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~第30話~

 あっという間に時は進み、ハルが生徒会室に訪れてから三日が経った。

「ふぅ」

 懐かしの≪コロッセオ≫の闘技場で、息を吐くハル。

 今は開始の合図を待っている状況なので、『グループ試験』参加者の殆どが、この場に集まっている。そして、皆が遠巻きにハルと、隣に立つ玲奈にチラチラと目を向けていた。

「百五十ってところか。まあまあ、だな」

 玲奈が参加者に目を向けながら呟く。

 その数は、当初の推測参加人数より若干多い。大々的に告知したため、今まで半歩引いていた生徒も参加を決めたのだろう。それと、グループに入るための条件が比較的簡単なのもそれを後押ししている。

「致命傷を受けたら負けか……この人数だし、体力保てるかなぁ」

「保ってもらわなければ困る。こんな奴らを指導するのは面倒だ」

「う……頑張りますけど……最終目標の『あの人』に勝つのは、流石に無理があると思いますよ?」

 『あの人』とは、もちろん生徒会長の風谷里奈のことである。

「やろうと思えばやれる」

「はぁ……」

 相変わらずの言葉に、ハルは思わずため息をついた。

 ハルはこの二日間で、何故あんな無茶な条件にしたのか、と何度も玲奈に尋ねたが、その答えの全てが、この≪やろうと思えばやれる≫だった。

(そりゃあ、やろうと思えばやれるのかもしれないけど……殆ど奇跡に近いだろう)

 里奈に勝たなければ、ハルは生徒会に半強制的に入れられてしまう。それはハルも玲奈も望んでいないはずである。

 ただ、この参加者の半数近くが生徒会に入ることを目標としているので、実はハルはとても優遇されている。

(普通に考えればどっちに転んでもいいんだけど……)

 横目で隣にいる玲奈に目を向ける。

「…………」

 玲奈は無表情のまま、じっと前を見据えている。

(俺はこの人の指導を受けるって決めたんだし)

 それを曲げることは、出来ない。

(それに、ここで生徒会に入ったら、あの<レイグレス>との闘いは何だったんだ、って話になる……頑張ろう)

 と、ハルが心中で決意を新たにしていると、

「ああ、そうだ」

 玲奈が唐突に口を開いた。

「天城、この闘いで魔力の応用を極力使うな」

「……え」

 ハルが目を丸くするのも無理ない。魔力の応用はハルの唯一と言っていい取り柄だからだ。

「絶対に使うな、というわけではない。ただ、お前より実力が下の奴が相手の時は使うな」

「で、でも。参加者には先輩方もたくさんいるんですから、俺より実力が上の人なんていっぱい」

「ここで一年以上過ごして、まだ自分の目指す道がわからずにグループを変える奴は、どう考えても今のお前より弱い。どちらかと言えば、一年のほうがお前にとっては厄介な相手になる」

 心構えが違うからな、と玲奈はそこそこの大声で言う。

「そ、そういう事はもうちょっと声を落として言って下さい!」

 ハルは自分達に向けられる視線が鋭くなったことに気付かないフリをしながら、小声で話を続ける。

「参加者には三年の先輩もいましたよ? パッと見ただけですけど……あの人達は明らかに俺より上でした」

 しかも、全員が強面で態度が悪かった。所謂、不良と呼ばれる者達だ。真面目に学園生活を送っているとは思えないが、腐っても三年。ハルより場数を踏んでいるし、技術的にも上だろう。

 ちなみに、エリート育成を教育方針としている、ハルの同居人の千が通う≪天楼学園≫以外の学園には、少なからず不良がいる。学園もその事を認知しているが、更生の余地がない者でも余程のことがない限り≪退学≫にはならない。その理由としては、学園の面子云々より、≪普段の学園生活に刺激を与える≫などの中々シビアな理由だ。

 ≪やられたら、やりかえす≫ぐらいの気持ちがなければ、この世界では生きていけない。やられた相手が不良で、多人数に襲われた場合でも、である。

「だから、そいつらが相手の時は魔力の応用を使っていい。それに、そいつらの目的はどう考えてもお前じゃないから、運が悪くなければ闘うことはない」

「……でも、俺の運の悪さは折り紙つきですよ?」

「……そうだったな」

「「…………」」

 二人の間に何とも言えない沈黙が流れていると、


『これより、生徒会主導の臨時イベント『グループ試験』を開始します。参加者の生徒は闘技場に集まって下さい』


 と、放送が流れ、コロッセオの緊張が段々と高まり始めた。

「まぁ、頑張りますね……今度こそ、先生の期待に応えられるように」

「そうだな。期待、してるぞ」

 二人は顔を見合わせて一瞬だけほほ笑み、行きます、と言ってハルは闘技場の中央に向かって歩き出した。

「……天城」

 その背中に声をかけた玲奈は続けて、


「『覚悟』を決めろ」


 と呟き、背中を向けてハルの歩く先とは反対の方向へと歩を進めた。

(『覚悟』?)

