寸説 《ボクと季節》
寸説が童話に挑戦。
春が来れば、動物や草花は目を覚ます。
夏が来れば、動物や草花は頑張って働く。
秋が来れば、動物や草花はご飯を食べる。
冬が来れば、動物や草花はお休みと言う。
それを繰り返して動物や草花は、そしてボクは生きていく。
動物や草花が一年を元気に過ごせるのは、季節の塔にかわりばんこに来る女王様のおかげ。
春の女王は優しく。夏の女王は元気良く。秋の女王はお話好き。冬の女王は格好いい。
みんな女王様が好きだった。女王様たちもみんなが好きだった。
今年も春の女王に起こしてもらい、夏の女王といっしょに働き、秋の女王とお話ししながらご飯を食べて、冬の女王と寝る準備をした。
「冬の女王様、お休みなさい」
動物や草花は笑って言った。
「お休みなさい。また来年」
冬の女王も笑って言った。
動物や草花は季節の塔から、おうちに帰った。
さあ、ボクも帰ろう。雪が来る前に帰ろう。彼らは頑固者。早く帰らないと雪たちに怒られてしまう。
春の女王が来れば、雪たちも優しくなって帰っていく。それまで温かいスープを飲んで過ごそう。
お休みなさい、女王様。お休みなさい、動物や草花。
そして冬が終わりを迎える。
「冬将軍、冬将軍」
「なんでございましょう冬の王子?」
「そろそろ冬は終わるのか? 早くお城に帰りたい」
初めて冬の城から出た王子はヘトヘトに疲れていた。
「ではでは雪を呼びましょう。彼らを呼んで帰りましょう」
冬将軍が大声で呼ぶと雪の兵隊はぞろぞろ、ぞろぞろと冬の王子たちがいる山を登っていく。
「どうした、どうした冬将軍。今年の冬は終わったのか? わしらの仕事は終わったのか?」
白髭を生やした雪の兵隊が冬将軍に訊く。
「そうだ、そうだ雪の兵。今年もお疲れ、雪の兵」
冬将軍は雪の兵隊を労ると彼らは高らかに笑った。
「それなら、それなら冬将軍。わしらは山で一休み。春が来るまで冬休み」
雪の兵隊は歌に躍りに騒ぎ出す。
「ではでは行きましょう、冬の王子。冬の女王が待っています。冬の王が待っています」
「そうだな、そうだな冬将軍。塔に帰って母上に、城に帰って父上に」
冬の王子と冬将軍は氷の馬に乗り、冬の女王が待つ季節の塔に向かいます。
「あれあれ、あれは冬将軍。あそこにいるのは誰ですか?」
山をおりた二人。そこで冬の王子が冬将軍に聞いてみた。
「おやおや、あの子は桜の姫。春を唄うお姫様」
冬の王子は自分と年の近い女の子と会ったことがなかった。だから気になり、彼女のところまで氷の馬で駆けた。
大きな大きな花も葉っぱもない樹の下にいた桜の姫はスヤスヤと樹にもたれかかり寝ていた。
「なんとも、なんとも美しい。桜の姫は美しい」
桜色の長い髪に桃色のお着物、梅の赤い紅をさした桜の姫。
彼女に一目惚れの冬の王子。桜の姫に声をかけます。
「桜の姫、桜の姫。起きてください。僕と一緒に話しましょう。僕と一緒に踊りましょう」
何度も話しかけるが桜の姫はスヤスヤと眠っている。
「どうして、どうして冬将軍。どうして桜の姫は起きないの? 桜の姫はお寝坊さん?」
不思議そうに首をかしげる冬の王子。
「おそらく、たぶん春が来れば桜の姫は目を覚ます。春の女王が塔に入れば暖かい春が来る。温かい春が来れば桜は満開、目を覚ます」
「そうだね、そうだね冬将軍。さっそく春の女王に来てもらおう」
冬の王子は春の女王が住んでいる春の城に向かおうとしますが、冬将軍に止められました。
「無理です、無理です冬の王子。春の女王が塔に入れば春が来てしまう。春が来たら冬の城に帰らねば。春の中で我らは生きられません」
動物や草花と違って季節を守るものたちは与えられた季節以外では生きられない。塔にいる女王が季節を決めて、兵隊は季節を守る。役目が終われば城に帰る。それが約束。
約束を破れば、春は疲れ、夏は泣き出し、秋は悩み、冬は溶ける。
それでも冬の王子は桜の姫とお話がしたい。冬将軍に塔に戻るように言って、冬の王子は氷の馬で春の城に向かいました。
さてさて冬も終わるかな。ボクも春を迎える準備をしないと。
薪を割っていた斧は置いて、畑を耕す鍬を持つ。
耕し、種蒔き、芽吹き待つ。
