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高校1年生 夏

                6月1日(水)



  ヒャッホッホ〜




  ヒャッホッホ〜




  衣替え〜




  衣替え〜



  以上、見上按がお贈りする、衣替えの歌でした〜



  今日から一新!



  見上按へ〜んしん!!



  制服が夏服に変わりました〜



  夏!夏!夏よぉ〜



  私、夏だぁ〜い好き〜






                6月19日(日)



  雨・・・




  雨・・・




  雨・・・




  一昨日も昨日も今日も雨。



  夏が来る前に、梅雨が来るのを忘れてたわ。



  夏は大好きだけど、梅雨は嫌いなの。



  ジメジメして、心も憂鬱になってくるわ。



  今日は、一日中家にいて、2階の部屋の窓から、ずっと外を眺めていた。



  家の前の道は静かで、人影もない感じ。



  ときどき走る車も、雨の音に紛れて通り過ぎて、雨を弾く音がとても寂しく聞こえるの。



  道を挟んで前の家の庭に、あじさいが咲いてるのが見えるの。



  あじさいが、雨に打たれてる。その姿も、また寂しく見えてしまうの。



  その時、誰かが歩いて来たの。




  あ!




  私気づいて、傘さしてるから、よく見れなかったけど、歩いて来たのは池上慎治だった。



  なんで奴が私の家の前を歩いてるの?



  私思って、何度も本当に奴か確認したかった。



  傘が邪魔して、顔がよく見えなかったりしたけど、傘が少し奴の身体からどいたとき、ハ ッキリと姿が見えたの。



  池上!



  私は小声で言ったんだけど、聞こえたかのように、あいつ立ち止まったの。




  ヤバッ!




  私は焦ると、あいつは、私の方へ見上げたの。私焦って、すぐに隠れた。



  奴は気のせいかと思ったのか、振り向いたのはただの偶然か、私の方へ見上げたら、すぐ にまた歩いていったの。



  私は隅からその姿を見ていた。



  あいつ、何で私の家の前を歩いてるの?






                6月20日(月)



  今日、学校に行ったとき、奴の存在が気になった。



  奴とは、池上慎治。



  教室に入って、奴はもう来てた。私は昨日のことから奴を警戒


 してたの。もし、奴が私に気づいていたなら、どうしよう・・・



  私はただ、それだけが嫌だった。奴に気づかれないように、


 私は奴を見た。


  が、奴は私の視線を感じたのか、私の方に振り向いたの。私は


 慌てて、すぐに視線をそらして席に向かったの。その間、奴が近


 づいてこないかドキドキした。


  でも、来なかった。


  授業と授業の間の休み時間も、お昼休みも来なかった。


  やっぱり、奴は私に気づかなかったんだ。


  で、ホームルームが終わって、帰り支度をしたの。


 「お前の家、あそこなんだ」


  背後から声が聞こえた。


 「えっ!」


  私は振り向くと、池上が立っていた。


 「お前、雨の日に外見てたろ」


 「・・・あんた、見てたの?」


  私は聞いたの。


 「ああ、見たよ。お前、窓の外見て黄昏てたろ」


 「別に黄昏てないわよ」


 「女になってたろ」


 「はっ?」


 「女は雨の日一人でいると、寂しくて黄昏て、物思いにふけるん


 だよ」


 「はぁ〜〜?別に物思いにふけてないですけど!だいたいなんで


 そんなの見えるのよ!窓だって閉めてたし」


 「俺の目2.0」


 「はっ?」


 「お前の毛穴まで見えるんだよ」


 「ちょっとキモいんだけど」


 「お前ん家、俺ん家と近所なんだな」


 「近所?」


 「ああ、お前あの辺だと中学金西か?」


 「そうだけど」


 「俺、金南だから」


 「隣じゃない・・・」


  私は呟いた。




  あ〜〜!




  神様、なんてことなの?


  この広い世の中、広い東京の中で、なにも同じ都立の上野の高


 校で、同じクラス。同じ金町じゃなくてもよかったんじゃない?


  あ〜最悪!最悪!最悪!


  あいつと、同じ環境で過ごして来たかと思うと、ゾッとするわ。


  あ゛〜


  帰り道、ずっと寒気がしてたよ。






                7月5日(火)



  今日は学校の帰りに、長岡恵ちゃんと、山本倫子と椎名結衣とおいしぃ〜〜〜あんみつを 食べて来ました。



  京成上野駅を道挟んで前ぐらいにある甘味処なんだけど、い〜

 つも並んでて、いつか食べたいなぁ〜って思っていたんだよね。



  今日学校でその話になって帰りに食べよ!ってことで行って来ました!



  私達が行ったときは、夕方だけど、凄い並んでて、でもまあ回転は早いからすぐに大丈夫 だったけど、食券買って座ったの。



  私はクリームあんみつ。



  も〜〜〜なんて言えばいいのか、ほっぺたが落ちそうってこういうことかぁ〜って思った よ。一口食べただけでみんなの顔が綻んだ。



  おいしぃ〜あんみつ食べながら、あいつの話が出てきたの。池上慎治。



  やっぱあいつヤバイらしいよ。歩くワイドショーの倫子が言ってたんだけど。



 「池上の話知ってる?」


 「なになに?」


  と、私。


 「ねぇ」


  倫子が恵に言った。


 「うん」


  恵は頷き


 「結衣は知ってるの?」


  と、私。


 「知らない」


 「なになに?」


  結衣と私は、かなり興味本意で聞いたの。


 「これ噂なんだけど、あいついろんな女子に手を出してるらしいよ」


 「え!マジで!!」


  と、私。


 「そう!うちのクラスだけじゃなくて、他のクラスの女子も手をつけてるらしいよ」


 「キモいんだけど」


  と、結衣。


 「うちのクラス?」


  と、私。


 「羽山とも、なんかあるんだって」


  と、恵。


 「はや?」


  と、結衣。


 「マジで?」


  羽山とは、私の中で恵の次に綺麗な子。でも、性格があんま良さそうじゃないってか、プ ライド高そうなの。だから私は話したことないけど・・・


 「はっ!」


  声をあげてしまった。


 「どうした?」


  倫子は心配した。


  ヤバい。私、前ちょっかい出されたし、どうしよ。


 「あのさ、私前ちょっかい出されたんだけど・・・」


 「マジで!?何されたの?」


  倫子が言ったの。


 「ほら、テスト返されたとき」


 「あ〜あれ!」


  結衣。


 「だって、話したこともないのに、突然テストを取り上げられちゃったんだよ」


 「アン、ヤバいよ」

  と、恵。


 「絶対狙われてるよ〜」


  と、結衣。


 「ねぇ、いろんな人に手を出してるって、具体的にどういうこと?」


 「やってるってことよ」


  倫子。


 「やってる?」


  結衣。


 「エッチしてるってこと」


  倫子。


 「えっ!」


  私。


 「ヤバい!私も気をつけなきゃ!どうしよぉ〜」


  倫子は慌てて叫んだ。


  どうしよう。本当かな?あいつ、偶然私の家通り過ぎたんじゃなくて、知ってて通った?


