死因:フェミニスト(4)
4
男が目を覚ますと、バスタブの中だった。
乳白色の湯が張られ、赤色の薔薇が浮かんでいる。一面グレー系の大理石で金具類は全て金で統一されており、高級感あふれる造りであったが、男の両手は天井から伸びる鎖で拘束されていた。
「お目覚めかしら?」
「っ!」
目の前には男と同じで、一糸まとわぬ姿でバスタイムを満喫する美女、大鳥紫弦がいた。にこやかに恐怖する男を眺めていた。
「ハァ~イ。怖がらないで、っていっても無理な話よね。貴方、私に二回殺されたんだから」
紫弦は薔薇をよせながら、男に近づいた。男はもがこうにももがけなかった。両足に重りがついており、自由がきかなかったからだ。
ぴた、と男の頬に紫弦の手が触れる。張り付く男の赤毛を耳にかけてやり、尋ねる。
「貴方、不死身なのね」
暴れてもどうしようもないと悟った男は、息をついて心を落ち着かせた。
「そうだ、美しい殺人者よ。私を殺したなら解るだろう。私は死んでも生き返る。体の再構築・蘇生まで、だいたい六時間程度だ。理由は……自伝にして一冊ほど必要になるので、今は説明しない」
「あらそう」
「驚かないのか?」
「ふふ、だって私も似たようなものなの。簡単に言うと、私は誰かを殺していないと衰弱死ちゃうし。時間があるときにでも語って頂戴」
「な――」
困惑する男に紫弦はウィンクする。
「自己紹介まだだったわね。私の名前は大鳥紫弦。紫弦って呼んで」
「紫弦。私はヴィルヘルム・ナールだ」
「あら、ナールであってたのね」
「知らなかったのか? てっきり私は、知っているのかとおもって――」
「その〝愚か者〟って、一族の決まり文句みたいなものなの。それに、あのホテルにいる人間はだれでもいいって、依頼だったから」
「だ、誰でも良い? また物騒な」
「色々な事情があるのよね。でも貴方で良かったじゃない。死なないもの」
「それは……そうだな。ところで拘束を解いていただきたいのだが? なぜ風呂場にこんな物騒なものが備え付けてあるのだ?」
「ああ、何代前の趣味だったかしら……? 吊して解体するのと血を浴びるのが好きな方がいらしゃってね。風呂場なら片付けしやすいという理由よ」
「か、解体っ!?」
ナールは手枷を見上げ想像する。一体何人がここでバラされていったのであろうか、と。
再び震え始めたナールに紫弦は抱きつく。
「――ところで、私、貴方が欲しいんだけど良いかしら?」
腕を背に回され、紫弦が手に持っている何か――金属のような物体が背に当たっていた。
「痛いのは嫌い、なんだが……配慮して、頂けないだろうか?」
「最初だけよ。何度もやれば、慣れるからね?」
ナールは歯を食いしばり、ぎゅっと目を瞑った。