クリフハンガー
上空高くでは鷹が舞い、甲高い鳴き声を上げる。
空はどこまでも青く、澄み渡り、丸みを帯びた入道雲がひしめき合っている。
太陽は容赦なく照り付け、辺りに熱を与え、蜃気楼が見えるほどだった。
勝と美奈は、そんな場所に降り立ち、上を見上げると、そこにははるか上空まで伸びる崖がそり立っていた。
「美奈上で待っていてくれ」
「はい」
勝はそう言うと、準備を始めるのだった。
勝は美奈に約束していた、この壁をもし登り切ることができたら、君にプロポーズすると。
そして、勝は、軽くストレッチをすると、手に粉をつけ、岩に手をかける。
腕にぐっと力を入れ、体を持ち上げ、手ごろな足場に足をかける。
そして、また足にぐっと力を入れて、上の出っ張りに手をかける。
上に上がるにつれて、勝のアドレナリンはあふれ出し、その脳裏には、落ちた時の恐怖と上り切った時の達成感が埋め尽くす。
額には汗が流れ、陽の光できらりと輝く。
勝は汗をぬぐうと、再び出っ張りに手をかける。
そして、腕に力を入れ、登ろうとしたその時、出っ張りはガラリと崩れ、勝は体勢を崩し、片腕だけでぶら下がる状態になってしまう。
勝の額からは冷や汗が流れた。命綱をしているものの、落下でもしたら、岩肌に体を打ち付けられ、ただでは済まないだろう。
勝は左腕にぐっと力を入れると、体勢を立て直し、ふぅと息を吐く。
そして、器用に命綱をくみ上げると、そこに腰掛け、ぶら下がった状態でしばしの休息をとることにした。
風は心地よく、そこから見ると、木々も山々も小さく見え、自分が随分上ってきたことを思い知らされる。
勝はそこから見る景色が好きだった。それは世界を掌握したようなそんな気分とは違い、そこ広大さにいつも自分の小ささを思い知らされるのだった。
そして、その景色をひとしきり楽しむと、再び登り始めるのだった。
慎重に手をかけ、足をかけ、そして、頂上付近に来ると、最大の難所が待ち構えていた。
それは、岩が反り返り、まるで勝の行く手を阻むかのように、壁を作っていた。
勝は息を呑んだ。この壁さえ超えればと。
そして、およその目星をつけると、足で地面を蹴り、大空へ飛び出す。
突き出した壁のくぼみにガッと手をかけ、安堵を覚えるのだった。
そしてもう一度。
そいして、ついに勝の手が頂上の地面にかかる。
勝ははやる気持ちを抑えて、慎重に体を持ち上げると、ゆっくりと頂上の地に降り立つのだった。
ついにやり遂げたのだ。勝の心を計り知れないほどの充実感が満たした。勝はそのために上っているようなものだった。
登っている感のアドレナリンの放出、そしてこの充実感。それはもう何物にも代えがたかった。
そして、そこに降り立つと、目の前で彼女が待っていてくれた。
彼女は顔を赤らめ、そっぽを向いてしまう。
勝はまさにこのときと言わんばかりに、息を大きく吸い、大空に向けて声を発しようとしたその時。
「チャック、空いてるわよ……」
「え」
「ほら、少しはみ出てるし……」