけ冷静を装って言った。


「クス、そうだね」


 そんな言い方をしないでほしい。まるで俺が照れ隠ししてるみたいになるから。そんなことは決してない。だがまぁ、元気が出たんだったらそれでいい。


「なにお前応援しに行ったの?」


 松葉がにやけた面でからかってくる。ていうかお前キャラつくらないんだな。美崎相手には無意味だと学んだか。


『やべ、つい素で話しちまった!ま、いっか。どうせ意味ないし』


 つい心を聞いてしまった。まぁ、いいか。どうせ松葉だし。


「見に来てくれって言われたから行っただけだ」


 聞いてないように振る舞う。美崎がいるからというのもあるが、松葉にバレたらめんどくさそうだから。


「ちょっと、それじゃあ無理に誘ったみたいじゃん。私は来れたら来てねって言ったんだけど」


 美崎が膨れっ面で前のめりに訴えかけてくる。


「そうだったな。悪かったよ」


「わかればよろしい」


 フフンと得意げに鼻を鳴らす。そんな姿を見て思わず笑ってしまった。といっても微笑む程度だが。さらに美崎も同じように笑い声を洩らした。顔を合わせて笑いあう、こんな経験は彼女たしかできないのかもしれない。


「・・・なぁ」


「ん?」


「何?」


 俺と美崎が言葉を発した松葉の方を向く。


「お前らって付き合ってんの?」


「いや、付き合ってないけど」


「うん付き合ってないよ」


「あ、そう・・・・」


 松葉の質問に同時にキョトンとして返すとがっかりした様子で呟いた。


「なんでそうなる?」


「いやー仲良いなぁって思ったから」


「えー二人の方が仲良いんじゃない?」


「それはない」


「うん、ないない」


「ほら、仲良いじゃん」


 どこが?と反論を続けようと思ったが、美崎の笑顔を見て無駄だと悟った。松葉もそう感じたのだろう。不満気な顔で何も言わなかった。


「二人はまだ食事中?遅くない?」


「まぁ話しながら食べてたからな」


「そういう美崎さんは食べ終わったの?」


「あぁ・・・うん。私結構早食いなんだ」


 一瞬顔が引き攣ったように見えた。まぁ、女子は食事とか体重をやたら気にすると聞くし、その類いだろうか。


「あーなんか想像できるなぁ」


「わ、わたしってそんな食いしん坊に見えるの?」


「いや、こう暴飲暴食って感じじゃなくて。あーこれおいしいなぁこれもおいしいなぁ、あ、もう全部食べちゃった、みたいな」


「確かにありそうだな。それで家に帰ったときにあれがおいしかったって嬉々として親に報告するんだ」


「わかるわかる。そんでお母さん大喜び」


「もう勝手に何言ってるの!」


「違うのか?」


「いや、まぁそういう日もあるけど・・・」


 あるのか・・・半分冗談だったんだが。


「ていうか松葉君なんか違くない?」


 ふと気付いた風に美崎が問う。


「あー、えーとこれはその・・・」


「そっちのほうがいいと思うよ」


「あ、おう。そうか・・・」


 慌てたり落ち着いたり忙しいやつだ。美崎は問い詰める気持ちなど一切無くただ単にそう思ったから訊いただけなんだろう。そっちのほうがいいというのもおそらく本音だ。その純粋さに当てられたのか、松葉はたじろいでいる。それを隠すように弁当をかっこみ、弁当箱を片付けた。俺もパンの最後の一口を食べ、いくつかの袋をまとめてくしゃっと潰した。