  私を見てた?






            ・・・キモいんだけど。






                7月12日(火)



  も〜クタクタ・・・



  グダグダ・・・



  今日で、期末テストも終わり。



  後は、夏休みを待つだけだけど、いろいろ計画を練って、いろいろ日記に書きたいけど、 もう疲れて頭回んないから、明日学校に日記持っていって書くよ。




        おやすみ・・・






                7月13日(水)



  最悪。最悪。最悪。最悪最悪最悪最悪!




      最悪!!!!!!!




  も〜〜さいてぇ〜〜〜〜〜



  思い出しただけで、涙が出そう。




  はぁー




  今日、英語のテストを返されたときに事件は起きました。



  担任の石川から答案を受け取ったんだけど、また赤点を取ってしまいました。



  でも問題はそこじゃないの。中間の時にあいつにテストを見られたから、今回はかなり警 戒したんだよね。席について、周りを警戒して、答案を握る手も力を入れて、そっと覗いた の。



  その時よ


 「何これ〜」


  あいつの声が聞こえた。私は疑問に思ったの。答案は手に持ってるし、他の人に絶対見ら れない角度で、しかも二つ折りにして、覗ける程度しか開けてないから、『あ、他の人のテ ストを見たな』って。


 「あんこの日記?」


 「へっ?」


  私は咄嗟に振り向いた。


 「あ、私の!」


  何で!?何で私の日記が!?


 「お前、今どき日記なんか書いてるの」




  ハッ!




  私は咄嗟に机の横に掛けてあった手提げカバンを見た。


  ・・・かばんから、日記だけが取られていた。


 「どんなのこと書いてるんだ?」


 「ダメ〜〜!」


  私は池上から日記を奪おうとしたけど、手を高く上げて、私には届かなかった。


 「ちょっと!返してよ!!」


 「見上按は、日記を書いてま〜す」


  池上は、叫びながら教室を走り回った。


 「ちょ、ちょっとやめてよ!」


 「あんこの日記で〜す」


 「ちょっと、返して!」


 「何書いてるかな〜?」


  池上は日記を開いた。


 「イエーイ・・・」


  あいつ、日記を読み始めた。


 「ちょっとやめてよ!」


  私は意地になって、あいつから日記を奪い返したの。


 「さいてぇ〜!」


  私は言ってやったわ。


 「今どきなんでブログじゃなくて、日記なんだ?」


 「別にいいじゃない!」


  もう、涙が出そう。なんで、なんで私がこんなことされなきゃいけないの?



  やってることが、中学生みたいだよ。



  明日、学校行くのが嫌。






                7月14日(木)



  今日ほど、学校に登校するのが嫌な日はなかった。

  なんか、何も悪いことなんかしてないのに、後ろめたい気持ちでいっぱいなのは、なぜだ ろう。

  とにかく、あいつと会うのが嫌だった。



  少し恐怖にさえ思った。



  次は何されるだろう・・・



  隠れ隠れ、様子を伺いながら教室に入る私。


 「よっ!あんこ!」


 「あんこ?」


  私が振り返ると、池上が立っていた。


 「おはよう!」


 「お、おはよう」


  池上は爽やかにあいさつしてきた。

  私は少し呆然。私にあいさつすると、あいつは教室へ入った。私も続いて入ったが、何故 あんなに爽やかなのだろう・・・






                7月20日(水)



  今日は、終業式!



  やっと1学期が終わるよ〜


  明日から夏休み〜♪


  校長のつまらない話も終わり、HRでの石川の話も終わった。



  も〜校長の話でかなり退屈したからさ、石川の突き出ているア

 ゴばかり見てたよ。


  アゴなが!って感じ。


  でもそんな中でも、2つの話が耳に入った。


 「え〜夏休み、おおいに遊んで結構!だが、勉強も忘れるなよ!それに、おまえら高校生に なって初めての夏休みだ。はしゃいだり、気を緩めて、事故るなよ!死ぬなよ!お前ら、絶対 死ぬなよ!」


  って、言ってたけど、死ぬわけないじゃん。



  ね〜



 「後、今日、事情があって、池上が登校出来てないことが、とても残念だ」


  石川はそう言ったの。詳しくは言わなかったけど、噂によると、昨日の放課後に事件があ ったみたい。


  あいつが、女子トイレを覗いたって。


  女子トイレの個室の1つの天井に穴が開いてるの。


  昔、女子トイレを覗く為に男子トイレから天井を渡って、女子トイレに穴を開けた人がい るって。


  その穴から、池上も覗いたんじゃないかって、そんな噂が流れてたの。なんで池上が疑わ れてるのかは、池上が身に付けてたネックレスが落ちてたから。


  もし、事実ならあいつは停学だろう。


  別に、あいつがどうなろうが、私には関係ないけど、ちょっと気になる。








                7月21日(木)



  今日、倫子から電話あった〜〜!


 「アンちゃん?元気?」

 「昨日会ったじゃな〜い」

 「あ、そっか」


  倫子ジョーク!


 「ところで、夏休み、どう?」

 「どう?って」

 「予定ある?」

 「ないよ」

 「バイトは?」

 「する予定ないよ」

 「わかったー」

 「わからないよ。何?」

 「いや、またみんなでどっか行こうか〜って」

 「えぇ〜!!どこ?どこ?」


  私、ちょっと興奮してきた!


 「まだ分からないよ。多分箱根の温泉とか、海とか、一泊で」

 「いくいく〜!」

 「わかった!みんなの予定と合わせていくよ!」

 「よろしく〜」


  電話切って、私のモチベーションは上がった。


  ハッ!


  お金がな〜い。


  短期アルバイトしよ!






                8月3日(水)



  私今、凄く忙しいの。



  バイト♪



  倫子達と旅行行きたいからさ、バイトやってま〜す!

  でも、私バイト探したの夏休み入ってからじゃない?

