五年
この国最強レベルの魔法使いでも十人はいないと、全滅してしまう、という秘境、それが死の森だ。
しかし、和也はそこに住んでいた。
「あんたなんて、産まなきゃ良かった」母さんが言った。
「お前は白狼の名にふさわくない、ゴミだ」父さんが言った。
「何でお前みたいなのが、僕の弟なんだよ!」兄さんが言った。
「あんたみたいな奴は、私の弟じゃない!」姉さんが言った。
「お前がいると、俺まで低く見られんだよ」弟が言った。
「何故、あなたのようなクズがこの世に存在するんでしょうか」妹が言った。
「今日もいい朝だな~」
今、和也は五年間住んでいる小屋の前でストレッチをしている。
五年経ち、背が伸び、顔つきも大人っぽくなった和也は、道を歩けば、十人が十人とも振り返るような美少年になっていた。(本人は自覚皆無だが)
髪の色は白から黒に変わっている、これは五年前に力をもらった時、一緒に色を変えてもらったのだ。深い紅色の瞳は無気力なまま変わっていない、いや、少し無気力さが増しただろうか…
右手には虹色に輝く、魔石が埋め込まれている。普通、魔石は高級な武器防具などにして、魔力を流して使うのだが(今はコストパフォーマンスが悪く、護身用として持っているものが、ちらほらいる位だが)和也は魔力を放出することがほぼできないため、(長年の修行で、30%位は放出出来るようなった)その身体に直接埋め込んでいる。
「本当にこの魔石凄えよなー」俺が呟くと、
「当たり前だな、我の身体なのだから」と魔石から声が聞こえる。
契約した後、魔神はお主の歩く道を見たいと言って、この魔石に宿ったのだ。
「いやいや、オーガの一撃受けて罅一つはいんねえとか半端ねえぞ」
「それを言うなら、お主の身体だって、規格外だぞ」
「いやまあ、俺には身体強化魔法あるし」
「いくら魔法を使っても、普通、オーガの一撃をまともに受けて、生きている人間はいないぞ…」
「そうかな?まあいいけどさ」
「よく無いだろうが…」
もう和也には白狼や自分を蔑んだ人々を憎む気持ちはない。
しかし、和也の心はどこか、壊れてしまっていた。