死因:フェミニスト(5)
5
「まぁまぁかしら」
ナールの横に立つ紫弦は姿見を覗き込んだ。そこには焦げ茶色の背広に袖を通し、身なりを整えるナールが映っている。
「そうなのか?」
「仕方ないわ。お爺さまのものですから少々古めかしくて。年代物なの」
「なるほどな。私は気に入っているのだが、やはり問題があるのか?」
「貴方がいいならそれでもいいけど……。んー、そうねぇ。シルエットが今とは違うのよね。さすがに流行に合わせてないと浮くわ。袖も少し長いようだし、明日にも仕立屋を呼ぶけれどいい?」
「そうしてもらえるとありがたいが、私は無一文だ。財がないわけではない――寧ろ金は腐るほどあるが、持ってくるにも、換金するにもえらく時間がかかってしまう」
「あら。じゃぁ次の機会に奢って貰おうかしら?」
「いいのか?」
「ええ。金が腐るほどあるのはうちもなのよ」
紫弦はそう告げると子機を手に取り、なじみの仕立屋に連絡をとりはじめた。
その間、ナールは傍らのファッション雑誌に目を通してみると確かに古めかしいというのがわかった。最近のスーツはスリムなシルエットをしているが、逆に祖父の三つ揃えは身体を大きくみせるように形を取っているのだ。
「だとしてもいい生地だな……」
金があるというのは間違いないだろう。それは浴槽で気を失い、翌朝目を覚ました時に寝かされていた部屋がたいそう豪勢な寝室だったのだから。この時代にも貴族階級があったのかと疑ったぐらいだ。
「――とりあえず、これで出掛けましょうか。必要な物をそろえなきゃいけないし、連れて行きたいところがあるの」
電話を終えた紫弦がテキパキと身支度を調え始めた。
「連れて行きたいところ?」
「ええ。あなたの特性上絶対お世話になるところというか……、おそらくもうお世話になっているわね」
「世話になっている?」
「行けば分かるわ。でも、特別なところよ」
「……よくわからないが、とにかくよろしく頼む」
「まかせて頂戴。そうそう、なにか気に入った洋服でもあった?」
「すまない、専門外だ。こう、なんというか定義が違う」
ファッション誌を眺めていたナールは、活動していた年代があまりにも違いすぎると雑誌紫弦に手渡す。この時代のことはこの時代に生きる人間が一番分かると、ナールは紫弦に任せることにした。