~第51話~
「へぇ、やるなぁ」
口笛を吹くミリヤ。
(避ける時にあの馬鹿でかい魔力刀で斬った……いや、ただ進行方向に『置いた』だけか。あの力……魔物にとっては最大の脅威だな)
『ギギャーー!!』
息を吐く暇もなく、他の<ルーラレイズ>ハル達に迫る。
「よし……来い」
と、魔力剣を構えたハルを、
「馬鹿。お前の相手はこいつらじゃないだろうが」
「え? わぁ!?」
首根っこを掴んだミリヤが投げ飛ばす。
「れ、レイガーニさん! イキナリ止めて下さい! 手元が狂ったらどうするんですか!?」
刀身を地面に突き刺し、抗議するハル。
そんな抗議を無視して、ミリヤは偃月刀をブンブンと振りまわす。
「千、天城を連れて<リネル・ルーラレイズ>の所に行け。こいつらは私が相手をする」
「ん……」
頷いた千はハルの手を取って走りだした。
「え、あ。ちょ、ちょっと待って下さい! あ、あの数をレイガーニさん一人でやるんですか?」
「ミリヤなら、問題ない」
「問題ない、って……」
千に手を引かれながら、ハルは背後に目を向けた。
*****
『ガギャーー!!』
「よっ、と」
突進してくる<ルーラレイズ>を跳んで避けたミリヤはその背に乗り、
「そらっ!」
勢いよく偃月刀を突き立てた。
その刃が深く刺さり、血が吹き出る。
『ギギャーー!!』
<ルーラレイズ>は暴れるが、致命傷ではない。精々皮膚の少し奥を斬り裂いた程度である。
「でかすぎるんだよ!」
何て言いながら偃月刀を抜きとり、上下左右に暴れる<ルーラレイズ>の背から振り落とされないように上手くバランスをとり、その傷口に今度は左手を刺し込み、口を開く。
「[ログスパーク]!」
『ガ、ギャーー!?』
強力な電流を体内に直接流された<ルーラレイズ>は頭から尻尾の先がズタズタになり、痙攣が数秒続いた後、ゆっくりと地面に落下し始めた。
「よっ、と」
その背から跳び、空中で次の攻撃に備えるミリヤ。
そんな彼女目掛けて、
『グギャ!!』
一匹の<ルーラレイズ>が火球を放ち、
『ガギィーー!!』
更にもう一匹、口を大きく開けた<ルーラレイズ>が背後から迫った。
「ふん」
そんな状況でもミリヤが焦ることはなく、偃月刀を武収器にしまい、両手を火球と迫る<ルーラレイズ>に向け、呟く。
「[スパークロード]」
その両手から雷の数倍も大きな電流が迸り、一方は火球を貫いてから、もう一方は直接、二匹の<ルーラレイズ>の口を通って体内を破壊しつくした。
「馬鹿みたいに口を開けてると、火傷するぞ」
*****
「すっげ……」
ミリヤの豪快な闘いぶりにハルはまたも驚いていた。
「ハル、準備いい?」
「え、あ、はい!」
ミリヤが三匹の<ルーラレイズ>を瞬殺している間に、千とハルは<リネル・ルーラレイズ>と、それを守護する二匹の<ルーラレイズ>のすぐ近くまで接近していた。
『ゲギャーー!!』
その二匹の<ルーラレイズ>がハルと千を迎え撃とうと動き出す。
「あの二匹は私がやるから……ハルはよそ見しないで真っすぐリネルまで行って」
「は、はい!」
頷くハルを見た千は刀を構えて呟く。
「[氷結閃]……『装填』」
『ギギャーー!!』
一匹の<ルーラレイズ>が千達の前に立ちはだかり、右腕を思いっきり上から下へ振った。
「ふっ」
「っと」
スピードを上げた千とハルはその攻撃を難なく避け、
「任せます!」
ハルはスピードを落とさずに直進して<リネル・ルーラレイズ>の元に向かい、
「任された」
千は攻撃を仕掛けて来た<ルーラレイズ>の懐に入り込み、両刀を腹部に突き刺した。
ブスリ、と両刀身が深く刺し込まれる。
『ガギャーー!!』
叫ぶ<ルーラレイズ>の腹から血が吹き出るが、ミリヤの時と同じくやはり致命傷には至らない。
いくら千が普通より刀身の長い武器を使ってるとはいえ、やはり<ルーラレイズ>の身体は大きすぎる。
『グ、ギャーー!!』
<ルーラレイズ>は距離をとるようなことはせず、そのまま千を押し潰そうと前に倒れ込んだ。自らの物量を使った、肉を斬って骨を断つこの対応は中々理に敵った行動であった。
相手が千のような実力者でなければ、だが。
無表情のまま千は呟く。
「『発』」
ピキッ
と、両刀が突き刺さった傷口が凍り、そこを中心に周囲も凍結し始めた。それも、物凄いスピードで。
『ガッ! ギ、ギ』
半分ほど凍り漬けになってようやく、自分の身に何が起きたかを理解する<ルーラレイズ>。
『ガアァ!』
火球を放とうと首を膨らませる。
しかし、
『ガッ』
その頃には凍結の侵食も首にまで及んでおり、
「……おやすみ」
<ルーラレイズ>は首を膨らませ、口を開いた状態のまま凍りついた。
荒野の真ん中に<ルーラレイズ>の氷の彫像が出来るのに、数秒もかからなかった。
「…………」
刀を抜き取り、そのある意味芸術的な氷の彫像を一瞥する千。が、すぐに興味を無くし、無表情のままもう一匹の<ルーラレイズ>に目を向けた。
『グ……ギィ……』
その時の千の目は、相対する<ルーラレイズ>が尻込みしてしまうほど冷たく、冷酷なものだった。
*****
「暇そうだな……<リネル・ルーラレイズ>」
ハルがそう声をかけると、<リネル・ルーラレイズ>は意味が分かっているのかいないのか、
『ガ、ギィーー!!』
空に向けて咆哮し、威嚇するように二本足で立った。
体躯が<ルーラレイズ>より遥かに大きい<リネル・ルーラレイズ>がそうすると、かなりの圧迫感がハルを襲う。
(竜の皆と同じくらいか……久しぶりだと、かなりでかく感じるな)
「でも、でかければいい、ってもんじゃないぞ。特に……俺を相手にする場合は、な」
ハルが魔力剣を片手で軽く構えると、
『ギィーー!!』
邪魔な虫を振り払うように、<リネル・ルーラレイズ>が右手を振った。
巨腕から繰り出されるその攻撃は、一度当たっただけで荒野の果てまで飛ばされてしまいそうな威力、勢いである。
「悪いけど」
ハルはその攻撃を勢いよくジャンプして避け、
「会長命令で、さっさとお前を倒すように言われてるんだ」
魔力刀を思いっきり地面に向けて横に振った。
結果、
『グ……ギィーー!?』
ハルの魔力刀は地面に深い切れ込みを作り、<リネル・ルーラレイズ>の右腕の半分を両断した。
<リネル・ルーラレイズ>の腕が吹っ飛ぶ中、ハルは魔力刀を構え直して言った。
「さっさと終わらせてもらぞ」