  なくてさ。もう夏休み短期バイト締め切られちゃって。日払い

 か、急募してる重労働の仕事しか。

  とりあえずなんか工事現場の交通整理が急募してたから、それ

 にして先月末からやってるの。


  でも、ドキドキ。


  ドキドキの理由にはいくつかあるんだけど、その一つは初めて

 のバイトってことかな?面接も高校の入試以来だし、もうドキドキ。

 職場も親父ばかりだから、話合わなくて・・・

  後、交通整理だけに、誰か会わないか心配。特に先生ね。うち

 の高校、バイト禁止だからさ。まあ、夏休みだけはいいんだけど、

 申請しなきゃダメらしいんだ。

  私、夏休み入ってからやるって決めたからさ。ま、別にそれを

 守ってる人なんて一人もいないけどね。

 それにしても私のドキドキなおらないかしら。


 10年後にはなおりますよ〜に。


 小心者の私。








                8月14日(日)



  お母さんと一緒に墓参りに行ってきました。


  おじいちゃんのお墓が、北千住にあるんだけど、千代田線に乗

 って、ゆらゆらと行ったの


  お墓を掃除して、お花添えて、拝んで帰ろうとしたとき、どこかで見た人がいた。担任の 石川だった。


  私は黙って帰ろうとしたんだけど、お母さんが声をかけちゃった。


 「あら〜先生」

 「ああ、こんにちは」

 「ほら、アン挨拶しなさい」

 「こ、こんにちは」

 「こんにちは」


  私はハッキリ言って、照れくさかったの。学校以外で会うのは、なんか・・・


 「先生も、ご先祖さんに会いに来たんですか?」

 「いえいえ」

 「あら、じゃあ身内の方?」

 「いえ、実は教え子なんです」

 「教え子?」

 「ええ、5年前にバイク事故で亡くなったんです」

 「あら〜」

 「夏休み中に、無免許で乗って事故起こしてしまって・・・」


  先生は、とても悲しい顔をして


 「教師としては、どんな子であっても生きていて欲しいですからね。突然の死はあまりにも 悲しすぎます」


  終業式に言った先生の言葉が身に染みた。

 

 「絶対死ぬな!」


  その言葉が、私の心の中に重く響いてきた。

  帰り道、お母さんは私の肩にそっと手を添えて、私に寄り添って歩いた。






               8月17日(水)



  妙子から久しぶりに電話が合ったの。


 「アン!今日暇?」


 「うん、暇!」


 「渋谷いこう!」


  その言葉で、私はすぐにシャワーを浴びて、家を出た。妙子からの電話はもちろん、会う ことも久しぶり。


  金町の駅で待ち合わせ。私が着いたときには、もう妙子は待ってたの。でも、それは珍し いこと。妙子は90%遅れてくる人で、時間通りなら珍しく、時間前なんかはあり得ない。そん な妙子が時間前に待っていた。


 「珍しぃ〜妙子が時間前に来るなんて」


 「まあ、たまにはね」


  妙子は笑ってたけど、今思えば曇ったような顔してたかもしれない。

  電車の中では、最近の出来事やお互いのクラスのことを途切れなく話した。

  殆ど私がしゃべっていたけど・・・


  渋谷に着いて、妙子の目の色は変わった。


 「どこ行く?マルキュー?でもお腹もすいたし、何か食べる?」

 「センター街いこ!」

 「センター街?」


  妙子は歩き出して、スクランブル交差点を通り、Q-FRONT横も通過し、センター街に入っ  た。

  この時期の渋谷は、少し人が少ないような気がする。やっぱりお盆でみんないないのか  な?

  センター街に入ったら、妙子は急にゆっくり歩いて、周りを見始めたの。


 「どうしたの?」


  私が訪ねても


 「いや・・・」


  ちゃんと答えてくれなかった。

  だから私も周りを見たけど、何があるわけでもない。

  まあ、高校生のグループが固まってタムロってるぐらい。

  そのひとグループの1人・・・


 「・・・律子?」


  律子がいた。

  律子は地べたに座り込んで話していた。髪はボサボサというか、パサパサな感じで、顔も 黒く見えた。

  服もだらしなく着ていて、ズボンからパンツどころか、お尻の割れ目が見えている。


 「律子、あんたいっ・・・」


  私の言葉を遮るように、妙子は律子の腕を掴んで、グループから外れた建物の陰に連れて いった。


 「あんた、いったい何!」

 「なに!なに!」


  私は何も言えず


 「そのカッコ!」

 「カッコいいっしょ」

 「よくない!それにこの髪!」

 「かみ?」

 「パサパサ」

 「アハハハハ・・・1週間風呂に入ってないんで・・・」


  律子は笑っていた。


 「きた・・・な・・・あんた、どーしたのよ!」

 「たえちゃんには関係ないっしょ」

 「関係ある!知ってるわよ!あんた1ヶ月家に帰ってないでしょ!」

 「アハハ、知ってるんだぁ〜」


  律子は笑っていた。妙子は律子がどんな状況かは知っていたんだ。律子が今学校に来てい ない噂を聞いて、律子の携帯に電話しても、電話に出なくて、妙子は律子の家に電話して、 お母さんから暫く帰ってないことを聞いたらしい。


  律子の噂を聞いた妙子は、いろいろ調べたらしいの。

  律子はテニス部の先輩に振られ、退部して、渋谷の街をブラブラと1人で歩いて、今の仲間 に出会ったこと。今は友達の家を転々と回り、友達の家に泊まれないときは、街で声をかけ て泊まらせてもらうらしい。

  つまり・・・男に声かける。つまり・・・エッチするから、泊まらせて・・・みたいな。

  妙子は知っていたの。全て・・・でも、私には何も言わなかった。

  妙子は律子を信じてたの。

  噂とか、人の情報より、律子を信じてた。友達だから。だから私にも何も言わないで、自 分の目で確かめたかったのだと思う。

  でも、どこか怖くて私を渋谷に誘った。


 「律子、帰ろ」


  妙子は涙を浮かべて言った。妙子は、最後まで律子を信じていた。その姿がとても辛く  て・・・

  もちろん、私もショックを隠せなくて・・・


  でも、本当に傷ついてるのは、律子かもしれない。

  その日、律子は家に帰らなかった。






                8月22日(月)−1



  箱根の山は天下の険〜♪



  と、いうことで


  今日から、旅行、行ってきま〜す!



  パチパチ



  メンバーはいつもと同じです。



  長岡恵、椎名結衣、山本倫子、そしてわたくし見上按でございます。


  短期アルバイトも終わり、なんとか旅費を稼ぎました!

  で、海に行きたかったけど、私がお金がないからって理由で旅行は延び延びってことで、 夏の終わりになりやした!



  箱根の温泉旅行〜


  超豪華!2泊3日の旅!


  なんと!当初の予定より、1泊多くなりました〜



  わぁ〜〜



  ドキドキ



  ドキドキ



  このドキドキは、緊張じゃないわよ。これから何があるんだろぅ〜って思うと、楽しみで ドキドキしてるの。だってこのメンバー最強よ!


