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 ゴッホは剣を買った。妹を守るため、竜と戦う修行を始めた。相変わらず、図書館に通い、竜語と魔術の勉強もしていた。

 ゴッホは自分たちの家の前に「竜立ち入るべからず」という看板を掲げたので、面白がって、いろんな竜が見に来た。中には、ゴッホやジェニーにちょっかいを出す竜もいて、ゴッホは気が気ではなかった。

 そんなちょっかいをかけてきた竜のいちばん面倒くさいやつが千年竜だった。

 千年竜。齢千年になる竜である。もちろん、人より遥かに長生きしているが、竜にしては若い。

「立ち入るべからずと書かれた土地に立ち入ってしまったのだけど、どうなるのかな」

 と、千年竜はいった。ゴッホを挑発している。

 対するゴッホは、大きな竜に睨まれて、腰がすくんでしまっている。

「い、妹に手を出す竜は許さない。我が家に踏み入れた竜は、竜といっても命の保証はしかねる」

 ゴッホが妹を背にかばい、応じる。

「腕試しといくかね、勇士よ」

 千年竜は、面白がってゴッホを尻尾ではたいた。ゴッホは壁に打ちつけられ、全身がきしむように痛かった。

 まだ魔術の修行はひとつも成功していないゴッホだったが、剣で千年竜に立ち向かった。ジェニーがゴッホに回復の魔法をかけた。ゴッホの傷はみるみる治っていく。

「お兄さま、わたしも戦います」

 ジェニーが前に出る。ゴッホが制す。

「いや待て、妹よ。竜は獰猛にして狡猾な生き物。危ないから下がっていなさい」

「そうだ。竜は獰猛にして狡猾な生き物だぞ」

 千年竜は面白がって復唱する。

 ほとんど白といってもいい薄青の鱗をした千年竜だが、鋭い牙と爪と角、たくましい筋肉は竜のそれであるのはまちがいない。

 そして、ゴッホと千年竜の格闘が始まった。ゴッホの剣を千年竜が爪で受ける。かきん、かきん、と千年竜は遊ぶ。

「いけない、いけない、油断すると攻撃をくらってしまいそうだ」

「そうだ、あまくみるなよ、千年竜よ」

 ゴッホは深くぎりぎりを踏み込んで、千年竜の足元に斬り込みを入れた。

 かきん。ゴッホが剣を全力で振りおろしても、千年竜の鱗は傷つかない。

「ああ、危ない、危ない。攻撃をくらってしまった」

 千年竜は、愉快に笑った。

「ちくしょう、ちくしょう」

 ゴッホは何度も斬りつけたが、千年竜の足は傷一つつかなかった。

「それ」

 千年竜がゴッホを爪で弾いた。

 ゴッホは後ろに吹っ飛び、壁に全身を打ちつける。

「待ちなさい。お兄さまをもてあそぶのはよしなさい」

 ジェニーだ。

 ジェニーは、黒竜に教えられた中で最も竜に効果のある魔術を使った。燃やしても冷やしても斬りつけても竜は傷つかないが、どうも、いちばん恐れているのは毒らしい。

 ジェニーは毒の魔術を千年竜に向かって放つ。

 千年竜は、顔面に直撃をくらった。

 千年竜は、思わぬ不快感に襲われた。

「おええ」

 千年竜がうめき声をあげた。

「去りなさい、千年竜よ。さもないと、もう一撃、くらわしますよ」

「ひえええ」

 千年竜は、ジェニーを恐れて翼を広げて飛び立った。そのまま、飛んで逃げ去って行った。

 やるせないのはゴッホだった。むなしい。安全に生きのびたはいいが、むなしさが漂う。

「妹よ、兄は一生、修行ばかりしていた。だが、それが何の役にも立たず、この無力な兄よりジェニー、おまえは強いのだな」

 ジェニーはことばに困って沈黙したが、ゴッホは、床に倒れたまま、日が暮れるまで脱力していた。


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