第一章の四
魔王。
強力無比な闇魔法の数々、とにかく派手で規格外の禁忌魔法の数々。
極め付けに漂う圧倒的なカッコイイオーラ。
中二病患者にとっては正に理想、是が非でもなりたい職業だろう。
「ならどうしてまた魔王を目指さないのです?」
「そんなの決まっている」
私は前世――転生する前の世界では、日本で生きるごく普通の引きこもりフツメン学生だった。
そう、私は普段恰好つけて喋っているが……俺はただの学生だった男だ。
もう身内に殺されるとかなんだのの、ドロドロした世界に身を落としたくはない――少し考えればわかる事だった。
魔王と言えば……というか、魔族といえば何だか裏切りとか謀略が蔓延って居そうなイメージがある。
そこに実力はあるものの、ピュアな俺が飛びこめばどうなるか。
今思えばあの裏切りは起こるべくして起こったのかもしれない。
「みんなが反乱起こしたのは、人間を襲うなとか……無駄な殺生はするなとか、一部の魔族にとって致命的な命令を出したからなのですよ。フェブリみたいな狐っ娘族にとっては大した問題ではないですけど、吸血鬼っ娘族とかにとっては致命的なのですよ!」
うぉっほん!
なんだかフェブリが私の政策のせいで反乱が起きた――みたいなニュアンスの発言をしているが、気にしない事にしておこう。
「要するにだ。私はもう魔王とかいう中二病で凄くかっこいいだけの職業に興味はない」
「未練タラタラに感じるのですよ……」
「うっさい! 未練なんかもうないし!」
「ふぇぇなのですよぉ」
私は一旦落ち着くために、テーブルの上に乗っているコーヒーを――
「これ不味いから嫌なのですよ! コーヒー飲むなら、口直しに油揚げを食べたいのですよ!」
「残念だったなフェブリ、私は油揚げが大嫌いだ……ゴクゴクっと」
「うぅ……苦くて熱い液体が流れ込んでくるのですよぉ」
「卑猥な事を言うな」
「え……何がなのです?」
「…………」
にしてもなるほど。
体が一つだとこういう事にもなるわけか。
「まぁ話の続きだが、私はもう魔王に興味はなくなったので」
「なので……なのです?」
要するに中二病な気分が味わえ、魔王よりもドロドロしていなければ私は何でもいいのだ。
何でもよくはないのだが、おおよそ何でもいい。
「良く聞けフェブリ!」
「ドキドキなのですよ!」
傍から見ると先ほどから一人で喋っているため、酒場中の人々の注目を集めていた私。けれどもその状況にテンションで抗いつつ、私はシュバっと立ちあがりバっとクソかっこいいポーズを取りながら宣言する。
「この私、アサヒシュウは宣言する! 冒険者として世界最強の魔法使いを目指しつつ、安全かつそれなりに燃える毎日をおくることを!」
「……何だか恰好わるいのですよ」
「う、うっさい!」