  キチンとレポートしてくるからね。



                 乞うご期待!!






                8月22日(月)−2



  ハイ!こちら見上按です。



  只今レポート中!



  みんな寝てしまったため、レポートしながら日記、書いてます。



  今、私達は箱根の旅館に泊まってます。

  すでに、私たちの部屋は物凄い布団とか散りばめられています。


  どうしてなのでしょう。



  1 泥棒に入られた。


  2 枕投げ


  3 プロレスごっこ



  シンキングタ〜イム!



  さあ!みんな考えちゃって!




  テンテンテン♪


  ジャジャ〜ン!


  ↑クイズの効果音のつもり。



  さあ、答えは?



  2番と3番の枕投げをしてるうちに、プロレスごっこみたいになっちゃった。


  が、正解です。



  もっと女の子っぽく行こうよ(笑)


  ってか、プロレスっぽくなってたのは、私と倫子だけだけどね。

  だから彼氏出来ないのかしら。それにしてもよく寝てる。恵も疲れちゃってるみたい。ス ヤスヤ寝てる。そりゃそうよね。今日は移動して、たくさん歩いて、カラオケなんかで盛り 上がったし、枕投げとか、なんか異常にハシャイジャって・・・



  しかし、こいつは・・・



  倫子よ。私にプロレス技かけまくってさ


 「四の地固めいくっちゃよ!」


 「ロープ!ロープ!」


  恵や結衣にバトンタッチしようとしたんだけど、避けられて


 「うぉりゃ〜!!!」


  更に倫子は力をこめ


 「ギブ!ギブ!」


  畳を叩きまくった私。


  あ〜思い出したくない〜


  だからって、急に疲れて落ちちゃったのか、枕を投げようとした瞬間にねちゃったし。こ れ、立ち寝?石像みたいで、石膏で一瞬に固められたような寝方してる。チョーウケるよ。


  これ、倫子しかありえないでしょ。


  あれ?結衣の姿がないんだけど。



  結衣〜



  あれ?いない・・・


  トイレや風呂場もいない。


  隣の部屋もいない。



  どこ?



  ん?



  押入れ・・・



  開けて・・・



  いた!結衣がちっちゃく寝てた。



  普通に寝れる人は、恵だけかしら?




  フフッ




  今日はそんな1日。



  ってか、夜の出来事しか書いてないけど。


  私、散歩したくなっちゃったから、ちょっと出てくるわ。


  帰ったらまた、軽く感想書きま〜す。






                8月22日(月)−3


  只今散歩から戻りました!


  いやね・・・怖かった。


  だって有り得ないぐらい真っ暗なんだもん。


  でもさ、私って怖くても歩いてみたくなっちゃうのよ。なんちゅうのかな〜夏の空気って のか、匂いが夏!!って感じじゃない?

  それと、辺り一面に星があって、それを見るだけでも価値あるよね。

  東京じゃ、絶対有り得ないし・・・


  星を近くに感じながら、500m先にあるコンビニに行ってきたの。東京でもやってる日 常のことが、とても新鮮に感じるのはなんで?


  物凄いふしぎ〜


  それにしてもみんな、気持ち良さそうに寝てる。私は、みんなの寝顔を静かに見てた。



  みんな寝てる・・・



  私は起きてる。



  みんな寝てる・・・



  私は起きてる。



  私も、もう寝るとしよう・・・



  明日の為に。






                8月23日(火)



  も〜倫子ってチョーウケるよ。


  みんなで温泉入ったんだけどさ、タオルで前を隠しながら、お尻プリプリさせちゃって、 あれ、わざとやってるのよ。



         プリプリ♪



         プリプリ♪



  お尻振るの。湯船でもお尻だけ浮かせて泳ぐし、チョーウケた。

  みんなではしゃいだり、露天では星空を見ながら、ゆったり湯船につかったり、ほんと、 気持ちよかったよ〜




  部屋に帰ってきて、布団敷いて、電気消してみんな寝床についたけど、寝れなくてさ、そ のままなんか自然に恋ばなになって


 「倫子は、今恋してる?」


  私は聞いたの。


 「恋?いつも恋してっちゃ」

 「へぇ〜!誰?」

  私は聞いた。


 「倫子は恋多き女だもんね」

  恵が言った。


 「中学の時のクラスの男子だっちゃ。超イケメンだっちゃ」

 「倫子、面食いだもんね」

  恵が言った。


 「でね、そいつのこと好きで好きでしかたなかったちゃ。そいつ凄いもてて」

 「告白は?」

  私は聞いた。


 「ううん。出来なかったちゃ」

 「なんで!倫子っぽくない」

 「ダメっちゃよ〜私。好きな人の前だと、何も話せなくなるっちゃ」

 「へぇ〜意外」

 「儚い片思いの思い出っちゃよ」

 「結衣は?」

  私は聞いた。


 「私は・・・中学2年の時」

 「へぇ〜好きだった人?」

 「ううん。付き合ってた」

 「へぇ〜これまた意外」

  私、気になることが浮かんで


 「あのさ、経験・・・ってあるの?」

  結衣はちょっと黙った。


 「いいじゃん、いいじゃん。こういうのって、男の子の前とかだと話せないし、今、誰もい ないじゃん」

  結衣、ちょっと俯いちゃって


 「じゃあ、私から言うね。私はまだ経験ありません。倫子は?」

 「ないっちゃ」

  ちょっと、結衣は更に俯いたけど、


 「経験・・・したの?」

  私がまた聞いたら、結衣は静かに“コクリ”と頷いたの。その瞬間


 「いいぁ〜」

  私と倫子は叫んじゃった。

 「恵は!?」

  聞いたら、恵も頷いたの。

 「やっぱり。経験ある人多いのよ。雑誌にも書いてあったもん。私達っておくてなのかし  ら?」

  私がそんな風に話してたら恵、なんか言いづらそうな顔したから

 「どうした?」

  聞いたけど、答えなくて

 「うちらだからさ、なんでも話してみてよ」

  恵、ちょっと沈黙して

 「私、レイプされたの」

 「えっ?」

  声に出なかったけど

 「男友達2人に・・・」

 「それで・・・?」

  続きなんて聞くもんじゃないかもしれない。でも、私は聞いてしまった。

 「中3の時、友達の家で遊ぼうって話になって、もう1人女友達も一緒のはずだったんだけ ど、来れなくなって、それで、その家で・・・」

 「・・・ごめんね」

  私は謝った。



 「ううん、いいの。ずっと誰にも言えなかったことだし、倫子にだって話せなかった」

 「ごめん」

  倫子も謝った。

 「ううん。いいの。後で分かったんだけど、女友達は誘ってなかったみたい。初めから、そ れが目的だったみたい・・・」

  みんな黙って

 「もう、寝ようっか」

  私は言って、天井見上げたんだけど

 「だから私、まだ男の人怖くて・・・女子高に行こうか迷ったんだけど・・・倫子もいた  し・・・でも、話せて、なんか、自分のなかにあったモヤモヤした気持ちがスッキリしたっ ていうか・・・おやすみ」