 ひゅううと冷たく心地いい風が吹いた。もう数日経てばこの風はぬるくて気持ち悪いものに変わってしまうのだろう。


 変わらなければいい。この風も。この平穏も。


「気持ちいいね」


 美崎がそう呟いた。目を閉じてその心地よさに浸っている。その表情を見るとらしくないことを言いたくなってしまう。


「ここが気に入ったならいつでも来ればいい。特に禁止されていないし」


 彼女と会えるきっかけの一つにしようという打算でもある。


「え、そうなのか?てっきり立ち入り禁止だと思ってた。中学の時はダメだったし」


 立ち入り禁止だと思ってるたのに来てたのかこいつ。まぁその気持ちはわかる。


「俺の中学も鍵がかかって入れなかった。おそらくどこの中学もそうなんだろう。『屋上には入れない』ってイメージが既にあるから誰も来ないのかもな」


 単に用がないということもあるだろう。


「私も前の高校とか中学は禁止だったな~。ここ来たのも入れるって知ってたわけじゃなかったし。行ってみたら入れたって感じ」


 探索というだけあってなかなか踏み込んだことをしていたんだな。


「お前、不良じゃなかったんだな」


 人聞きの悪いことを・・・。今までずっとそう思っていたのか?


「それだとお前も不良になるだろ」


「私も不良だね」


 美崎が便乗してきた。変な流れになっている。


「話が脱線してる。俺が何言ったか忘れてないか?」


「ちゃんと覚えてるよ。いつでも来い、でしょ?」


 屋上に、な。かかってこい的な挑発っぽくなってるぞ。


「お言葉に甘えていつでも来させてもらうね」


「ああ」


 言葉を返しながら、次はいつ来てくれるのかと期待している自分がいる。この笑顔を見ていたいとそう願っている。


 不意に鳴ったチャイムがとても寂しいものに聞こえた。


「あ、もう戻らなきゃね」


「そうだな」


 三人がゆっくりと立ち上がり、俺と松葉をズボンを、美崎はスカートをはたいて歩きだす。階段を横に並んで降りていく。たわいもない話をしながら三階へ行く。三階に着いてそれぞれの教室へと別れた。


 なんでもない平和な一時だった。ただ、彼女が来たときの妙に暗い顔を唐突に思い出して、心の中にもやもやとした何かが蠢いていた。


 胸騒ぎなんて、物語だけの話なはずなのに。








 _______________________



 いつでも来ると言ったのに、彼女は何週間も来ることはなかった。


 _______________________






 気付けば期末考査が終わっていた。つつがなく、そこそこの手応えで終えた。


 あの日から美崎とは会ってない。会おうと思えば会えたんだが、それには諸々と理由が・・・いや、言い訳がある。


 あとになって「いつでも来ればいい」とかカッコつけ過ぎ、期待しすぎ、なんか口説いてるみたいだと思い、顔を合わせづらかった。


 美崎が来ると言った手前、こっちが行くのはおかしいのではないか。


 彼女にも都合があるのだろうからそれに合わせればいい、とかまぁいろいろだ。


 二組の前もあまり通ってない。理由は同じだ。


 今日も昼休みに屋上へと向かう。じめじめとした気持ち悪さに耐えながら階段を上っていく。


 扉を開いて見上げると空がひどく濁っていた。今にも降りそうだ、なんて思っていると本当に降ってきた。ポツポツと床を濡らしていく。もう梅雨は過ぎたはずなのに。


 不意に先客がいることに気付いた。こちらに背を向けて突っ立っている。制服を見てそれが女子だとわかった。雨が降ってきたことに気づいていないのか全く動く気配がない。


「おいあんた、雨降ってきてるから・・・」


 その後ろ姿に見覚えがあった。ショートカットでさらっとした髪質。俺より少し小さいくらいの身長。


 俺の声に反応してゆっくりと彼女は振り返る。やはり美崎だった。



「如月君・・・・」


 俺を呼ぶ彼女の顔には滴が伝っていた。


 その滴が雨でないことはすぐにわかった。


 掠れた声と一緒に心の声が聞こえたからだ。


 それはずっと俺が望んでいたもの、のはずだった。



『・・・・たすけて』



 その声は綺麗でも美しくもなく、ただただ悲しくて苦しいものだった。


 真っ黒な雲が容赦なく彼女を濡らしていき、みるみる真っ白な制服のシャツを黒く滲ませていった。

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