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~第46話~

 闘いに参加している六人の中で唯一役割が与えられたのは、里奈から≪シエル≫を護るように言われているサティぐらいであり、他の五人は思い思いに動いている。

 真面目で堅実な健吾は、常に周囲の戦況に目を向けながら騎士団寄りの戦線で確実に<クロプス>を倒し続けている。

 リーダーの里奈も、騎士団の総隊長への挨拶を終えてからは[豪・虎砲弾]のような目立つ攻撃をしておらず、最前線で騎士団をフォローしながら戦闘を行っている。

 ハルはどちらかと言えば健吾や里奈より<クロプス>の大群の深いところで闘ってはいるが、その割に倒した数は少ない。そもそも、ハルの戦闘スタイルは一対多数に向いていないし、広範囲を攻撃出来る能力もないので、当たり前といえば当たり前である。サティが感心したように、新入生とは思えない動きを見せてはいるが、今のところ目立った動きはない。

 桜楼の生徒会陣がこの様に一匹一匹を確実に倒しているのに対し、天楼の生徒会二人は豪快だった。



    *****



「ほっ、と」

 左手に持った魔力剣を振るって一匹の<クロプス>を倒し、体勢を整えるハル。

『グオォ!!』

「っ! はぁ!」

 右手側から迫る<クロプス>が両手を振りかぶるのを見て、すぐさまその<クロプス>の懐に入り、右手の魔力剣でその両脚を両断し、

『オォーー!?』

「よい、しょ!」

 前のめりに倒れ込む<クロプス>を魔力剣で真っ二つにした。

(はぁ……これで何匹目だ……途中で数えるの面倒になってきたからな)

 額に浮かんだ汗を拭い、シエルの甲板で精製したものと、闘っている間に精製した二つの魔力剣を構える。

『グゥ……』

 <クロプス>はすぐには襲ってこずに、ハルとの距離を少しずつ詰めるように移動している。

(……こいつら、学習してきてるからなぁ)

 無理に攻撃を仕掛けてくることは少なくなり、こちらの体力を削ることを重視し始めていた。

(流石、知能の高い魔物だけあるな……まだ体力は大丈夫だけど……どうするか)

 なんてハルが考えていると、


 ドンッ!


 と、ハルの前に立つ<クロプス>の背中に、他の<クロプス>がぶつかった。

『グ、ガ、ガァ!』

 その<クロプス>は怯えた子供のように錯乱している。 

(何……?)

 こう思ったのはハルだけでなく、その<クロプス>にぶつかられた<クロプス>もだった。

『ガァ!』

『グ……ガァ』

『ゴォー!』

 見ると、その周辺には他の錯乱した<クロプス>が集まっていた。

 どうやら、何かから逃げ出した<クロプス>達がこの場に集まり、ハルと慎重に距離をとっていた<クロプス>とぶつかって渋滞状態に陥ったようだった。

(何だかわからないけど……これはチャンスだな)

 ハルは両手に持った魔力剣を地面と水平に構え、腰を落として一気に駈け出した。

『グ、ガァーー!』

 それに気付いた<クロプス>がハルを迎え撃とうと腕を振り上げるが、逃げて来た<クロプス>が邪魔になって思うように動けていない。

 そんな<クロプス>の間を縫うように駆けるハルは数秒もしない内にその渋滞を抜けた。

「ふぅ」

 止まり、息をついてから両手の剣を振ると、 

『ガァーー!?』

 <クロプス>達の脚が綺麗に両断された。

(こいつら、何に怯えてたんだろ)

 砂埃を上げ、地響きをたてて地に伏す十数匹の<クロプス>をよそにその原因を探していると、ある人物が目に入った。

(あれは……千さん?)

 戦場に一人佇む千だ。

(これは……どういう状況だ?)

 千は<クロプス>の大群のど真ん中にいるにも関わらず、一人佇んでいるのだ。

 <クロプス>達はというと、

『グゥ……』

 千と二十メートル程距離を開けたところで様子を見ている。と言うより、手が出せないので様子を見ることしか出来ない、といった状況である。

「…………」

 その異様な状況の中、ボーっと空を見上げていた千が

(っ!?)

 一瞬にして消えた。

(速過ぎて見失った! どこに)

 ハルが周囲を探索しようとした時、


『ガァーー!?』

 

 と、<クロプス>の雄叫びが耳に入った。

(あそこか)

 ハルが目を向けた先では、おおよそ≪数十匹≫の<クロプス>≪だったもの≫がバラバラに刻まれていた。

 そして、その中心には、

「…………」

 無表情の千が立っている。ポーズは先程と同じで、何の構えもとっていない。

(何が)

 状況を理解しようとするハルだが、その前にまた千が消えた。

(右か!?)