  私、ちょっとショックだった。恵はずっと辛かったんだと思う。



  私、どうすればいいんだろう・・・






                8月24日(水)



  今日もいろいろ回ったけど、あまり覚えてない。


  みんな元気で、楽しそうにしていたけど、私には空元気に見えた。


  きっと、みんな昨日の恵の話が引っかかってるのだと思う。


  恵もいつもより明るく振舞っていたように見えた。


  それはそれできっと、みんなに気を使わせてしまったことに、平然な自分を装っていたの かもしれない。


  帰りの電車の中では、私以外みんな疲れて寝ちゃった。


  ずっと、窓の外を眺めていた。


  ロマンスカーは静かに走っていて、窓の景色はまるで、映画のスクリーンに映し出される ようなどこかの国の綺麗な風景に見えた。


  ぼんやりと、窓の外を眺めていた。


  ずっと、想い、考えていた。


  私には、気になることが2つある。


  1つは、昨日の恵のこと。


  恵の話に、私はかなりショックを受けた。

  いや、私だけじゃなくて、みんなきっとショックだろう。

  それ以上に恵が傷ついてるのは分かるけど、そんなのドラマの中の出来事だと思ってた。


  恵の話があまりにも現実すぎたんだ。



  私は恵に対して、何をしてあげればいいのだろう・・・




  恵のことを考えていたら、律子のことも思った。


  これが2つ目だ。


  何故律子は私たちに話さなかった?



  友達なのに・・・



  あれから律子に連絡取れず、私、どうしたらいいの?


  心配で、ずっと窓の外を眺めて考えてた。





  その答えが見つからず・・・






                8月27日(土)



 「妙子!」


  私は呼んだの。今日は町内会の夏を締め括る盆踊り。


 「アン!」


  妙子も呼んだ。妙子と盆踊り会場に集合!


  2人、浴衣姿です。




 「妙子、凄い綺麗じゃん!」

  赤色の少し大人っぽい浴衣だった。それにしても

 「アンだってかわいいじゃん」

  妙子はそう言ってくれたけど、私はひまわりの絵柄の黄色い浴衣。めっちゃ子供じゃん! ま、気にしない!

  私は私よ!盆踊り〜♪盆踊り〜♪凄い人!広場の中心でみんな踊ってるわ!



  月が〜出た出た〜つっきがぁ〜あでた〜あヨイヨイ♪



  あ〜あ!この音楽、最高よ!


 「妙子!踊ってこよ!」


  私は妙子の手を引っ張って、私達は輪の中に入って踊った。私と妙子はマニアとはいかな いけど、まあ盆踊り仲間みたいなもので、盆踊りが超好きで、毎年この町内会の盆踊りに一 緒にいかないと、夏を終われないの。本当は律子も一緒なんだけど・・・


  連絡取れなくて。


  踊りまくった私達は縁日〜を回りまくった。なんてのかなぁ〜縁日ってのも最高っす!も う、何買おうか迷っちゃうよ〜あ゛〜

 今月まだお小遣いもらったばっかだし、バイト代の残りもあるけど、使っちゃうと1ヶ月遊 べなくなるし、



  ん〜



  ん〜



  どうぢよ〜〜



  よし!2000円だけ使うよ!


  この決断にたどり着くまで、物凄い体力使うわ!何を食べる?あんず飴?焼きとうもろこ し?綿菓子?


  ん〜迷うけど、あんず飴!


 「妙子、あんず飴食べない?」


  私は言ったの。あんず飴っていったら、ゲームがあるのよ。



  グフフフフ・・・



  そう!そのゲームに勝てば

  1本プラス。または5本まで貰えるかもしれないのよ!


  これは世紀の大チャンス!


  そのチャンスは、店員さんとジャンケンで勝つか、パチンコで穴に入れるだけ。

  私は店員さんとジャンケンゲームするあんず飴屋に行ったの。

 「いらっしゃい」

  店のオヤジが言って

 「1本」

  オヤジに勝てば、妙子と分けるわ。私の目標は4本!

  妙子と2×2で・・・



 「あい、好きなの取って!」

  あんず飴、みかんとか、種類がいくつかあって選べるの。水飴の色もいくつかあって、無 職は勿論青色とかもあって、ん〜迷う。


  とりあえず


  ジャンケンね!


  この店はまずオヤジとジャンケンして、買ったら2回戦に進むの。それが5回戦まであっ て、5回戦勝つと5本。よ〜し、いざ勝負!


 「頑張って!」


  妙子からの声援を受けて、


 「ジャ〜ンケ〜ンポイ!」


  グーとグー


 「あ〜いこでしょ〜」


  チョキとチョキ


  ヌヌッ、なかなかやるなぁ〜


 「あ〜いこでしょ〜」


  パーとパー

 

 「あ〜いこでしょ〜」


  グーとパー


 「か、勝った〜!!勝ったあ!勝った!」



  タラッタッタ〜♪


  タラッタッタ〜♪


  (アンの心の喜びの音楽)


