第一章の一
某有名RPGゲームに出てくる世界と同じような風景を持ったこの世界――名前をメルガザインという。
剣あり魔法あり、そして冒険あり。
ここまで続けば当然だが、魔物と呼ばれるモンスターの類もこの世界には棲息している。
ようするに理想郷だ。
異世界転生したい!とか。
剣士になりたい!とか。
魔法が使ってみたい!とか。
その手のやや中二病な人や、完全に中二病拗らせちゃってる人にとって、このメルガザインは理想郷そのものだ。
「…………」
そして自分で言うのもアレだが、中二病完全に拗らせちゃっている私にとってはまさに理想郷だった。
異世界転生した。
悪の魔法使いとして人々に恐れられた。
実力が認められ魔王になった。
まさに理想の流れだった。
「…………」
しかし。
朝、目が覚めたら。
「え、どうして俺……狐っ娘になってるの?」
銀色の長髪、それと同系色の可愛らしい瞳。
灰色と白を基調にした巫女装束の様な物の上に、無造作に羽織っている薄汚れた黒いローブ。
そして、狐耳と狐尻尾。
モフモフだ――生前、狐好きだったからよくわかる。これは確実にモフモフだ。
「うん、実にいい狐っ娘だ」
先ほどから見つめている姿見の前でしばらく茫然。
「……うん、マジでうん」
これ、マジで俺?
声も女の子声なんだけど。
ためしに腕を動かしてみると、姿見の狐っ娘も動く。
間違いなく俺だ。
「と、とりあえず落ち着け俺! じゃなくて、私……そう、私だ」
私は思わず素に戻ってしまった言葉使いを直し、自分なりにカッコイイポーズを取って状況把握に努める。
「確か私は殺されたはず……なのにどうして生きている」
まさかまた都合よく転生できたのか?
そんな考えが脳裏に過るが、すぐに否定する――そうだ、あの時とは雰囲気が全く違う。それにもし転生したのなら、再び子供からのはずだ。
「私はいったいなんで――」
「んぅ……ふぇ……あ、まおう様! 起きたんですか! よかったのですよ!」
何でこうなったのか。と呟こうとしたところで、私の声を打ち消すように、どこからともなく可愛らしい声が聞こえてきた。
いや、どこからともなくではない。
その声は確実に……私の口から発せられていた。