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~第47話~

 所変わって、東京の雲月荘。

「今頃、ハル君達は依頼の真っ最中かしらね」

 居間を掃除しながら呟く家主のミキ。

「うーん……私も行こうかしら」

 もちろん冗談だが、ミキの場合は本気で行くことも出来る。それも、その身一つで、『一時間』もかからず。

「早く二人とも帰ってこないかしらね~」

 なんて言いながら手を動かしていると、

「あら?」

 プルルル、と普段あまり鳴ることのない雲月荘の電話が鳴った。

「っ、とと」

 一旦掃除の手を止め、廊下に置いてある電話の受話器をとる。

「もしもし?」

『私だ』

「名前言ってくれないとわかりませんよ?」

『……神埼玲奈だ』

「知ってる♪」

『…………』

 押し黙る玲奈は、怒りに身を任せて携帯をへし折ってやろうか、と真剣に葛藤していた。

(こういうちょっとした冗談が一番玲奈の勘に障るのよねぇ)

 ほほ笑み、口を開くミキ。

「ごめん、ごめん。謝るわ、玲奈。わざわざ玲奈からかけてくれたのに、悪ふざけがすぎたわね」

『休憩中で暇だったから気まぐれにかけただけなんだが……今は心底後悔してる』

「あらら。それは本当に悪い事したわ。でも……そんな理由で私に電話するなんて珍しいわね。何かあったの?」

『まぁ、なくもないが……今、天城が『世界機構』の依頼をやってるのは知ってるか?』

「ええ。ルクセールに行ってるんでしょう。それが、どうかしたの?」

『事前の情報ではおよそ五百の<クロプス>が相手だったんだが、ついさっき入った連絡によると、その数が約四倍の二千になったらしい』

「あらあら、それは大変ね」

 と、全然大変そうに感じない口調で言うミキ。

『焦らないのか? 二千の<クロプス>は中々だぞ?』

「千ちゃんがいるから大丈夫よ」

「千? ……天楼の生徒会長か?」

「そ♪ あの娘がいれば大抵の事はどうとでもなるわ。二千の<クロプス>を蹴散らすことも朝飯前よ」

『……そう言えば、お前達は一緒に住んでるんだったな……つまらん』

 ミキが取り乱すと思っていた玲奈は拍子抜けした。実際に取り乱して、今から向かう、と言われても困るが。

「玲奈がそんな暇そうにしてるって事は、あなたもそう思ってるんでしょ?」

『……どうかな』

 何て答える玲奈だが、里奈も同行していることを知っている彼女は、この依頼でハルを含めた誰かが危険な目に会うことはない、と確信している。

『まぁ、死ぬことはないだろうが、あいつがショックを受けることはあるだろうな』

「? 何に?」

『天楼の生徒会長や他のメンバーとの実力差に、だ。今回の依頼では実力の差が如実に表れる。負手腐らなければいいがな』

 倒した魔物の数を律儀に数える者はいないだろうが、誰が今回の依頼で一番役に立たなかったかは、その者自身が一番わかる。

 それは、誰かと一対一で闘って負けるより、精神的にくるものがある。

「…………」

 玲奈の言葉をミキはしばらく考え、やがて、クス、と笑った。

「まだまだハル君のことをわかってないのね、玲奈は」

『……どういう事だ?』

「そんな実力差を見せられたハル君がただ黙ってるわけないわ」

 ミキは遠くの空を見上げながら、言った。


「あの子……すっごい、負けず嫌いなのよ♪」



    *****



『オ……オォーー!!』

 自分の武器を吹き飛ばされた<リネル・クロプス>は一瞬面食らったが、その後すぐにハルに攻撃を繰り出した。

 <リネル・クロプス>の巨大な岩石のような両拳が幾度も振り下ろされる。

「ほっ、と」

 ハルはそれらの攻撃を難なく避け、相手の右拳が地面を大きく叩いたところで、

「でかければいいってもんじゃないぞ、っと」

 その右腕に乗り、<リネル・クロプス>の頭部目指してその上を駆けた。

『ゴアァーー!!』

 <リネル・クロプス>がハルを叩き落そうと、左手を右腕の上を滑らせるように水平に振る。

「よっ」

 それを軽くジャンプして避けるハル。

 その際、魔力剣を左手の軌道上に構えていたので、

『グ、アァーー!!』

 <リネル・クロプス>の左腕の肘から先がバッサリと両断された。

「ご愁傷様」

 もがく<クロプス>の頭部に着いたハルは上手くバランスをとり、

「ふっ!」

 二本の魔力剣を天辺から突き刺した。

『ガ……』

 <クロプス>は一瞬その場に静止し、ゆっくりと力なく倒れ出す。

「おっと……らっ!」

 その巨体が完全に倒れ出す前にハルは脚に気を溜め、空高く跳び上がった。

(今の俺の闘い方じゃ、明らかに効率が悪い)

 空を切りながら、ハルは考える。

(かと言って、千さんやレイガーニさんの真似をするわけにはいかない)

 千のようなスピードや、ミリヤのような攻撃力を持っていないことは、ハルが一番よく知っている。

(でも……この魔力剣……魔力の応用にはそれに匹敵する一つの『特性』がある)

 戦場を一望できる高さまで跳び上がったハルは目を閉じ、両手に持った魔力剣を≪消し≫、再度右手に意識を集中させた。

(使用者のイメージをそのまま反映させる、という特性が)

 たっぷり数秒経った後のハルの右手には、一振りの≪刀≫が握られていた。

 それも、普通の刀ではない。

 刀身の長さが千の使用する刀の≪さらに倍以上≫はある、とんでもない長さの長刀だ。

(成功したけど……すっごい時間かかっちゃった)

 切れ味そのままに、今までより遥かに大きなものを精製したのだから、時間がかかって当然だ。

 ちなみに、形状が≪剣≫でなく≪刀≫なのは、事前に千の長刀を見ていたのでイメージし易かったからである。

「さて……」

 魔力刀を構えたハルは自由落下に任せていた身体をうまい具合に動かして脚に気を溜め、

「行くぞ!」

 ≪空歩速≫で一気に下降した。

 向かう先は、<クロプス>の大群のど真ん中。

(他の人を斬っちゃうわけにはいかないからな)

 それから数秒も経たずに、クロプスの大群の間近まで迫る。

『グオォーー!!』

 自分達に向かって急降下してくるハルに気付いた<クロプス>達は空を見上げ、各々の武器を構えた。

「食らえ!」

 ハルもしっかりと魔力刀を握り、


「[百花繚乱]!!」


 空中から降下先の<クロプス>達に向けて縦横無尽に振りまわした。


 ヒュヒュヒュン!!

 

 と、空気を斬る音が辺りに流れ、

「っ、とと」

 ズザザ、とハルは砂埃をあげて着地した。

『…………』

 周囲の<クロプス>達は空を見上げたまま微動だにしない。

「ん……」

 ハルは一度その<クロプス>達を見やり、右手に持った魔力剣を勢いよく横に振った。

 直後、身体のあらゆる場所を斬り刻まれた数十の<クロプス>が塵になって消え失せた。

「ふぅ……成功、っと」

 ポッカリと開いた<クロプス>の大群の中心で満足そうに呟くハル。

「本来の俺の戦闘スタイルとは違うけど……これはこれで」

『ガ……ガァーー!!』

 突然の出来事に困惑していた、ハルの魔力刀の届かなかった場所にいた<クロプス>達が雄叫びをあげながらハルに迫る。

「よし……」

 ハルはそんな<クロプス>を一瞥し、長刀を構えた。


「かかって来い!」

 

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