幸福の比例
腕が立つ名医として有名な医者の青年がいた。
ある時、事故で担ぎ込まれた重体の女性を手術で執刀した。とても難しい手術であったが、そこは名医と名高い彼からすれば、それほどの手術であった。
手術は無事成功し、数ヶ月が経った頃、女性が医者の青年に言った。
「あなたのおかげで命が助かりました。実は私は幸せの女神なのです。助けてもらったお礼に、あなたの身に幸せが訪れる魔法をかけました。」
職業柄、青年は女性の話を半分に聞いていた。
さらに月日が経ち、女性は退院していった。
そんな女性の存在を忘れかけていたある日、ふと女性から言われた言葉を思い出し、我ながら馬鹿馬鹿しいとは思いつつも宝くじを買ってみた。
結果は二百円だけ当たっていた。
苦笑いした青年は、彼女の言葉は、彼女なりのお礼の言葉だったのだろうと思った。
相変わらず、青年の目まぐるしい毎日が過ぎていく。
ある日、青年は昼食を食べに行こうと病院を出る。病院玄関脇にある花壇にふと目をやると、そこに四葉のクローバーがあるのを見つける。
また別の日、自動販売機でコーヒーを買うとデジタルの数字がゾロ目を表示し、当たった。
十円玉なら何度か拾った。
そんな小さな幸せが度々青年の身に起きた。
たまに女性の事を思い出す。あの女性は本当に幸せの女神だったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。事実は分からない。
しかし、そんな事は青年からすればどうでもいい事だった。青年の心は何故だか温かい気持ちでいっぱいだった。