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~第40話~

「……今、なんて?」

 全員が目を丸くして呆けている中、一番の当事者と言えるハルが最初に反応した。聞き返しただけだが。

「だから、お前はこれから私のグループと生徒会グループ、両方の活動に加わるんだ。いいな、風谷?」

「それは……別に構いませんけど」

 腑に落ちない、といった顔をする里奈。玲奈がそんな事を言ってしまったら、そもそもこのイベントが意味を為さないからだ。 

「何だ、不満か?」

「いえ……神埼先生はそれでいいんですか? 天城をこんなどっちつかずな状況に置いて」

「お前達が何を勘違いしてるか知らないが、私は最初からそれでも構わないと思ってる。どっちつかずになるかどうかは、天城が決めることだからな。もっとも、この『ヘタレ』が、私か生徒会のどちらかのグループ活動の手を抜く、なんてこと出来るとは思えないがな」

「ヘ、ヘタレって、もうちょっとマシな言い方あるでしょう!」

「お前はどうなんだ? 私の予想では、お前の方がそういう、どっちつかず、を嫌うと思ったんだが?」

 ハルの抗議を無視して、玲奈は今も訝しんでいる里奈に尋ねた。

「私は……」

 里奈は玲奈から目線を外し、『む、無視された……』とうな垂れてアベルと絵梨に慰められているハルに目を向けた。

「……あいつの才を私だけで御しきれるとは思えません。多分、あなたの元で指導を受けるのが一番です」

「そうか」

「ただ、あなたが天城を生徒会グループに入れろとおっしゃるなら、喜んで迎え入れましょう。いい刺激にもなりますし……まぁ、色々と無駄になりましたけど」

「意図的に噂を流したことか? あれもお前らしくなかったな。恐らく、桐野宮あたりの入れ知恵だろう」

「やっぱり気付いてましたか。それであなたをイライラさせて、このイベントを許可して貰ったつもりだったんですが……掌の上で踊らされてただけでしたね」

「まぁ、イライラしたのは本当だし、あいつの成長のためにもいい機会だったからな」

「一つ聞きたかったんですが……あの状況で私が天城を本気で倒しにかかってたらどうしたんですか?」

「さぁな。それは、その時考えるしかないだろう。……お前には感謝してるよ。天城の成長に一役買ってくれたからな」

「……驚くほど天城に心酔してますね」

「お前もな」

 玲奈がそう言うと、里奈は一瞬目を丸くし、

「そうですね」

 と、呟いてほほ笑んだ。

「あの……それで、どうなりました?」

 何とか立ち直ったハルが、恐る恐る二人の話に入る。

「お前は今日から生徒会と私のグループ掛け持ちだ。モテモテだな」

「は、はあ……」

(俺の意思は確認しないのか)

 と、ハルは思ったが、よく考えたら中々理想に近い結果なので黙っていた。

(まぁ、かなり疲れるだろうけど)

「それで、生徒会は天城をどう使っていいんですか?」

「基本はそっちでいい。私のグループ活動は週一・二回ぐらいだ」

「いいんですか?」

「こいつに必要なのは経験だ。それは生徒会にいたほうが養える」

「まぁ、そうですね」

 桜楼学園に来る≪世界機構≫の依頼で、急を要するものは全て生徒会に任される。生徒会の実力が保証されているからだ。だから、生徒会は教員グループを含めた他のグループより、依頼をこなす数が大幅に多くなる。

「じゃあ、俺はこれから午後は生徒会室に行けばいいんですね?」

「ああ。私のグループ活動の時は事前に知らせる」

「わかりました」

 ハルは頷き、里奈に顔を向けた。

「これからよろしくお願いしますね、風谷会長」

「ああ。よろしくな」

「健吾さんも、よろしくお願いします」

「おう。他の奴らもお前を歓迎するだろう。あんまり気負うなよ」

「はい……それと、蓮華さん」

「は、はい」

 事態を完全に把握出来ていない蓮華はおっかなビックリ返事をした。

「この前と言ってる事が逆になっちゃったけど……精一杯頑張るから、これから生徒会でもよろしくね」

「は……はい!」

 だが、ハルの言葉でようやくこの話が紛うことなき現実だとわかり、蓮華は喜びを噛み締めた。

(天城さんと……一緒に……ふふ♪)

 一度は諦めていたことなので、その喜びは半端ではなかった。

「なんだか色々イキナリ過ぎて、正直ついていけてないが、とりあえず頑張れ」

「私も全然意味がわからないけど、頑張ってね、天城君」

「あ、あはは……ありがと、アベル、堂島さん」

 ハルが苦笑して頬をかいていると、

「大変だろうが、頑張れ」

 クラスメイトで唯一この事態を理解しており、今のところ一番のライバルと言える五月にそう声をかけられた。

 自然と、ハルの表情も引き締まる。 

「はい……次に冬樹さんと闘う時までに、信じられない成長を遂げてみせます。覚悟しておいて下さい」

「へぇ、それは楽しみだな。だが、私もそれまでにはお前を圧倒出来るまでに強くなってるだろう。覚悟するのはお前のほうかもな」

 五月とハルは互いの強い瞳を見て、


((負けてたまるか))


 と、闘志を燃やしたのだった。

「風谷」

 そんなこんなで保健室の空気がほんわりし、いよいよリーナが怒りそうになったところで、玲奈が手に持った紙を里奈に渡した。

「? なんです? ……っ」

 紙を受け取り、ざっと読んだ里奈は息を飲んで玲奈を見た。

「それに天城も同行させろ」

「これを今持ってきた、ということは、私があなたにあんな事を言うと予想してたんですか?」

「どうだかな」

 玲奈は意味深にほほ笑み、里奈はため息をついた。

「あなたには敵いませんね……健吾、蓮華、天城」

「「「?」」」

 里奈に名前を呼ばれた三人が近くに寄る。

「生徒会に依頼が来た」

「っ、世界機構からか。内容は?」

 いち早く状況を理解した健吾が険しい顔になった。

 他の二人もその空気を察し、緊張した面持ちになる。

「『ルクセール』に[クロプス]が押し寄せているようだ。その数はおよそ五百。気付いたのが早く、まだ距離があるから攻め込まれるのは明日の午後らしい。で、依頼内容は当然ルクセールの騎士団の援軍」

「五百の[クロプス]か……中々多いな」

(『ルクセール』? [クロプス]?)

 聞いた事の無い言葉か飛び交い、混乱するハル。

「それ、俺達だけじゃ少し面倒じゃないか? 他のグループにも助けてもらうのか?」

「いや。他の学園との共同依頼だからグループの手助けはいらない」

「へぇ、珍しいな。それで、どこの学園だ?」

「それは……」

 里奈は一度言葉を止め、ハルをチラッと見た。

(……もしかして)

 その視線に気付いたハルの頭に、同居人の一人の顔がよぎったのと殆ど同時に、


「天楼学園の生徒会だ」

 

 と、里奈が言った。

(天楼の生徒会……千さん)

 ハルは思わず苦笑した。あまりにも出来過ぎていたからだ。

 そして、ハルはこの人生初めての世界機構からの依頼で、謎の同居人【御柳千】の恐ろしいまでの実力の一端を垣間見ることになるのだった。


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