第一章の六
街から歩いて十数分の森に、私とフェブリはやってきた――まぁ、体が一つなので私達と言うのもおかしいが……その辺は置いておいて。
澄んだ空気。
青々とした木々。
「まさに冒険者の始まりって感じだな」
この森は弱いモンスターしか出ないので、レベル上げ場所として駆け出し冒険者にとってもってこいの場所らしい。
故に雰囲気も出ている。
「魔王城周辺は荒地でしたし、まおう様はいきなり強い敵ばかり倒してレベル上げてたみたいですし、やっぱりこういう場所は初めてなのです?」
「あぁ……正直、正直なところ少し興奮しているよ。魔王としての力を失った今、今度の私は異世界転生系ライトノベルの主人公のような、日常っぽい冒険生活をここから送っていくのだ、とな」
「?」
魔王として培ってきた戦闘知識を使い、私はモンスターをちぎっては投げちぎっては投げ。
どんどんレベルを上げていき、この街一番の冒険者と言われるようになったりしたら、豪邸を買っていずれ出来るであろう優秀な冒険者仲間と一緒に住むのだ。
ラブでコメっぽいハーレム生活を送り、適度に中二病な戦闘をこなし。
「ふっ、冒険者生活も中々捨てたものではないな」
「まだ冒険者になってから、何にもしてないのですよ」
「うるさいぞフェブリ、今から私のかっこいいところを見せてやる!」
おっと、ちょうどいいところにスライムが居るじゃないか。
元魔王知識によるとだ。
スライムは物理攻撃にとことん強く、魔法攻撃に異常に弱い。中には特殊な能力を持った上位スライムも居るが、ここらのレベル帯でそれはまずないだろう。
「まおう様、まおう様! 大変なのですよ! スライムがこっちに気が付いたのです! 襲ってくるのですよ!」
「安心しろ、この私が……万物を総べる元素魔法を操る魔導の化身であるこのっ、わったしが! 今からあのスライムを消し去ってやろうではないか!」
「まおう様、あんまりセンスが……やっぱり何でもないのですよ。応援してるのですよ!」
部下に(今は部下ではないが)期待されてやる気が出た私は、全力で詠唱を始める。
「す、すごいのですよ! まおう様、魔法が一気に三つ使えるのです!? かっこいいのですよ! 惚れるのですよ!」
あぁ、そうだ。
私はすごい。
何だか舐めた態度だったが、ようやく私の凄さに気が付いたかフェブリ。
本来、魔法を使う際にはクソ長ったらしい詠唱をしなければならない。
詠唱は口に出しても、脳内に浮かべてもどっちでもいいのだが、おそらくどんなに上等な魔法使いでも二つ同時に魔法を使う事などで着ないはずだ。
しかし、私は出来る。
一気に三つまでクソ長ったらしい詠唱が出来る。
一気に三つも魔法を同時発動できる。
それは何故か?
「それは私がぺ――っ!?」
数時間後。
クソ長ったらしい詠唱中にスライムに丸呑みされ、体をいいように弄ばれていた私達は……通りすがりの冒険者になんとか救出されたのだった。
この前、俺が働いている本屋で……自分の本が買われていくのを目撃した。
買ってくれてるところに遭遇したの初めてだから、くっそ嬉しかった。
思わず駆けよって「ありがとうございますhshs」って言いたかったが、さすがに自重した。
という訳で俺氏。
ノリノリモードに突入したので、掲載速度少し上昇しますhshs