  私は喜びまくった。


 「じゃあお嬢ちゃん、2回戦行くよ」


 「かかってらっしゃい!」


  オヤジと睨みあった。


 「ジャ〜ンケ〜ンポイ」


  パーとチョキ


  パー・・・


  ま、負けた・・・


  私は悔しさのあまり、手のひらを見ながら、跪いた。


 「じゃあ、お嬢ちゃん2本取って」

 「は〜い。妙子何がいい?」

 「私に1本くれるの?」

 「仕方ないから、あげるよ」

  2人は笑って

 「ありがとぉ〜」

  あんず飴を取った。私もあんず飴〜と、取ったら

 「あんこ!」

  何処かで聞いたことがある呼び声が聞こえた。振り向くと

 「お前、騒がしいぞ」

 「池上!」

  池上が甚平を着て、うちわをあおいで立っていた。

 「周りの人、みんな引いてたぞ」

 「なんであんたがいるのよ!」

 「なんでって、ダチと来たんだよ」

  池上の隣にはカジュアルな服装をした、黒髪の好青年ともいえる、池上とは全く正反対の 風格した人物がいた。

 「だって、あんた・・・あの・・・終業式・・・」

  覗き・・・私の中で続いた言葉。こいつ、トイレで覗いたんだ・・・

 「俺は、やってねぇよ」

  アッサリ否定。

 「だってアクセサリー」

 「知らねぇよ。勝手に学校が疑って、証拠がないからって、勝手になかったことにしただけ だよ」

 「でも、見られたって訴えた人は?」

 「いないよ」

 「誰も見られてないし、個室にアクセサリーが落ちていて、その上にあの穴があって、誰か が勝手に俺だって言ったんだよ」

 「あの〜」

  妙子は間に入って言った。

 「あ、クラスメイトの池上慎治」

  私は咄嗟に紹介したの。

 「あ、ども、初めまして。速見妙子です」

 「ども」

 「あ、ごめんなさい。間に入っちゃって」

 「いいよ別に。こいつ、俺のダチで水内悠久」

 「初めまして」

  水内は微笑み挨拶した。

 「なあ、俺達と行動しね?野郎同士だから、誰かいねぇか探してたんだよ」

  池上が言うから

 「こんなんだけど、いいか?」

  水内に聞いていた。

 「誰がこんなんなのよ!」

  しかも私、指差してるし。

  いちいちムカつくけど

 「別にいいわよ」

  了解してしまった。

 「じゃ、あんこいくぞ!」

 「誰があんこよ!」

 「あんこって何?」

  妙子が聞いてきたから

 「別に何でもないよ」

  笑って誤魔化したけど、私は覗きの真相を掴まなきゃいけないって、なんか不思議な使命 感に捕らわれたの。

 「さっきの続き、まだ終わってないけど」

 「俺はやってないって言っただろ。女どもが勝手に俺を犯人に仕立て上げたんだよ。お陰で 教師まで疑って終業式に出れなかったじゃねぇか」

 「分かったわよ。やってないのね。私は信じるよ」

  私の言葉に、池上は少し驚いたみたいで・・・

  でも私は、本当にやったんじゃないか?と疑う自分と、ちゃんと自分のこと話した池上が とても意外で、信じなきゃいけないと思う自分がいた。

  でも、4人で回ったお祭りは、楽しくて、いろいろ話もして盛り上がった。

  私が話していたのは、殆ど池上だけど・・・



  でも帰り道、池上達と別れた後

 「なんか、面白かったね」

  妙子が言った。

 「ねー」

  私も返事して

 「水内君も凄くいい人だった」

  私、水内君と全く話してなかった。そうか、私と池上が話してる間、ずっと妙子は水内君 と話してたんだ。

 「水内君、優しいし、面白いし、なんかカッコイイよね」

 「タイプなの?」

  私が聞くと

 「タイプっていうかぁ〜凄く話しやすい」

  妙子は凄く嬉しそうだった。



          どうやら、妙子の恋が始まったようだ。










                8月31日(水)



  ヤバイ!!!!!




  宿題タメタメ〜




  最悪。



  今日は夏休み最後です。でも、宿題は全部やりません。何故な

 ら、私には考えがあります。宿題は始業式に提出するわけじゃない!

  初めの授業までにやってれば間に合うのです。



  ハハハ・・・



  いい考えだわ。私って頭いいかも。


  今日終わらせちゃえば?って思うかもしれないけど、今日、全部は出来ません。

  それは、昨日のことにさかのぼります。

  そう!今日は昨日、8月30日のことを日記に書きたいと思います。

  何故昨日?そう思うかもしれませんが、実は今日一睡もしてないのです。

  つまり朝帰りだってこと。

  その出来事は、昨日の夜起きました。

  昨日も必死こいて宿題やってたんだけど、半分も終わってないけど、疲れちゃって、散歩 がてらコンビニに行ったの。近くのコンビニだとすぐだから、わざと遠くまで歩いた。

  その帰り道、江戸川の土手を歩いてたの。そしたらなんかボサボサした頭の人が土手に座 っていた。普段なら見向きもしないんだけど、なんか気になるから見たら



 「律子!」



  律子がいたの。


 「何やってるの?」

  私が近づいたら、泣いていた。

 「どうしたの?」

  律子は私の顔を見たけど、泣いて、涙もボロボロに流して、声に出なくて

 「ヒック・・・ヒック・・・ア゛・・・ン・・・ど〜じだの?」

 「どうしたの?って、それはこっちのセリフ」

 「ヒック・・・ヒック・・・」

 「も〜何?ど〜したのよ」

 「あのね。おのね。ヒック・・・」

  律子の横を見たら、大きな鞄があった。

 「家・・・出たの?」

 「ヒック・・・ヒック・・・」

  首を横に振った。

 「ほ〜ら、泣いてたって分からないでしょ。涙で化粧落ちて、目のまわり真っ黒だよ〜」

 「ア゛ン゛、あ゛りがどね」

 「友達でしょ」

  律子は笑って、大きく頷いたの。

 「どうしたの?」

 「追い出されちゃった」

 「誰に?」

 「私ね、男に家にいたの」

 「男?」

 「うん。センター街でナンパされた男なんだけど」

 「彼氏?」

 「ううん。行きずりの男」

 「あ、あんたまだそんなことしてんの?」

 「わ〜ん、怒られた〜」

 「別に怒ってないよ・・・で?」

 「彼、顔はそんなよくないけど、雰囲気がカッコよくて、なんか優しいの。私に囁いてくれ るし。『好きだよ』って」

  ちょっと私、苛立ったけど

 「エッチもね、いいの」

  私、ちょっと呆れ顔。

 「彼氏でもよかったんだけどね、昨日女が訪ねて来たの」

 「女?」

 「うん。えんちゃんがね・・・」

 「えんちゃん?」

 「うん。彼、鳶次って名前なんだ」

 「えんじ?」

 「名前もカッコイイっしょ。それも好きなんだよねぇ〜」

 「名前で?・・・で」

 「そう!えんちゃんが出かけてるとき、いきなり女が入ってきて、『あんた何!』って。私  ワケ分からなくて、『何!』って何!?みたいな。そしたらえんちゃんが帰って来て、私え んちゃんが味方になると思って、えんちゃんの側に行こうとしたら、女が『鳶次、何な   の?』って。そしたらえんちゃんが私の側に来て『出ていってくれないかな?』って。私  『えっ!』って思ったんだけど、声にならなかったの。『もう、飽きたんだよ』って言われ た」

 「それで、追い出されて辛かったの?」

  律子は顔を横に振って

 「初めは辛くなかったんだけど、えんちゃんは彼氏でもないし、私、ただ泊めさせてもらっ てるだけだし、だから、なんか自分、どうしたらいいか分かんないけど、家は出たの。で  ね、電車乗ろうとしてお財布出したら、お金がないの」

