第一章の八
『おい貴様、これは本当に意味があるのか?』
『目隠しをしてるから大丈夫なのですよ!』
いや、絶対に大丈夫ではない。
だっていくら目隠しをしていても、私とフェブリの体は一つ――つまり、フェブリが自分の胸を洗えば、その感覚が私の手のひらに……ゲフンゲフンなところを洗えば、その感覚が私の手のひらにも伝わってくるのだ。
そして今、フェブリは例の通り胸を――ちょうどいい大きさを持ちつつ、触っていてとても柔かいおっぱい様を洗っている。
モミモミなでなでと。
マシュマロのような弾力、指が沈む感覚。
フェブリは自分で洗っていて少しくすぐったいのか、まれに「んっ」とどこか色っぽい声を出したりしている。
…………。
………………。
……………………。
なーんていうイベントが発生するのではないか。
そんな淡い妄想をしていた頃が、私にもありましたとさ。
なんだよ、これ。
なんなんだよこれ。
どうしてこうなったんだよ。
フェブリの奴、バカなのか。
いやむしろあいつ、鬼畜の類な気がする。
フェブリへの文句を脳内に思い浮かべつつ、私はボーっと虚空を見つめている。
言葉を口に出さず、動かず、ただひたすら空を見ている理由ははただ一つ。
それしか出来ないからだ。
それしか出来ない体になってしまった体。
私は視界の隅っこに移る自分の手足に意識を移す。
そこにあるのは――モコモコだ。
まるでぬいぐるみのような……否、完全にぬいぐるみのモコモコだ。
モコモコとして可愛らしいクマさんぬいぐるみの手だ。
ここまで言えばわかるだろう。
そう、フェブリの奥の手とは私の魂をクマさんの中に移してから風呂に入る事だ。
「…………」
いいんだけどさ。
別にスライムに汚されたのは体だけだから、フェブリが風呂に入れば全て解決するんだけどさ。
何か違う気がする。
スライムに心まで汚された。
そういうと何か語弊があるが、気分的に何だか……ね。
うん、まぁいんだけどさ。
私は相も変わらず虚空を見つめ、フェブリが戻ってくるのを待ち続けるのだった。