第一章の七
「ネチョネチョして気持ち悪いのですよ……」
酷い目にあった。
フェブリが言うように、ネチョネチョで気持ち悪いのは勿論だが。私が一番嫌だったのは、あと少しで凌辱ゲーのヒロインのようなめにあっていたことだ。
男なのに凌辱ゲーのヒロインって……。
「体は女の子なのですよ! ちゃんとした狐っ娘なのですよ!」
何にせよよかった。
助けが間に合って、本当によかった。
「良くないのですよ……ネチョネチョで服が体に張り付いて気持ち悪いのですよ。あとこのネチョネチョ、いつまで経っても生暖かくて……それに苦いのですよ」
「…………」
考えるな。
余計な事を考えるな。
下手をすれば、私の考えた事はフェブリに――。
「どうしたのです?」
「べ、別に何でもないし! これからどうするか考えてただけだし!」
「これから、本当にどうするのです?」
「……それな」
本当にどうしたものか。
あれからさらに数時間後、もう周囲が闇に包まれる時間帯。
私達は近くの宿屋にやってきていた。
問題は二つある。
一つ――今日は偶然金があったが、あと一週間もしない内になくなる。
二つ――風呂どうしよう、トイレどうしよう。色々どうしよう。
「ど、どうしよう……俺どうしよう。どうしよう、ねぇフェブリどうすればいいかな!?」
「ま、まおう様落ち着くのですよ! クールですよ! まおう様は頭脳明晰冷静沈着、いつもクールなのですよ! そんなまおう様がフェブリは大好きなのですよ!」
「そ、そうだよね……うん、そんな俺の事をフェブリは好きなんだよね! そうだよね! そうだよね!? そうだよ! それが問題なんだよ! 俺ってばこれから、俺の事好きな子と風呂入るの!? 無理だよ! どうするんだよ! どうしよう、どうしようフェブリ……俺、無理だよ! 心臓破裂しそうだよ! 元引きこもりには無理だよ、ハードル高いよ!」
「だ、だから落ち着くのですよ! まず一人称を『私』に戻すのですよ! 話はそれからなのですよ!」
「そ、そうだよね! 俺氏に戻さないとだよな……うん! よし、俺氏は冷静になった!」
「ふ、ふぇぇ」
もうだめだ。
女の子と一緒――女の子の体で風呂入るとか無理だ。
死ねる。
もう死んでるけど死ねる。
「まおう様」
「ふぇぇ……もう元の世界に帰りたいお」
「まおう様!」
「!」
フェブリの声に……っていうか、よく考えてみると俺が喋っている時もフェブリの声だな。
「下らない事を言っている時ではないのですよ!」
「貴様、ときどき私に対してなめた態度とるよな」
フェブリの態度の事を考えて居たせいか、何だか少し冷静になった気がする。というか、少しテンパりすぎて居た気がする。
私は二次元の世界で数多の女の子と付き合い、何度も何度も女の子たちと様々な体験をした生粋のプレイボーイ。
べ、べべべべべ別に、ふぇ、フェブリと風呂に入るとか、少しもしもしへ、平気だししだ!
「まおう様、奥の手があるから大丈夫なのですよ!」
「お、奥の手?」
「奥義なのですよ!」
えっへんと大きくもなく小さくもない、整った形の美しい胸を逸らしながら耳をピコピコさせるフェブリのイメージがよぎる。
私はそんなフェブリの姿に、何だか嫌な予感がするのだった。