 今度はおぼろげながら千の姿を捉えたハルが右に目を向けると、丁度千が<クロプス>の大群のど真ん中に紛れ込んでいたところだった。その周囲の<クロプス>は千がいることなどまるで気付いていない。

(何て速さだよ!)

 驚愕するハルは、次の瞬間に更に驚愕することになる。

(な……)

 千を中心に十メートルほどの位置にいた<クロプス>が、先程と同じようにバラバラに切り刻まれたのだ。

『ゴォーー!!』

 そうしてやっと、周りの<クロプス>が千の存在に気付き、戸惑いの雄叫びをあげた。

(嘘だろ……)

 だが、ハルが驚いたのはそれだけではない。

 <クロプス>が刻まれた時、それをしているはずの千の刀が、全く動いていなかったのだ。

(いや、動いてはいるんだろうけど……速過ぎて……俺じゃ認識出来ないんだ)

 ハルが目を見開いている間に、千は再度消えた。

 千の姿を目で追うハルは周りの事など忘れて、全神経を千の動きに注いだ。

 だが、

(全然……見えない)

 ハルの目では<クロプス>が一人でに切り刻まれているようにしか見えなかった。

(軌道が見えないならまだしも……『動いてることすらわからない』攻撃なんて……)

 同時に、<クロプス>が錯乱していた理由も理解した。

 目の前にいた相手が消え、いつの間にか自分の背後の仲間がやられ、その一瞬後には遠くの仲間がやられる光景を見ては、流石の魔物でも逃げることを選ぶだろう。

(正直……恐い)

 汗一つかいていない千を見て、ついそう思ってしまう。彼女はこの調子で、恐らくハルの何倍もの<クロプス>を倒しているだろう。

 無表情のまま、一度も攻撃を受けずに、一度も反撃を許さずに。

「どうした、天城? もうギブアップか?」

 いつの間にか、ハルの隣にはミリヤがいた。彼女も多くの<クロプス>を倒しているが、汗一つかいていない。

 ミリヤの闘い方は千とは真逆のかなり激しいものである。

 偃月刀を手に戦場の中を駆け巡り、行く手を阻む<クロプス>を全てなぎ倒している彼女の姿は鬼神のようであった。

「あ、いえ……千さんを見てまして」

「千を? ……ああ、成程な」

 今も<クロプス>を切り刻む千を見て、ミリヤが納得する。

「お前は千の[閃界せんかい]をみるのは初めてなんだな」

「[閃界]ですか?」

「そう。あいつの刀を振る速さは光にも到達している、なんて言われてるからな。もちろん、誇張されてるけど」

 だが、そう思っても仕方ないほど、千の刀を振る速さは常人離れしている。

「あの速さを正面から止められるのは、恐らく世界にもあまりいないぞ」

「でしょうね……」

 ハルはもう一度千に目を向けた。

「…………」

 偶然、千もこちらを見ていたので、二人の視線が交錯する。

(っ! ……面白い)

 ふと、ハルはほほ笑んだ。

 互いが顔を合わせた時間は一瞬にも満たなかったし、千は無表情のままだったが、彼女の目は語りかけていた。


『ここまで来れる、ハル?』


 と。

「っと、でかいのが来たな」

 他の<クロプス>より二回りほど大きい、リーダー格の<リネル・クロプス>が、ハルとミリヤに迫っていた。

「……レイガーニさん。ここは俺が」

「大丈夫なのか? 疲れてるんなら休んでていいぞ」


『オォーー!!』


 その<リネル・クロプス>は二人から十メートルほど離れた場所で雄叫びをあげ、巨大な棍棒を持った右腕を大きく振りかぶり、

『ガァーー!!』

 そのまま思いっきり二人に向けて振り下ろした。

「休むなんてあり得ませんよ……これからが」

 ハルは右手に大量の氣を瞬時に溜め、


「燃える所ですから!!」


 手の甲を上にして、迫る<リネル・クロプス>の棍棒に合わせる形で勢いよく右腕を振り上げた。


 ドゴォン!!


 と、激しい音が響き、

『オォ!?』

 大きさや重量で勝るはずの<リネル・クロプス>の棍棒が、空高くへと吹き飛んだ。

「へぇ……私も負けてられないな」

 今の一撃で対抗心に火が付いたミリヤは偃月刀を構え、頑張れよ、と言い残して戦場のただ中へと身を投げ出した。

「どれだけ時間がかかるかわかりませんけど」

 ハルも二本の魔力剣を構え、

「絶対に隣に立ってみますよ、千さん!」

 <リネル・クロプス>に向かって駆けだした。


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