 「ないって?」

 「1円も?」

 「あんた、取られたんじゃないの?」

 「うん」

 「うん・・・って、いくら?」

 「5000円」

 「5000円も?」

 「全財産だったから、返してもらおうとしてまた家戻ったんだけど・・・玄関着いて部屋開 けようとしたら、エッチしてる声が聞こえてきて、そのまま止めちゃった」

 「じゃ、何?あんた歩いて帰ってきたの?」

  律子は頷いた。

 「彼の家は何処なの?」

 「日暮里」

 「はぁ〜?あんた日暮里から歩いて帰ってきたの?」

  律子は頷いた。

 「辛くて〜悔しくて〜歩いてたら、自分が惨めになってね、みんなに電話したけど泊めても らえなくて、涙が勝手に出てきたの」

 「それで、金町に帰ってきたの?」

  頷いた。

 「実家は?」

  律子は黙ったの。

 「帰るつもりなんでしょ?」

 「帰るつもりだけどぉ〜」

 「どぉ〜?」

 「私、家飛び出してきた感じだから」

 「あんた家出したの?」

 「家出ってゆかぁ〜お父さんと喧嘩して飛び出たってゆかぁ〜」

 「それ、家出でしょ。とにかく実家に戻りにくい訳ね。でも戻るつもりだから金町まで歩い たんでしょ」

  律子は頷いたけど

 「うちは勘弁よ。あんたの面倒は見きれないの」

  私、立ち上がって

 「ほら、家までついていってあげるよ」

  律子は立たず

 「ちょっと待って。ちょっとだけ」

 「も〜分かったよ。今日は律子に付き合うよ」

  律子は、私に申し訳ないような感じで笑った。

 「ちょっと待ってね。お母さんに電話するから」

  私、携帯取り出し

 「お母さん?今コンビニの帰りなんだけどさ、律子に会って、話し込んじゃって、今日律子 の家に泊まることにしたから。は〜い」

  私、電話を切った。

 「お母さんなんだって?」

 「こんな夜遅くにあがって、ご迷惑なんじゃないかって。こっちが迷惑かけられてるのに  ね」

 「アン、ありがとね」

 「はいはい」

  私達、少し江戸川を眺めてた。

 「律子、あんたお腹空いてるんじゃないの?」

 「うん、ペコペコ」

 「コンビニでいっぱい買い物したよ。パンあるから、パン食べなさい」

  律子は笑った。

 「アンって、お母さんみたいだね」

 「そうよ、私は律子のお母さんみたいなものよ」

  律子、安心したみたい。私はパンを渡したの。

 「美味しいね」

 「本当。たまにはいいかも」

  私も笑って、2人で空なんかも眺めちゃったりして

 「東京も星見えるんだぁ〜」

  律子が言った。

 「ほ〜んと、東京でも見えるんだね」

 「うん、あんまり空見ることないからさ、ちょっとしたことが感動しちゃうよ」

 「ほんとほんと。私、この前箱根行って来たんだけどね、すっごかったよ」

 「星?」

 「うん。めちゃめちゃ半端ない。もうあたり一面星空でさ、なんか、どう表現したらいいん だろ。生きてるって感じ?」

 「生きてる?」

 「くさい?でもその表現がピッタシかも。なんかちっちゃいことで悩んだりする自分がバカ らしくなったり、なんてんだろ〜胸にズキってくる感じなんだよね〜あの感じ。多分その場 で見なきゃ分からないと思うけど」

 「そうなんだぁ〜いいなぁ〜」

 「今度行こうよ!」

  私は言ったの。

 「うん、行きたい!」

  律子の最高の笑顔だった。2人で暫く星眺めてたんだ。その間、会話ってあんまりなかっ たけど、星見てるだけで安心しちゃって、流れ星なんか流れてないかな?って思いながら見 てたり、なんか夏の夜の匂いなんかも好きだし、私達、すっかり夏に慕ってた。

 


  その時



 「何やってんだ?」

  声が聞こえて、空を見ている私の視界にあいつの顔が現れたの。池上慎治。あいつのまぬ け〜な顔。

 「何であんたがいんのよ」

 「ただ通りかかっただけだよ」

 「あっそ。じゃあね」

 「おまえ、今また乙女チックになってたろ」

 「なってないわよ」

 「『星空が綺麗だわ〜』って思って見てたろ」

 「見てないわよ」

 「誰?」

  律子は聞いてきたの。

 「クラスメイトだけど、ムカつく奴だからムシ!ムシ!」

 「俺、池上慎治。宜しく!」

 「何カッコつけて、勝手に紹介してんのよ」

 「私、行乃律子。宜しく」

 「律子、こんな奴と自己紹介しても、時間の無駄だよ。どうせすぐ帰るし」

 「なんか話そうぜ」

  池上が座った。

 「なんで座るのよ!」

 「いいだろ?今日朝から宿題やってて、キュークツだったんだよ」

 「あんた宿題やんの?」

 「そりゃあ、やるだろ」

 「ああ、そう。じゃあ、まだ途中でしょ?帰れば?」

 「なんだよ〜」

 「私はね、今日律子がとぉ〜っても悩んでるから、相談にのってたり、慰めてるの」

 「おお、ごめん」

  池上は立ち上がった。なんか、素直になった池上が私は不思議で・・・

 「いいよ、アン。一緒に話そうよ」

 「おお、そうか!」

  池上はまた座った。

  こいつわぁ〜〜〜

  私は思いながら、池上を見る。

 「で、何悩んでるんだ?」

  なんで直球なんだよ!

  私、イライラ。

 「いろいろ、騙されたりして」

 「何でも言ってみろ!俺が聞いてやるよ!」

  もう上目線?出会って何分かで、威張ってるわ。



  さいてぇ〜



 

