第四話 電磁鉄球(ジャミングハンマー)
新村乱太 東北高二年
好きな物はカレー
嫌いな物は特になし、あえて言うなら他人に迷惑を掛ける様な連中
今日の彼の運勢に女難の相があった
PM 4:12
科学研究室にて
―――――――――――
「でぇきたぁ!」
科学研究室という教室より若干狭い程度の部屋で
大きな声で自分の開発物の完成の喜びを叫ぶ少女
彼女の名は正宗棟子
学年は二年、低身長でよく小学生と間違われるらしい
学科テストにて学年一位でありながら
特殊能力試験において校内に三人しかいない能力値0・・・
無能生に所属する生徒である
「うん・・・何が?」
ソファで寝ていた男子が棟子に状況の説明を求める
男子の名は新村乱太
彼も棟子と同じ無能生
しかし、彼も学力テストでは校内で十位以内の好成績を収めている
何故ここにいるのかというと、風紀委員という面目で彼女と行動を共にしている
さっきの質問を聞いた棟子は
ニヤニヤと薄気味悪い笑いをしながら、回転式の椅子を回転させる
「新・兵・器♪」
可愛いく言っているのだろうが
乱太にとってそれは、呆れる以外の表情が出来なかった
「・・・それ着る機会なんか早々無いだろう」
あえて新兵器について追求しない乱太にむくれる棟子
「乱太君って性格悪いよね」
「人を騙すような奴に言われたくない」
当然のように返す乱太に
機嫌を直すかのようにパソコンの方に向かって説明を始める
「新兵器の名前は『電磁鉄球』、小型の鉄球から発せられる妨害電波で周辺の磁場を拡散・麻痺させて、能力者の能力の無効化を図る装備だよ」
聞いていて「まだマシかな」と呟く乱太であった
それを聞いて少し機嫌が直る棟子
「ではでは~、一応感想でも聞こうかな?」
「直接危害を加える物でも無さそうで安心した」
「・・・乱太君ってホント、性格悪いよね~」
・・・いやまあ
乱太は自分でも多少そう思った
「まるで私が悪の科学結社のリーダーみたいな言い方して・・・」
「違うのか?」
「・・・泣くよ?」
「(・・・言い過ぎたかな)」
乱太は多少罪悪感に呑まれ、謝罪をしようと思ったが
今日までの出来事を思い出し、「やっぱ無いわ」と溜め息をつく
―――――――――
研究室から出て
帰路に着く乱太の目の前に現れた少女
殆どが人工で造られた施設の街中で出会った二人
それは・・・
片方にとっては最悪の何でも無かった
「・・・天災生の爆発女」
「・・・無能生のコスプレ男」
双方の認識に多少可笑しい物はある物の
それでも、この二人には因縁めいた何かがあった
天災生 灰島焔
能力は発火制御、十人しかいない天災生の第四位『爆撃戦姫』
それが、赤い長髪が特徴の彼女である
「・・・ここで会ったが百年目、決着まだ着いてないでしょ」
「決着?あれの事か、あれだよ止めとこう」
乱太の言葉に
焔の口は笑うも内心笑ってはいない
「怖気づいたのかしら、それとも、戦わなくても余裕って言いたい訳?」
「違う違う、俺は戦いなんて物に興味は無いし、あれは友人が作った物だ。俺の実力じゃない」
説明をしてはいるが
焔の喧嘩腰は収まらなかった
「何よそれ!前の一件をそれで無かった事にしようとしてんの!」
「だって、お前の能力と俺のアレ使ったら周りが吹き飛ぶぞ」
実際、国際レベルの天災生に
殺人上等、殺戮兵器を大量に積んである武装を使用すれば
街の一角なんぞ容易に消し飛ぶであろう
しかし、なおも乱太の冷静な態度に
勘違いした焔はそれを余裕という意味として取ってしまう
「何よ!あんたみたいな無能生が私と互角かそれ以上と言いたい訳!?」
言い方は厳しいが、両者の立場は天と地、月とすっぽんのように違う訳で
基本的に負けず嫌いの彼女はそれが気に食わなかった
「だからさ、何度も言うけどあれは俺の力じゃない、他人の力なんだから俺に固執する必要は無いだろ!」
「うっさい!あたしは一度始めた事を途中で投げ出すような事はしたくないの!」
乱太は顔を逸らして恒例の溜め息を漏らす
「じゃあ、どうすれば終わりなんだよ」
「私があんたに勝ったらよ・・・」
「じゃあ今の内に吹き飛ばすなり何なりしてください、出来れば殺さない程度で」
「あれは!あれ着けてないと意味ないでしょうが!」
騒がしい二人の会話に
新たに第三者としてもう一人の少女が入る
「新村乱太!こんな時間まで何をして・・・そちらの方は?」
彼女の名は霧生遥
東北高生徒会所属の書記
能力値は4で優等生の彼女は
無能生である乱太に厳しい態度で接している
そして、彼女も性格は負けず嫌いでプライドが高かった
「やあ書記さん、実はちょっと絡まれてて」
「はぁ!何私があんたに構ってるみたいな言い方してんのよ!」
「(実際そうじゃねぇか)」
二人のやりとりに
理解できない不協和音が心に聞こえた遥
彼女も素直になれない性格故、他の異性と一緒にいる乱太に少し機嫌が悪くなる
「ちょっと貴方、見た所他校の生徒みたいですが、内の生徒にちょっかい出さないでくれますか?」
「ちょ!別にちょっかいなんて出してないわよ!そいつがムカつくから気に食わないだけよ」
「すいません、それをちょっかいって言うんだが」
乱太の突っ込みとは裏腹に
遥も顎に手を置いて考える
「確かに、見ているとこの男の態度は些か虫の居所が悪い気分にもなります」
「(・・・あれぇ?俺の味方っていないの?)」
まさか味方の裏切りに