雑草とって、水やり、実り待つ。
刈り取り、摘み取り、冬と待つ。
さて冬が終わる。ボクも春を迎えよう
ん? おかしいな。春一番が春の便りを届けに来ない。遅れているのか? 今までこんなことはなかったのに。
まあいいか。雪は山でお祭り騒ぎ、春の女王が塔に入れば、僕たちも春を祝おう。
ボクは鍬をもって畑を見ていた。
待てど待てども春は来ない。このままでは種を蒔いても種の子達は寝てしまう。
「手紙だ、手紙。手紙だよ!」
おや、やっと春一番が春の便りを届けに来たようだ。
「手紙だ、手紙。手紙だよ! 冬の王の手紙だよ!」
おや、おやおや。手紙を届けに来たのは春一番じゃなく。みぞれだった。彼女が来るということは春の女王は塔にはいない。冬のままだ。
ボクはみぞれに礼を言って、冬の王の手紙を読んだ。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。 』
これは、これは大変だ。春が来ないぞ、大変だ。
ボクは急いで季節の塔へ向かった。
その頃、春の城は大騒ぎ。
「冬の王子が帰らない!?」
「このままでは季節の塔には向かえない!?」
「向かったら冬の王子が溶けてしまう!?」
「溶けてしまったら冬と喧嘩になってしまう!?」
「どうする、どうする春の女王!?」
菜の花、つくし、たんぽぽ、チューリップ、菊の兵隊が右にいったり左にいったり。
「あらあら、まあまあ。どうしましょう」
春の女王は困ったように笑った。
冬の王子が春の城を訪ねてきた。お願いがあるようだが、それは難しい。
諦めるように言っても冬の王子は聞いてくれない。さすが一番頑固な冬の住人。
「困った困った、困ったわ」
春の女王は困ったように笑い続けていた。
その頃、季節の塔は泣いていた。
「どうして、どうして冬の王子。どうして帰ってこないの?」
冬の女王は涙を流すたびに涙は氷になって床に落ちていく。
「泣かないで冬の女王様。涙で季節の塔が凍ってしまう。あなたが泣くと冬が泣いてしまう」
あられのメイドたちが涙を掃除するが、すぐに氷の山が出来てしまう。
それでも冬の女王は泣き続けた。季節を凍らせ続けた。
あれあれ、寒いぞ、寒すぎる。
ボクが季節の塔に向かうにつれて寒さが強くなってきた。
あれあれ、あそこに雪がいる。あそこにはみぞれが、あられがいる。なんと雹までいる。
これはこれは大変だ。季節が凍り続けてる。このままでは動物や草花は起きられない。起きてくれなかったらボクは生きれない。急がないと。
ボクは季節の塔に辿り着くが頑固な雪に止められた。
「待て待て人間。待ちなさい。季節の塔に何のようだ?」
ボクは冬の王の手紙を雪に見せた。
「これはこれは、なるほどなるほど。どうぞお城にお入りなさい。冬の女王を助けてください」
ボクは季節の塔に入り、冬の女王と出会う。
どうして泣いているのですか?
「冬の王子が帰ってこない」
彼女はそれを繰り返すばかりだった。
「冬の女王様。冬将軍がお帰りです」
あられのメイドに連れてこられたのは冬将軍。
「冬の女王、冬の女王。冬の王子は桜の姫に一目惚れ。春が来るまで帰らない」
冬将軍に言われて冬の女王は今まで以上に泣きました。涙の氷は大粒になり、季節の塔を凍らせ始めました。
これはこれは大変だ。このままでは季節の塔と一緒にボクも凍ってしまう。冬の王子に会わないと、春の城に行かないと。
ボクは春の城まで走った。
おやおや、あれは桜の姫。春が来ないから、お寝坊さん。早くお花見がしたいな。
おやおや、あれは冬の王子。春の城で怒ってる、春の女王が来なくて怒ってる。
帰りましょう、冬の王子。
「やあやあ人間、聞いてくれ。春の女王が来てくれない。春が来ないと彼女と話せない」
冬の王子は話を聞かない。春来い、春来い、冬の王子は言っている。
ボクは春の城に入れてもらい。春の女王と出会う。
「なんと、なんと人間だ!」
「人間が城に攻めてきた!」
「人間、人間、大変だ!」
「冬が怒って人間を!」
「人間を城に連れてきた!」
菜の花、つくし、たんぽぽ、チューリップ、菊の兵隊がボクを見て大騒ぎ。ボクはそんなに怖いだろうか?
