明日も。明後日も。
いつものように、学校から近場の小さな花屋さんに寄る。
そして、店員さんにいつも買っている花を頼むと少しからかわれてしまった。数束の白いアザレアの花。好みの花を探してみたらこうなった。
そして、買ったそのままの足で大きくも学校から近い病院に向かう。
時々同じ学校の生徒とすれ違うこともあったが、知り合いには会わなかったので取り敢えずの難関は突破出来た。
病院に行っていつものようにナースステーションの人達に軽く挨拶して(ここでもやっぱりからかわれながら)棟の一番奥の病室にノックをする。短く返答があったからなるべく頭痛にならないように静かにドアを開ける。
ドアを開ければ、夕方の橙色に当てられた一人の黒髪の少女が読んでいた手を止めて、微笑んだ。
途中で買ってきたアザレアの花を渡すと
いつもおんなじ花なんだね
そう言っても顔はとても嬉しそうで、その事をからかえば枕で何度も叩かれた。枕からの攻撃を受け止めながら謝ると
こ、今回だけだから……今回しか許さないんだから
少し眩しい夕日の光を遮るためにカーテンを少し閉めた。
そして、何でもない他愛もない話に花を咲かせる。どんな些細な、普通なら聞き流してしまうような話でも、真剣に耳を傾けてくれる。
そんな事が凄く嬉しかった。
でも、こんな些細な、小さな幸せが終わってしまう事を俺は知らなかった。
ねぇ
ぽつり、と呟かれた言葉と共に隠れる彼女の表情。
どうしたのか、聞き返そうとしたが出来なかった。
気付いたら彼女が自分の体に抱きついていた。泣いてるか、なんて分からない。でも、彼女の体は小さく震えている。それだけで察っするには充分だった。
明日も、居る…よね?
自分の腕に捕まるもう一つの腕が、とてもか細く、触れてしまえばガラス細工のように脆く崩れてしまいそうで。
ただ、そうしていてどれぐらいの時間していたか。
もう、時間だね……、帰らなくちゃ。私も検査があるから。
す、と離れて彼女は最初に渡したアザレアを眺める。
俺はこれ以上居るのもアレだと思い、静かにその場を後にした。
外に出れば、かなり暗くなっていて。
彼女が何を思っていたのかなんて分からないけれど
ー………笑ってくれればいい……ー
さっきくれたアザレアの花を眺める。いつも買ってくれているこの花の花ことばをさっき、ナースさんから聞いた。
それを、彼は知っているのだろうか?それとも知らず知らずのうちに買っているのだろうか?
ふ、と顔をほころばせる。色んな花を吟味しながら探すのを思い浮かべてみれば笑えてしまう。
アザレアの花ことば…彼女は知っているのだろうか?知っていたとしたらかなーり恥ずかしい。
アザレアの花ことば
「「貴方に愛されて私は幸せ」」
・・・・・・・もう何も聞かないで。