第一章の二
「え、えっと……注文がお決まりの頃にまた……う、伺いますね」
「…………」
化物でも見るような眼でこちらを見ながら去っていく店員にげんなりしつつ、私はこれまでの情報をまとめる。
私の体の本来の持ち主、狐っ娘のフェブリによるとどうやらこういう事らしい。
反乱がおき、私が殺された数分後――まだ何とかこの世界に残っていた私の魂を、フェブリの一族に伝わる特殊な術で、彼女の体に宿したらしい。
そしてフェブリは素知らぬ顔で新魔王軍が支配する地から脱出、現在私達が居るこの場所まで逃げてきたらしい。
細かい説明をすると恐ろしい長さになるので省くが、だいたいはこんな所だ。
ちなみに、件のこの場所がどこなのかという事だが。
ここは魔王城から離れた場所にある街――名前をコミクスという。
コミクスは人間、エルフ、ドワーフなど様々な種族の駆け出し冒険者が多く集うため、始まりの街という異名を持つそれなりに大きな街で、生涯をここで過ごせるほどには色々な物が揃っている。
さて、もう少し具体的にここがどこかを言うとだが。
「冒険者ギルドに併設された酒場なのですよ!」
「…………」
少し前までは魔王だったのに、こうして敵対していた冒険者たちの巣窟にやってくると、
なんだか感慨深いものがある。
「まおう様? どうしてさっきから考えてばかりで、何にも喋ってくれないのです?」
フェブリが私の脳内トークに反応してガンガン喋っているが、今は無視させてもらおう。
「な、何でなのですよ!」
「っ……えぇい! 何で分からないのだ、貴様は! 私と貴様が喋っていると、はたから見ると一人で喋っている痛々しい奴にしか見えないのだ!」
「め、目から鱗なのですよ!」
助けてくれた事には感謝するが、ひたすらうるさいフェブリについつい突っ込んでしまうと。
「あ、あのぉ……お客様。何かお、お加減でも?」
こちらに恐怖しつつも、接客業の魂を見せてくる店員さんに声をかけられた……ものすごく恥ずかしい。
恥ずかしいが、ここで恥ずかしがったらなんだか格好悪い気がする。
なのでとりあえず、大人の対応だ。
少しでもまともな人ですよ感を出さなければ。
「これはすみまぜん、少し嬉しい事があって――」
「体は大丈夫なのですよ!」
「あぁもう、お前は俺が喋っている時に喋るな!」
「ご、ごめんなさいなのですよ!」
私とフェブリの言い争いが終わったのは、私達の周囲を避けるように人が居なくなってからだった。