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~第36話~


「足掻いてみせろ、天城ハル」


 直後、里奈はハルの右手側に回り込み、右拳を一気に振り抜いた。

「くっ!!」

 ハルは右腕を曲げ、その攻撃を防ぐ。

 鈍い音が響き、ハルの身体が空中に浮いて、横に飛んだ。

(重っ!)

 まるで、巨大な鉄球が直撃したような衝撃に身体全体が震える。しかし、完璧に防御したので、ダメージは少ない。

(護りは意味がない!)

 数メートル横に飛ばされたハルは、着地すると同時に里奈に迫った。

「ほう」

 と、思わず声を漏らす里奈。ハルのこの行動が意外だったのだ。

(もう少し慎重に来るかと思ったが……ん?)

 自分に迫るハルを見て、気付く。ハルが何かに追い立てられているような目をしていることに。

(何を焦っている……まぁ、もう少し様子見だな)

「はぁ!!」

 ハルは右手に持った≪重い≫魔力剣を、気合いで横に振り切った。

 それを屈んで避けた里奈が、右手に氣を溜める。

(させるかっ!)

 その里奈の右手目掛けて、ハルは左脚を蹴り上げた。

「っと」

 その蹴りを里奈が右手で受け止めた瞬間、

「う、らぁーー!」

 左手を地面につけて身体を半回転させ、右脚の踵を里奈の右こめかみに向けて振りぬいた。

「おぉ」

 里奈は身体を引いてその蹴りを避けた。

 ハルは勢いのまま左手を中心に身体をもう半回転させ、両脚を地面につけて再度里奈に迫った。

(成程、確かに面白い闘いをする)

 迫るハルからバックステップで逃げながら、里奈は感心する。

(まさしく、バトルの天才だな……ふむ)

 そこで、里奈の悪戯心に火がついた。

(さて、こいつはどこまでやれるかな♪)

「この!」

 バックステップの里奈にも追い付けない自分の遅さに歯痒さを感じるハル。段々とイライラも募ってきた時、

「っ!?」

 里奈が両腕に氣を溜めているのに気付いた。

(来る! でも、チャンスだ!)

 相手の攻撃は脅威だが、逆にカウンター出来る機会が生まれた、とハルは考えた。

(問題は……避けられる速さかどうか、だよな……正直、自信はない)

 だが、やれなければ、負ける。

(意地でもやってやる!)

 ハルが決意するのと殆ど同時に、里奈は一際大きく後ろに跳んだ。

 二人の間に二十メートル程距離が開くが、この程度なら数秒も経たずに埋まる。

(その時が、勝負の時だ)

 と、思っていたハルは、次の里奈の行動を理解出来なかった。

「さて、と」

 呟いた里奈は、あろうことかその両腕を地面に強引に突き刺した。

「……へ?」

 ハルがその行動の意味を考えようとする前に、里奈は腕を上げた。

 直後、ハルの脚元が揺れ、いきなり視界が高くなった。

「え、ちょ、何で!?」

 狼狽するハルは、

「っ……おいおい……嘘、だろ」

 里奈を見てようやく状況を理解した。

「意外と上手くいくもんだな」

 なんて言う里奈が、≪ハルの立っている地面を持ち上げていた≫のだ。縦、三十メートル、横二十メートルほどの地面を強引にくり抜いて、である。

「あ、ありえないだろ」

 その、持ち上げられて斜めに傾いた地面の上で呆然と呟くハル。竜ではあるまいし、いくら普通の人より力の強い≪獣人≫とは言え、こんな事出来るはずないからだ。

(力がある、ない、の問題じゃない……物理的に不可能だ)

 もちろん、ハルの思っている通り、里奈は力だけでこんなことをしたわけではない。彼女の≪魔術≫がこの嘘みたいな事を可能にしているのだ。

 ≪魔術≫とは、言ってしまえば≪未知なる力≫である。現代の科学をもってしても、それがなんなのか、全くわかっていない。

 ≪火を操る≫、≪水を操る≫などが、魔術の一例であるが、自分の魔力を消費して火や水を発生させる魔法とは違い、魔術は元からある火や水を意のままに操ることが出来るのだ。この他にも、≪身体が変化する魔術≫や≪心理的な作用を及ぼす魔術≫など、魔術の種類は数えられないほど多岐に渡り、今現在も新たな魔術が発見されているかもしれない。

 どのようにして人がこの未知の力、魔術、を会得するのかも全くわかっておらず、生まれた瞬間に魔術を使える者もいれば、遊んでる最中に突然魔術が使えるようになったり、と人によって様々である。

 あらゆる不可能を可能にする力として、魔術を≪神から授かった奇跡の力≫と呼ぶ者もいる。

 その奇跡の力を使えば、里奈がこんな大きな地面を持ち上げることも可能なのだ。

(会長の魔術か!?)

 ハルもようやくそう思い至ったが、それが分かった所でどうしようもない状況だった。

「よっと」

 里奈はいとも簡単にその巨大な地面を≪自分の立っている地面≫と垂直になるように、横に持ち変えた。

「わっ」

 その里奈の持ち上げている地面が垂直になったのだから、当然足場も垂直になり、ハルは空中に放り出された。

 それだけなら何の問題もなかったが、

「そら」

 と、軽い一声とともに、里奈はその持ち上げた地面を思いっきり真横に投げ飛ばした。

「なっ!?」

 驚愕するハルをも巻き込み、その地面は高速でビルに直撃し、とんでもない轟音をたてながらビルを破壊して砕け散った。

「ちょっとやり過ぎたな」

 大きな砂煙をたてて崩れ落ちるビルを前にそんなことを呟く里奈。彼女にとってこの大惨事は≪ちょっとやり過ぎた≫程度だった。

 その後、十秒も経たない内にビルも跡形もなく崩れた。

「あー……天城の奴、死んじゃったかな?」

 言いながら、里奈が瓦礫の山に足を踏み入れた瞬間、


「もらったぁーー!!」


 近くの瓦礫の一角から飛び出した殆ど無傷のハルが、上から下へと魔力剣を振った。

「っ!?」

 その攻撃には流石の里奈も息をのむが、

(っ! また!)

 ハルの腕が鎖に縛られたように動かなくなり、

「? っと」

 その一撃はあっけなく避けられてしまった。

「くっ、そ!」

 ハルは次の攻撃は仕掛けず、里奈と距離をとった。

(駄目だ……いくら押さえつけても……手が)

 剣を持つハルの両手は不自然にプルプルと震えていた。

 そして、その違和感の正体には里奈も気付いた。

(気のせいだと思ってたが……天城の奴、剣を振れないのか?)

 俯くハルの表情には、迷い、焦り、恐怖、など様々な感情が混ざり合っていた。

(……ああ。成程、な)

 その表情を見た里奈は、全てを理解した。

 ハルが剣を振れない理由、そして、なぜ、玲奈が簡単に生徒会の要求を受け入れ、他の生徒達も参加させ、わざわざ里奈を代表として指名してこのイベントを許可した理由も。

(全部……こいつのためか)

 今も懸命に剣を握っているハルを見る。

「……ったく」

 まんまと玲奈に一杯喰わされたことを知った里奈は頭をかいた。その心境は色々と複雑で、ハルに八つ当たりをしても不思議ではなかったが、

(……仕方ない。付き合ってやるか)

 何故か、そう思った。

(千や蓮華、神埼玲奈だけじゃなく、私もこいつに感化されたか……迷惑な奴だ)

 里奈は気付いていなかった。

 自分がとても楽しそうに笑っていることに。

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