乱太は気づかれぬようにその場を後にしようとすると
「「待ちなさい!」」
「・・・何でしょう」
乱太の姿は
誰かに見つかって動揺を隠せない泥棒のようであった
そのままゆっくりと振り返ると
「この際だからあんたにしっかり教えてあげるわ!あたしの実力って奴を!」
「いいですわね、実は前々から気に入りませんでしたの。いい機会ですからはっきりさせましょう」
二対一
無能生の男子高校生に
上位階級の女子高生二人が襲い掛かる図
この間に特殊能力という物が無ければ微笑ましい絵でもあるが
今の状況にそんな平和的な物は一切存在しなかった
「・・・死んだな」
乱太は心の中で涙し
家族との思い出を走馬灯で思い返していた
―――――――――
場所は近くの港に変わる
港と言っても相当広く、野球が普通に出来そうなくらいの広さ
そこにいるのは二人の女子と一人の男子
これだけ見れば男性の場合、男子の方を羨ましがるとは思うが
生憎、当の男子である乱太にそんな幸せな展開など微塵も無かった
むしろ、こめかみに冷や汗を掻いて遠い景色を見ていた
―――――――――
「(・・・死ぬのかな俺)」
こんなに早く死ぬんだったら
お気に入りのカレー屋『カレーのカリビアン』の大人気メニュー
『カリビアンパイレーツカレー』をお腹一杯食べておけばよかった
カリビアンパイレーツカレーとは
店オリジナルで仕上げられたピリっとスパイシーなカレーに
汗だく男子高校生が好んで食べる
とんかつ、ハンバーグ、ソーセージ、エビフライ、クリームコロッケと千切りキャベツを乗せるという
まさに、食いしん坊も大満足の超ボリュームカレーである
因みに、乱太はこのカレーを週一で食べている
「(あの味、今思い出しても涎が・・・ぐへへ)」
傍から見れば、何を笑顔で涎を垂らしているのかと不気味に思われる状況
「(・・・何を笑っているのかしら?)」
女子の一人、焔は乱太の笑顔を不思議に思っていた
一方・・・
「新村乱太!貴方はこれからという時に何をニヤついているんですの!」
もう一人の女子、遥は乱太の笑顔を見て不機嫌になる
「あぁ?書記さんもあのカレーを口にすればその怒りっぽい性格も直るんじゃねーの?」
「なんですってぇ!」
二人が口喧嘩を始めている頃
焔は戦闘態勢に入るかのように
鞄から何かを取り出し構える
「それは?」
「私特製火薬玉、こういうの持ってると近寄る馬鹿に効果的でね」
「全く野蛮ですわ。聞けば貴方能力値5の天災生、ですが、見ている限りでは信じられませんわね」
「ほっときさない!早いところ始めるわよ!」
足を肩幅まで広げて、焔は火薬玉を投げる
スーパーボールくらいのそれは乱太へと向かう
そして・・・
「っ!あぶねぇ!」
危険を察知するかのように、その場から飛び込んで転がりながら距離を取る
すると・・・
ドオォォォン!!!
乱太の居た場所は、大きなクレーターのような穴が空いて煙を揚げていた
「・・・だから、それ普通の人間にやる事か?」
「死にたくなかったら、早い所あれを着けなさい!」
「仕方ねぇ」、と
乱太は腕時計型の転送装置のボタンを押す
一瞬で装備されたのはブレイズカノン
恐らく、天災生相手に片方装備では危険と判断したのであろう
「ふん、あの子の造った作品、少しばかり見せて貰いましょう」
そう言った遥の手元にあった物は、扇のような形をした刃物であった
遥は自分の能力である『風魔移動』を駆使し
瞬時に乱太に近付いて接近戦による攻撃を仕掛ける
軽い素材で造られている扇型の剣は
女性の遥でも扱えるようにしてあるのであろう
「ったく!幾ら学都に銃刀法違反が無いからって、二人掛かりはキツい!」
「そらそら!実戦経験の無い貴方にこの華麗な剣捌きが避けられるかしら!」
経験上で有利な遥は一気に乱太を追い詰める
乱太もブレイズスラッシャーで対応する物の
大きい武器は隙が出来やすい上に
遥のように、速さで攻めて来る相手には分が悪い
一旦距離を取って思考を凝らす
「(何か、何か良い方法は・・・あった!)」
すぐさま、乱太は転送装置によって繋がっている棟子に話しかける
「棟子!あの新兵器を試したいんだ!」
『状況は分かってるよ、全く乱太君はモテるね♪』
「いいから!早くあれを!」
『はいはい、使い方分かる?』
「何とかする!」
そうして送られたものは
乱太の手に握られた鎖付きの小型の鉄球
「よし!」
乱太は二人に向かってそれを勢い良く放り投げる
「何よあれ!」
「新兵器か!」
二人共警戒してハンマーを避ける
その時、ハンマーの機能を任意で発動させた
すると・・・
「くっ!」
「何これ!体が重い!」
妨害電波を受けた二人は
特殊な磁力によって体の機能を低下させ、更に能力が無効化される
「新村乱太!これは一体なんなの!」
「悪い書記さん、害は無いし多分大丈夫だよ。それじゃ!」
乱太はそう言って
ブレイズカノンの装甲を転送して全速力で走り出した
「あっ!逃げるつもり!」
「ちょっと!このまま逃げるなんて卑怯ですわ!」
二人の言葉に耳も貸さず
乱太は自宅へと猛ダッシュで帰っていった
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「あの二人に効果があれば実験は成功かな♪」
科学研究室では、三人の状況を見ていた棟子がコーヒーを飲んで満足気にしていた
第四話 完