第一章の三
あれから数分後、とりあえず言い争いの妥協点として――というか、私が一方的に妥協した。言い方を変えるのなら、もうあきらめたと言った方がいいだろう。
フェブリに何を言ってもダメだ。
こいつはひたすら喋りまくる、止まる気配はない。
「それほどでもないのですよ!」
「…………」
それに、こいつには命を助けてもらった恩もある。
正確に言うのなら、私の体は死んでいるみたいなので、命を助けたというと語弊がある気がするが、とりあえずニュアンス的にはそれで正しいだろう。
そんな命を助けてくれた相手に、一生喋るなという訳にもいかないため、ここは私が――。
「照れるのですよ!」
「フェブリ、一つ気になっていたんだが……貴様、私の心を読んでいないか?」
「体が一つだから考える事もわかるのですよ!」
ふむ、なるほど。
「ではなぜ私は貴様の心を読めないのだ?」
「……そういうものなのですよ!」
一つわかった。
フェブリが絶対に何かよからぬことをしているということだ。
「違うのですよ! これは愛情表現なのですよ!」
「愛情表現ねぇ……」
「そうなのです! フェブリはまおう様が大好きなのですよ!」
「…………」
「あ、まおう様! いま照れたので――」
「う、うっさい! 照れてないし! 別に照れてないし! お前の勘違いだし! 俺は昔からイケメンだから、カッコイイとか言われるの慣れてるし!」
「まおう様、喋り方が素に戻ってるのですよ!」
「は、はぁ? 別に素とか関係ないから!」
くっ、ダメだ。
どうやら私はフェブリと居るとペースを乱されるらしい――何年もかけて作ってきた最強魔王キャラが崩壊してしまう。
「それでまおう様、これからどうするのです? やっぱり魔王城をとり返すのです?」
魔王城を取り返し、再び魔王になる。
「それはない! それだけはない!」
「!?」
「いいかフェブリ、私はもう魔王なんてクソ職業はやめにする!