 それが何を意味するのかわからずにハルは心中で首を傾げるが、深く考える前に放送が流れた。

『それでは、基本ルールの確認をします。一年の天城ハル、四年の風谷里奈、このどちらかに致命傷を与えた者が、両者が所属するグループに入ることが出来ます。時間は三時間。戦闘場所は公平を期するため、転移するまで誰もわからないようにしています。それと、参加者同士の戦闘も許可します』

(ありだとは思ってたけど……あんまり期待できないな)

 特入試験と違い、参加者同士で争ってもいいことは一つもない。無駄な闘いをするぐらいならば、無視するか、下手したら結託してしまう可能性がある。

 唯一の救いが、この条件でグループに入れる者が一人ずつということである。

(でも……どちらにせよ、俺にはとことん不利なルールだ)

 百人以上が敵で、なおかつ、勝てる見込みがゼロに近い相手と絶対に闘わなければいけない。これだけでも、精神的にかなり負担がかかる。

 ちなみに、時間切れで里奈と闘えなくなった場合、生徒会に入れないどころか、破門する、と玲奈に言い渡されている。なので、逃げ続けるという選択肢は一番避けなければいけない。

(……理不尽じゃね?)

 と、ハルは今さらながら思ってしまった。

(はぁ……新入生にこんなことやらせるなよ)

 と、ハルがもっともな理由で弱気になっている間に、その時が来た。

『それと、万が一を想定して、転移場所には数人の教員が待機しています。それでは、時間もありませんので、早速参加者の方には戦闘場所に転移してもらいます。先生方、お願いします』

 特入試験の時と同じように、観覧席にいる教員数人が闘技場に手をかざした。

(あー、成程。あの『第10転移室』の時は、神埼先生が一人でやってたけど、やっぱりこの人数と大きさを転移させるには、それなりの人員と魔力が必要なんだ)

 なんて、ハルが若干現実逃避気味に納得している間に、闘技場の地面の輝きが強くなり、


『健闘を祈ります』


 との言葉が最後に耳に入り、ハル、里奈、参加者百五十人近くが、その場から姿を消した。



    *****



 観覧席の一角に、ハルのクラスメイト達の姿があった。

「遂に始まったなぁ」

 アベルが楽しげに呟くと、隣の座る絵梨もウキウキしながら同意する。

「わざわざスケジュール調整したんだし、頑張ってよね~、天城君」

「お前、そんなに天城の闘い見たかったのか?」

「もちろん! 色々噂になってるじゃない。前代未聞の新入生、とか。私はあんまりそういうの興味ないんだけど、あんなに言われてたら気になるのは当然でしょ?」

 アベルと絵梨は同じ中学園だったので、そこそこ仲がいい。そのため、絵梨の喋り方も、他と比べると遠慮がない。

「まぁ、初日から神埼先生のグループに入ったぐらいだし……正直言うと、俺もかなり見たかった」

「でしょ♪ でも……私達に比べて、この子は……」

 絵梨は自分の右隣に座る蓮華に目を向けた。

「う、う~……天城さん…」

 蓮華は絵梨やアベルとは正反対の青白い顔でそわそわしている。

「……はぁ」

 そんな蓮華に絵梨はため息をつき、肩に手を置いた。

「ひゃ、ひゃわ!」

 蓮華は、ビクッ、と震え、

「え、絵梨ちゃん~」

 絵梨に泣きそうな顔を向けた。

「ほら、そんな顔しない……何で蓮華がそんなに緊張してるのよ?」

 絵梨が蓮華の頬をプニプニしながら尋ねると、蓮華は不安いっぱいの目を伏せて呟いた。


「里奈さんがあの笑い方をすると……絶対によくないことが起こるんだもん」


「え?」

 蓮華の言葉に思わず絵梨が手の動きを止めると、闘技場に大きなモニターが現れた。これも特入試験の時と一緒だが、違うのは、二人の生徒がピックアップされていることだった。 

 彼等はこの闘いで見知ることになる。自分達のクラスメイトがどれだけ特別で異常な存在なのか、ということに。

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