 「あ〜あ、私何やってんだろ」

  律子は空を見上げた。

 「まあ、何があったか知らねぇけどさ、こーゆうとき、ぶっちゃけトークでもしね?」

 「何なのよ、それ」

  私が聞くと

 「ほら、なんか落ち込んでるとき、人の不幸な話とか恥ずかしい話聞くと安心するだろ?だ から、自分の不幸な話をぶっちゃけて、笑ってもらうんだよ」

 「何よそれ」

 「今なら笑える話ぐらいあるだろ?」

 「ま、まあ」

 「じゃあ、あんこからな」

 「なんで私なのよ!あんたから言いなさいよ!」

 「分かったよ。じゃあ、行くよ!俺、小学校4年まで小便漏らしてました!」

  “プッ”って律子が吹き出した。

 「あ〜律子が吹き出した〜」

  横を見ると、少し顔を赤くした池上の姿。

 「ちょっと、あんたも自分で言っといて、何で顔赤くしてんのよ」

 「ちょ、ちょっと恥ずかしかった」

  なんか、笑っちゃった。あんな顔の池上見たことなかったし、自分でぶっちゃけトークし よ!って言って、自分が恥ずかしくなってるの。チョーウケるよ。

 「あ!後、昨日、ウンコ踏みました!ズルッと転げて、危うく尻もちつきそうだったよ。そ の瞬間、ドキッとして、ウンコ漏れそうだった」

  律子は笑った。池上も、ウンコの話に辱めはないみたいだ。

  でも、そのウンコが律子にはウケて

 「ウンコ!ウンコ!ウンコウンコウンコウンコウンコ。ウンコ!」

  律子、池上がウンコ!って叫ぶたびに、めちゃくちゃウケてた。

 「じゃ、あんこの番」

 「私、テスト中間、期末、両方で赤点取りました!」

 「おまえ、アホだなぁ〜」

  ムカついたけど・・・

  開き直って

 「はい、アホで〜す」

  キャラでもないことやってみたけど・・・

 「あんたはどうなのよ」

 「俺?3つ」

 「期末だけで?」

 「ああ」

 「人のこと言えないじゃない」

 「バレピー」

  変顔した。

 「そう、数学と理科と国語なんだけどさ、国語、0点取っちまったよ」

 「マジで?」

 「これがさ、ひでぇ〜んだよ。名前書き忘れただけで0点。しかも本当だったら65点だっ たんだぜ。俺の中の最高得点」

 「それ酷いね」

  律子が言った。

 「だろ!ひでぇ〜よ。今どきねぇ〜だろ」

 「それにしてはあんた何も言わなかったね」

 「何を?」

 「だっていつも赤点取ったら騒いでるじゃない?今回も数学は叫んでたし」

 「さすがに2つ、3つ赤点取ると、情けなくなってくるんだよ。しかも名無しで0点って」

 「そうね」

  私は納得したというか、池上のそういう一面があることにまた、驚いた。

 「じゃあ、次は律子だよ」

 「わたし・・・私ね、家出しました!お父さんと喧嘩して。いや、些細なことというか、私 が悪いんだけど、テニス部の先輩に告白して振られ、テニス部を止めたことに、お父さんに いろいろ言われてさ」

 「なんて言われたのよ」

 「『おまえは、何にも続いた試しがない。全てだ。遊んでばかりで、勉強も習い事も中途半 端』」

 「何それ」

 「しかも『なんだこのチャラチャラした服は!』って。『女の子が風呂も入らず、髪が乱れ てみっともない!』」

 「そんな!」

 「『おまえはうちの恥だ!』って」

 「お父さんは分かってないよ!律子のこと!」

 「私さ、辛くなって、家飛び出して、恥ならもっと恥になってやれ!って、どっか意地にな って、いろんな友達と付き合ったけど・・・あ、でもそれはそれなりに楽しかったりしたの よ。でも、ああ騙されたり、裏切られたりするとさ・・・もう、傷つきたくなくて、自分を 傷つけて覚悟決めてきたつもりだけど、ああなると・・・やっぱ辛いね」

 「律子・・・」

  本当に辛そうな顔をしていた。



 「あのさ、よくわかんねぇな〜」

  池上が口を挟んだ。

 「何がよ」

  私は言った。

 「だって、律子は律子じゃねぇ〜か」

 「ハッ!?」

 「俺だってさ、結構辛いんだぜ」

 「あんたの何が辛いのよ」

 「これ、ぶっちゃけトークだよな」

 「そうよ」

 「じゃあ、本当にぶっちゃけま〜す」

 「何!?」

 「俺、親いないんだよ」

 「えっ!?」

  私は驚いたの。

 「別に秘密にしてる訳じゃねぇ〜んだけど、そぉゆ〜のあんま自分じゃ言わねぇじゃん」

 「今、何処に住んでるの?」

  律子が聞いた。

 「おばさん家だよ」

 「何で?今、お父さんやお母さんは?」

 「知らねぇ。俺は5才の時、捨てられたんだよ」

  私と律子は驚きながら、なんて言えば分からないまま、黙って聞いていたの。

 「俺ってさ、望まれて生まれた子供じゃねぇんだよ」

 「そんなぁ〜」

  私から出た言葉。

 「いや、そうなんだよ。ワンナイトラブで出来た子供なんだよ」

 「ワンナイトラブ?」

  私、静かに聞いた。

 「つまり、俺の親父と母親が、飲み会で知り合って、酔った勢いでエッチして、俺が出来ち ゃったってこと」

 「酷い・・・」

  本当に酷いと思った。そんなことが、本当にあるってこと。

 「ひでぇ〜だろ〜俺が出来て、おろす金もないし、仕方なく結婚

 して、仕方なく俺を育てたんだよ。で、俺が5才のとき、親父

 も母親も好きな人が出来て、おばさんの家に置いていなくなった」

 「本当にそう言ったの?」

  私は聞いた。

 「何が?」

 「仕方なく・・・って」

 「言ってねぇ〜けど、俺だってもう分かるよ」

  私は、自分のことを思った。

 「でも、何でおばさんなの?」

 「えっ?」

  私は律子を見た。

 「親じゃなくて・・・」

  律子は言って、池上はまた説明してくれたの。

 「なんでおじいちゃんやおばあちゃんじゃないかって?」

  律子は頷き

 「おばさんが人がいいからだろ。俺も聞いたことないからわかん

 ねぇけど、おばさんは子供いなかったし、都合よかったんだろ。

 親だと怒られるし」

 「そんな、無責任な」

  律子は瞬きも出来ないくらい、ショックで・・・

 「でも俺、別に恨んでねぇよ。昔のことだろ」

  そう割り切れる池上が凄く見えて・・・

 「ただ、5才だろ?微妙に記憶があったりして、考えたりしない

 のに、あのころのことが思い出されるんだ」

  私達はただ、池上を見て

 「辛いんだ・・・」

  それが、本当の気持ちだろう・・・

  わたし・・・私も自分を想った。お父さんとのこと。もう5年も会ってないや。




  すっかり、辺りは明るくなって



 「帰ろうか・・・」



  律子が言った。


 「大丈夫?」


  私、お父さんとの・・・心配だった。


 「うん、大丈夫。やっぱ、私には実家しかないもんね。お父さん

 も、あんな感じだけど、心配してると思うし」


 「そっか・・・」


  池上が立ち上がり


 「じゃあ、俺帰るよ」


  私も律子も立ち上がり


 「ありがとう・・・」


  私はお礼を言った。



  そして、あいつの歩き去る姿を見送って、律子を家まで送った

 んだ。






  これが、夏休み最後の出来事。

 

  いろんな想いが交差して・・・




  さあ、寝ようかな。


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