石遊び
庭に転がる石ころを投げるのが石太郎君の好きな遊びだった。
駒を回したり毬をついたりするよりもずっと刺激的で楽しく思えた、先生や親たちは石を投げてはいけないと言っていたからだ。
コンクリートブロックのある一面に的にして、少し手を捻って回転をかけるように下から投石するのが好きだった。こうやって奇妙な投げ方をして的に当たると気持ちがいい。どれだけ拒んでも的に当たってしまう、まるで自分が神様に石投げの才能を与えられたのだと舞い上がり、狙った的の他にもたくさんの白い傷跡がついていることは全く気にならなかった。
粉をまぶしたようにつけられた投石の傷に、何度も狙いを定めて投げて、それが真面目な投げ方なのかあの奇妙な投げ方なのかに関わらず何度も命中した。とうとう得意になって他の子供たちに自慢しようとしたが、駒を回したり毬をついてる子達が、石を投げる遊びなんかに感心してくれるだろうか。不安な気持ちになって、今日もコンクリートブロックに石を投げつけて、日頃のように石は的に当たった。
母親はよく動く人で、洗濯物を干すのも料理を作るのも淡々とこなし、片手間に歌を歌ったり石太郎君を石投げを見守っている。母親が大好きな石太郎君は常からその姿を目にして、その素早い動作に憧れた。家事を手伝うとき、母親の動きを真似して皿を割ったり洗濯物を落としたこともあるが、その素早い動きこそが他の子供たちを感心させるものと思いひたすらに励んだ、当然、その思いは石投げにも通じた。
最初は地面の石を拾い上げ瞬時に投石する単純な動きを繰り返し、容易に的に当たり、またも得意になってそればかり続けてコンクリートがもはや白くなっていた。母親はそのコンクリートを見て褒めてくれたものの複雑な表情をしていたが、かえって父親はすっとんきょうに感心して、他の子供たちに自慢してみたらどうか、と言った。
いざ友達に研鑽した技を披露しようとすると、やはり不安な気持ちになった。腕はいつものような力が入らず、目は乾燥し涙で視界が歪む。これでは失敗してバカにされると怖じ気づいて石太郎君は退散した。少しでも投げやすいよう庭から投げなれた石を20個ほどポケットにいれていたため、ズボンがずれ下がり危うく転けそうになった。ポケットから石がこぼれ落ち、もし技を披露していたら、持参した石にトリックがあると疑われるかも知れない、ひいては地面の石を即座に投げる技を見せるはずなのに、わざわざ形のいい石を選びポケットに納めてまたそれを地面に撒いて拾って投げるなんて滑稽だ。その時、引き返して正解だったと思った。
不気味な黄色い夕陽が暮れなずむ夕暮れ時に、どこからともなく1匹の白い猫が庭に迷い混んだ。動物を見慣れない石太郎君はその白い猫に恐る恐る近寄って、にゃーと発したが、ひるがえって白い猫は半月のような縦長の瞳孔で石太郎君を写す。石投げで遊ぶいつもの庭が、自分と白い猫だけの橙色に温められた不思議な空間に包まれたのも束の間、石太郎君がまた1歩近づくと、白い猫は泣き叫ぶ赤子のような声を轟かせ牙を覗かせ、全身の毛は立ち、胴が何倍にも膨れ上がったように見えた、白い体は夕陽を浴びて赤く赤く染まってまるで火をまとったようである。恐怖で声が出ずべたつく汗が全身から吹き出して、みずみずしい緑から水分が抜かれ萎びていくようで、立ち続けることも難しい。とうとう、爆ぜる花火のごとく駆け出した猫に、石太郎君は驚いて後ろに転びこっくりと尻餅をつき、左手には石が触れ、視界には夕陽に色づいた暗い空が覆い、ところどころに星が散って、いつもなら見失いそうなほど小さなあの星にも石を当てられると思った。耳を指すような赤子の泣き声のするところを振り向くといつの間にか玄関のほうでこちらを睨み付けていたので、動くようになった左手で石を掴み猫にお見舞いしてやると、太い声を出して転げてそのままコンクリートブロックの外へ逃げていった。大きく呼吸をついて安堵したのち、勝利の余韻に浸っていると、母親が何があったのかと心配してはたはたと駆けてきた。
石投げは身に迫る脅威に対して有効な防衛手段だと言うことにすっかり自信を取り戻したと同時に、どんな時にでも投石できるよう改めて石投げの練習を始め、以前は使い慣れた石をわざわざ持参していたが、それこそが不安を沸き立たせる原因で、どんな時でもどのような石でも意のままに投げれるようになれば、怖いものなんてないと気づいた。横を向いたまま、でんぐり返しをした直後、走りながら、さまざまな投石の練習を行い、石太郎君は見事に上達して、ますます自信をつけた。
友達を二人誘って少年はいつもの場所に鉄製のコマを3つを持っていった。一つは彼のお気に入りで規格外に重く使えば必ず勝て、勝負には使わないことが暗黙の了解となっている代物でお守り代わりとしている。もう一つは昨日の勝負で友達から勝ち取ったものだが、長く使い込まれていて節々が欠けている。最後の一つはも昨日勝ち取ったものだ。このようにコマ遊びで勝つと相手のコマを奪い取ることができる。
少年はコマの投入にそれなりの自信があり、本当によく勝つことができて、初めてあった子供にもコマで勝負をしたがった。
凧糸を巻きつけコマは臨戦態勢に入り、友達二人は真剣な表情をしていたが、少年だけは余裕の薄ら笑いを浮かべて、みんながほぼ一斉に投入した。コマが熱いものに触れたようにお互いを弾くが、真ん中が沈みこんでいるため、また中央に引き寄せられ弾き合う。その中で少年のコマだけは生き生きと動き回って、弱った二つのコマを煽るように突っつき、とうとう土台からコマが弾き出されたのだが、その駒は昨日勝ち取った使いふるされた少年のコマだった。
弾いたのは鳥のように飛んできた石なのだが、少年達は何が起こったのか分からずしばらく唖然としていたら、遠くに石を持った見知らぬ男の子がこちらを見て変な笑顔を作りこちらを見ていた。少年達は不気味そうに石太郎君を見つめた。
はじめまして、藤森秀介ともうします。
はじめてしっぴつした作品です。
つたない文章、まずしい内容ですが、ご一読おねがいいたします。
よろしければコメントくださいね。