「ようこそ、ようこそ、人間さん」
春の女王は優しく笑う。
春の女王は何かお困りですか?
「そうなのです、そうなのです。冬の王子がお帰りにならないと、季節の塔に向かえません。春を急げば冬の王子が溶けてしまう」
困った、困った、困ったわ。春の女王は困ったように笑った。
ではではボクが何とかしましょう。冬の王子を説得しましょう。
ボクは春の城を出て、冬の王子のもとに戻る。
冬の王子、冬が君を待っている。早くお帰りなさい。
「やあやあ人間。僕は桜の姫とお話しするまで帰らない」
春の女王が季節の塔に入らないと、桜の姫は起きないよ。
「だから、だから待っている。春の女王を待っている」
でもでも春の女王が季節の塔に入れば君は溶けてしまう。
「それでも、それでも僕は桜の姫とお話したい。何か方法は無いものか?」
ボクは、う~んと考える。
それなら、それなら冬と春を一緒にすればいい。
「それはダメだよ。季節の塔に女王は一人、季節も一つ。それが季節のお仕事さ。それが季節の約束さ」
それなら、それならお祭りだ。冬の祭りに春の住人をご招待。仕事じゃなければ大丈夫。
「それは、それは良い考え。さっそく準備をしなければ」
氷の馬に乗って冬の王子は季節の塔に帰っていった。
春の女王に伝えると、彼女は嬉しそうに笑った。
「それは、それは楽しそう。冬のお祭り、楽しそう」
でもでも、と春の女王は心配顔。
「冬と春が一緒にいて大丈夫かしら」
冬の女王と春の女王が二人いれば大丈夫さ。
春の女王はボクのことを信じてくれて優しく笑った。
「ではでは季節の塔に向かいましょう」
春の女王は菜の花、つくし、たんぽぽ、チューリップ、菊の兵隊を連れて季節の塔に向かった。春の女王の周りは暖かく、優しい草花の香りがした。
季節の塔に着くと、冬たちが迎え入れてくれた。
「お招きいただきありがとうございます」
「来てくれて嬉しいです」
春の女王と冬の女王は微笑む。
春の女王が来てくれて、季節の塔の凍りは溶けていた。それでも冬たちが元気なのは冬の女王のおかげだろう。
「あらあら何だか楽しそう。眠っていたからお腹がグーグー」
何と今まで眠っていた桜の姫が起きました。
「おやおやこれは桜の姫。僕と一緒にお話しましょう」
「あらあら、それは楽しそう。お腹一杯食べながらお話しましょう」
冬の王子は桜の姫を誘って楽しげに話をしていた。
冬の女王と春の女王も、冬と春の住人も、お祭りを楽しんでいた。
本来は一緒に居てはいけない二つの季節。だけど今日だけは二つの季節は互いをお祝いした。
お祭りが終った、次の朝。冬の住人たちは冬の女王と共に冬の王が待つ冬の城に帰った。
「それでは桜の姫、お願いしますね」
「お任せください! 春の女王」
春の女王に元気に答える桜の姫。彼女が唄い、踊ると桜の花びらが舞う。
春が伝わり世界が暖かさで包まれた。動物や草花は目を覚ます。
「春だ! 春だ! 今年も春がやって来たぞ! みんな起きろ!」
目覚めた彼らに春一番が便りを届ける。受け取った動物や草花はうーんと背伸びした。
さあ、春が始まる。
ボクも家に帰って春を迎えないと。
耕し、種蒔き、芽吹き待つ。
今年も一年が平和であるように。
え? 冬の王からの褒美は何にしたって?
それは秘密だよ。
だってみんなが羨ましくなっちゃうからね。
おしまい
投稿できました。今回はmask です。
久しぶりにmaさんと共著しました。
いや~長編でも短編でも争いばっかなので二人で荒んでんな、と苦笑い。
今回は童話ということで平和にいきました。
いや~童話って美しいですね。今まで自分が腹黒かったか(笑)
なので、お楽しみください。
では、これからも頑張りmask 。