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~第26話~

「はぁ、私も暇じゃないんだけど?」

「す、すみません」

 呆れ顔の保健医のリーナに、ハルは申し訳なさそうに頭を下げた。

 昨日の魔力検査に引き続き、今日もまたハルは保健室に来ていた。もちろん、<レイグレス>との闘いで負った傷を治すためである。

「まぁ、仕事だからいいけど」

 そう言って、リーナは再度ハルの傷に目を向けた。

「どうでしょう?」

「う~ん……所々骨がひび割れてたり、皮膚がバッサリ切れてるとこもあるけど、やっぱり一番は左脚ね」

「やっぱりですか」

 今も、筋肉がズタズタになっているハルの左脚には激痛が走っている。

「表面的な傷とか、再生力の高い骨とかだったらどうとでもなるけど、筋肉は治すのにそれなりの時間が必要になるわよ」

「時間って……どのくらいですか?」

「そうねぇ……完治まで三日、ってところかしら」

「三日……」

 長くもないし短くもない、微妙な日数であった。

「普通だったら一週間かかるでしょうけど、あなた自己治癒能力高そうだから……これも、魔力量が関係してるのかしらね」

「? 何です?」

「何でもないわ。治療するから左脚この椅子に載せて」

「? はい」

 首を傾げながらも言われるままにハルは左脚を椅子に載せた。

「痛々しいわねぇ」

 なんて呟いたリーラが両手をかざすと、傷口が淡く輝きだした。

(おぉ……なんかぬるま湯に脚を突っ込んでるみたいな……気持ちいい)

「……あなた、『医術魔法』受けたことないでしょ?」

「はい。直接見るのは初めてです」

 特入試験の時は気絶していたため、治療されていた記憶は当然ない。

「顔、緩みっぱなしよ」

「えっ……そ、それは失礼しました」

 あまりの気持ちよさに、つい表情を和らげすぎていたハルだった。

「気持ちはわからないでもないけどね」

 そう言って、リーナは治療に専念し始めた。

 ≪医術魔法≫は、他の魔法とは少し毛色が違う。

 ≪八属性≫などの適正が個人の才能に左右されるのに対し、医術魔法は先祖代々受け継がれていく≪遺伝的≫な性質を持っている。

 もちろん、≪医術者≫の家系でないものが医術魔法の才能をもって生まれることもあるが、やはりそれはかなり珍しい。

 なので、医術魔法を使える≪医術者≫は少なく、全世界でかなり重宝されている。

 ちなみに、魔法を使わない科学的な医療技術もかなり進化しているので、切り傷や骨折などの≪怪我≫は医術魔法で、風邪や癌などの≪病気≫は科学的医療で、それぞれ分担している。

「今気付いたんですけど……俺もしかしたら医術魔法の才能があるんじゃないですか? 昨日のあれに医術魔法の適正は書かれてませんでしたよね?」

 と、一縷の望みをかけて言うが、

「無理よ」

 一刀両断されてしまった。

「……ですか……ちなみに、理由は?」

「私達医術者は例外なく八属性の適正が全て『50』を超えてるのよ。つまり、魔法の才能がないと医術魔法も使えない……全部『1』のあなたじゃ天地がひっくり返っても無理ね」

「…………」

 涙がこぼれないようにハルが上を向いていると、

「天城、新しい制服を持ってきてやったぞ」

 今まで姿が見えなかった玲奈が保健室に入ってきた。

「あ……ありがとうございます。神埼先生」

「……お前、何で泣きそうなんだ?」

「……気のせいです」

「? ……まぁいいか。ほら」

 玲奈はハルに袋詰めにされた制服を渡した。

「ありがとうございます」

 失礼のないように受け取り、ハルは頭を下げた。

 制服が<ボロボロになったので、玲奈がハルの治療の間に取りに行ってたのだ。

 鍛練や≪世界機構≫の依頼には、ちょっとした防護服の機能も備えている桜楼の制服で行うので、頼めば無償で制服が支給される。

「それで、怪我の状態は?」

「左脚がやっぱり一番酷いみたいです。完治まで三日はかかると」

「三日か……軟弱な脚だな」

「す、すみません」

 頭を下げたハルは、ずっと気になっていたことを尋ねることにした。

「神埼先生……俺は、先生の期待には応えられたのでしょうか?」

「…………」

 玲奈とハルの視線が交錯し、数秒だけ沈黙が訪れた。

「……あの程度の魔物に苦戦しているようでは、全然だな」

 玲奈は、真剣な面持ちでそう言った。

「そう……ですか」

 予想していた言葉だった。

 あんなギリギリの闘い、一歩間違えれば死んでいたのはハルだったかもしれない闘いで、玲奈の期待に応えられたとは思っていなかったからだ。

(予想はしてたけど……)

 けれども、ショックは大きかった。

 これで玲奈に見限られたとしても、ハルにはまだまだ道がある。それこそ、生徒会に入ることだって出来る。

 しかし、そうなるとハルの心に≪神埼玲奈という一人の人間に認められなかった≫という事実が、いつまでも付きまとうことになる。

(……悔しいなぁ)

 それは、今までのハルに芽生えたことのない感情だった。

 玲奈は明らかに落ち込むハルを横目で見て、言った。


「『次に』あんな無様な闘いをしたら、その程度の怪我ではすまないほど痛めつけてやるから覚悟しておけ」


「……え」

 ハルは自分の耳を疑い、丸くした目を玲奈に向けた。

「次、って……まだ俺のこと指導してくれるんですか?」

 こんなに怪我したのに、というハルの言葉に、玲奈は呆れ気味にため息をついた。

「新入生のお前にそこまで高望みするはずないだろうが……それとも、やはり私のグループを抜けたいのか?」

「い、いえ! ……こ、これからもよろしくお願いします!」

「ああ……また明日、私の所に来い」

 玲奈は頭を下げたハルの頭を一度だけ、ポン、と叩き、保健室を出た。

「…………」

 ハルが照れくさそうに叩かれた頭をなでていると、

「はい。終わったわ」

 治療を終えたリーラが声をかけた。いつの間にか、包帯も巻き終えている。

「ありがとうございます」

 慎重に左脚を動かすハル。

 まだ痛みはあるが、大分楽になっていた。

「まだ筋肉が回復しきっていなから、激しい運動は控えるように。それと、あと三日は保健室に通い続けなさい」

「はい」

 左脚に負担をかけないように立って身体の各部位を軽く動かしたハルは、左脚以外の傷もいつの間にか治っていることに気付いた。

(やっぱり腕いいんだな)

 特入試験と今回で、ハルはリーナをかなり腕利きの医術者であると確信した。

「松葉杖でも貸しましょうか?」

「いえ。そこまで辛くはないので大丈夫です」

 ハルはゆっくりと屈伸し、うん、と頷いた。

「大丈夫そうね」

「はい。本当にありがとうございました……また、よろしくお願いします」

 ハルの言葉にリーナは可笑しそうにほほ笑んだ。

「確かに、あなたこれからも保健室ここにいっぱいお世話になるでしょうね。さっきは暇じゃない、なんて言ったけど、あなたがいれば退屈しなくて済むわね」

「あ、あはは」

 半分冗談のつもりだったのだが、なんだかリーナの言う通りになりそうだ、と思ったハルは頬をかいて苦笑した。

「そ、それじゃあ、失礼します」

「ええ。頑張りなさい、天城君♪」

「はい!」

 ハルは力強く頷き、片足ケンケンでその場を後にした。


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