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~第39話~

「ごめんなさい」

「許しません」

「…………」

(これは……)

 ハルは目の前の光景に苦笑いするしかなかった。

 場所は保健室。

 そこには、

「本当にごめんなさい」

「絶対に許しません」

 桜楼学園生の頂点に君臨する里奈が、何の変哲もない一年生の蓮華に≪土下座≫するという、今後絶対見ることが出来ないであろう光景があった。しかも、未だに許して貰えずにいる。

「何か……シュールな光景ね」

「あ、ああ……」

 付き添いに来た絵梨とアベルも、呆れ半分驚き半分、といった様子である。

「しかし……何で蓮華はあんなに怒ってるんだ?」

 左手に包帯を巻いた五月が首を傾げる。

 ちなみに、五月の怪我は、今も黙々とハルの治療を行っている保健医の【リーナ】によってあっという間に完治した。包帯は一応、である。

「そりゃあ、里奈が無茶苦茶したからだよ」

 腕組みをした健吾が答える。彼も絵梨達と同じく付き添いに来ていた。

 保健室にいるのはこの八人だけで、その全員がこの光景に一様に苦笑いしている。

「無茶苦茶は……確かにしてましたけど」

 ハルは里奈がビル一つ簡単に崩壊させたのを思い浮かべ、

(でも……多分、蓮華さんは俺のことで怒ってくれてるんだよな)

 それと同時に、ついさっき、蓮華が涙目で自分の元に駆け寄ってきた姿を思い出していた。

(まぁ、クラスメイトがあそこまでズタボロにされたら、不安にもなるか)

 蓮華もだが、ハルも微妙に分かっていなかった。

「はい。終ったわよ」

 そこで、今まで黙って治療していたリーナが口を開いた。

「今回は前と違って複雑な怪我はなかったから完治したはずよ。どう?」

「ん、ん~……はい、大丈夫です。全然痛くないです」

「そう。それじゃ、早速だけどあの娘達を何とかしてくれない?」

 仕事が出来ないわ、と言って、リーラは里奈と蓮華を指差した。

「やっぱり……俺が止めるべきですか?」

「多分ね。勘だけど」

 適当な理由だが、この保健室にいる誰もがそう思っていた。

「はぁ……はい」

 ハルもそれが分からないほど馬鹿ではないので、ため息をついて椅子から立ち、二人の元に向かった。

「聞いてくれ、蓮華。私は天城を殺すつもりはなかった。これは信じてくれ」

「殺す殺さないじゃありません。あそこまでやる必要はなかった、って言ってるんです」

「いや、それは」

「それに……最後の里奈さんは『暴走』しかけてました」

「……気付いてたのか?」

「何年の付き合いだと思ってるんですか……私も、いつまでも子供じゃないんです」

「そう……だな」

 蓮華は悲しげな表情になり、里奈は顔を伏せた。

(な……なんか……入りづらくなった)

 少し今までと違う雰囲気に戸惑うハルだが、いつまでも黙って立っているわけにもいかないので、勇気を振り絞って二人に声をかけた。

「れ、蓮華さん、会長」

「あ……天城さん」

「もう大丈夫なのか?」

「は、はい」

 正座中の人に心配されたことにハルは思わず笑いそうになってしまったが、何とか堪えて真面目な顔を保ち、話を続けた。

「蓮華さん、そんなに会長のことを怒らないであげて下さい」

「え……でも」

「間違ってたら凄い恥ずかしいんですけど……蓮華さんは俺のために怒ってくれてるんです、よね?」

「っ……は、はい」

 蓮華の顔が一気に真っ赤になった。しかし、すぐに何かに思い至り、一転して不安そうな表情に切り替わった。

「もしかして……迷惑、でしたか」

「そんな訳ないよ。すっごい嬉しい」

 満面の笑みを見せてハルは言った。

「そう、ですか」

 ホッと息を吐く蓮華。

「でも、俺が怪我をしたのは、風谷会長のせいじゃない。確かに殺されそうにはなったけど、風谷会長はそれを帳消しにしても足りない、大切なことを教えてくれたんだ。だから……ね?」

「……わかりました」

 ハルが思っていたよりあっさりと、蓮華は頷いた。

「天城さんがそこまで言っているのに、私が里奈さんのことを怒るのはお門違いですから……でも、里奈さん。今度はちゃんと約束を守って下さいね」

「ああ、分かってる。次から、緊急事態以外の時はちゃんと我慢するさ」

 里奈が力強く頷いてほほ笑むと、蓮華も、やれやれ、といった雰囲気を醸し出しながらもほほ笑んだ。

「一件落着、だな」

 安堵の表情を浮かべるハルの肩に手を置く健吾。

「ですね……蓮華さん、かなり怒ってたみたいですから、二人の仲が悪くなるんじゃないか、って心配してたんですけど……大丈夫そうですね」

「里奈が蓮華を溺愛してるのと同じくらい、蓮華も里奈にべったりだからな。余程のことがない限り、あいつらが仲互いすることはない」

「へぇ……」

 すでに里奈と蓮華は楽しそうに喋っている。喧嘩の後に尾を引かないのは、長年一緒に過ごしてきた幼馴染だから出来ることなのだろう。

「あなた達、用が終わったなら出なさいよ。こっちは今のイベントのお陰で猫の手も借りたい状況なのよ」

 リーナがそんな事を言う程度に、保健室が通常の空気に戻った時、

「失礼するぞ」

 突然、玲奈が保健室に来た。

「あ、神埼先生」

「天城、もう怪我は治ったか?」

「はい。前と違って完全に完治しました。痛みもありません」

「そうか。なら、大丈夫だな」

 玲奈は視線をハルから里奈へと移した。

「風谷、イベントの結果はどうなった?」

「……参加者で条件を満たした者はいません。あなたのグループに押し寄せる生徒もいなくなるでしょう」

「それはどうでもいい。私が聞いているのは、天城とお前の闘いだ。結果は引き分けになったが、どうする?」

(そう言えば……引き分けの時はどうなるのか、聞いてなかったな)

 なんて、ハルが思っていると、

「そんなの、考えるまでもありません。私の負けですよ」

 と、里奈が即答した。

「負け、って……引き分けだったじゃないですか」

「私は自分が絶対に勝つと思ってたんだぞ? その私とお前は引き分けた。入学したての新入生が、だ。そんなの、私の負けに決まってるだろう」

「でも、風谷会長が最初から俺を倒す気で来れば、一瞬で勝負はついてましたよ?」

「それを差し引いても、私は勝てると確信してたんだ」

 里奈は玲奈の目を真っすぐ見つめた。

「あの闘いは私の負けです。天城を生徒会に誘うのは諦めます……それで、神埼先生は私達生徒会に何をさせますか?」

「……私は特に勝った時のことは言わなかったが?」

「言ってませんが……あなたがこのままなんの条件も出さない事のほうが不気味です。『罰ゲーム』はここで決めて下さい」

「……ふん。そこまで言うなら、好きにさせてもらおうか」

 保健室に異様な緊張が訪れる。

(さて、どんな罰ゲームか……魔物千体討伐、とかならまだ楽なんだが……騎士団の本拠地に闇打ち、なんてのは勘弁だな)

 里奈は内心冷や汗をかいていた。玲奈ならそんな事も言いかねないからだ。

「……よし」

 玲奈が頷き、周りを見渡して口を開いた。

 全員が硬直している中、玲奈が口にした言葉は、


「天城を私のグループと生徒会グループの両方に入ることを許可してもらう」


『…………』

 そんな、ある意味耳を疑うものだった。


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