第四章の二十六
私が地面を強く蹴って走りだすと、メディアはすぐに迎撃してくる……と思いきや、槍を構えることもせずにただその場に立っているだけ。
おそらく自分の勝利を確信しているため、わざわざ構えを取る必要もないという意思表示の表れか、もしくはハンデのつもりなのか。
真相はメディアにしかわからないが、どうやら彼女はまともに戦うつもりがないらしい――もっとも、彼女にとってはまともに戦わなくても、私程度は瞬殺できる相手ということなのだろうが。
つまり完全に油断している。
であるならば、私が勝つ確率はかなり高い。
メディアが私とまともに戦う気がないように、私にも彼女とまともに戦う気はないのだから。
というか、今の私がメディアとまともに戦うのは確実に不可能だ。
だから私は戦わない。
油断しているなら油断しているうちに勝負を決める。
私はまず先ほどから準備していたベビーファイアの威力を最小まで絞り、その絞った分の値を全て範囲に変更させて、眼の前のメディアへと解き放つ。
すると、威力はともかく規模だけなら上級魔法にも引けを取らないであろう爆炎が、私とメディアの間で舞い踊る。
「こんなの……っ!」
若干イライラした様子のメディアの声と共に、私が先ほどいたいた位置に突き出されるのは件の槍――しかし、私はすでにそこにはいない。
先ほどの炎を目くらましに使用している間に右斜め前方へと距離をさらに詰めさせてもらったのである。
続いて、私はベビーアクアの攻撃範囲を最小限まで絞り、絞った分を威力に注ぎ込むという先ほどとは真逆の行いをする。
調整が完了したベビーアクアは、私の手のひらを覆うような面積しか保ってはいない。
しかし。
「これで失敗したら笑えないな」
私はベビーアクアを纏った掌底を、槍へと叩きむ。
「なっ!?」
メディアの驚愕した声と共に響いたのは、金属を思い切り叩いたような鈍くも澄んだようにも聞こえる独特の音。
それと同時に、未だ僅かに残る炎の影の向こうで、槍がどこかへ飛ばされていくのがハッキリと見える。
やるならいましかない。
メディアが再び槍を呼び出す前に、私は再度強く地面を蹴って右手を前へ前へ……ひたすら前へと突き出すのだった。




