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~第22話~

 桜楼の学食はとても広い。生徒全員がここで食事をしたとしても席は余る。だが、昼時に賑やかになるのは他と一緒であった。

 そんな喧騒に包まれた学食で、ハル達は昼食を食べていた。

 メンバーはハル、アベル、蓮華、五月の四人。

 午前の普通授業が終わった後、蓮華がハルに話があるということで、どうせなら一緒に学食に行こうということになり、この四人が集まった。

「生徒会長が俺に会いたいって?」

「はい」

 ハルは対面に座る蓮華の話を聞いて、首を傾げた。

(あの生徒会長が、ねぇ……)

 ハルは特入試験の時の生徒会長【風谷里奈】を思い出していた。勝ち気な目に他を圧倒するオーラ。どう考えても、ハルの得意とする人ではなさそうである。

「里奈さんがどうしても天城さんに会いたいそうなんです」

 蓮華の言葉にハルは益々首を傾げた。

「色々聞きたいことはあるけど……二人ってどういう関係なの?」

「私達、幼馴染なんです」

「え……そうなの?」 

 ハルは思わず箸を止め、話を聞いていた他の二人も同様に驚いていた。

(そういえば……特入試験の日に健吾さんが保健室で生徒会長のこと聞いてたような……)

「それで、『私は色々と手が離せないから、悪いがお前が来てくれ』とのことです」

「はあ……別にそれは構いませんけど」

「『その代わりと言ってはなんだが、他のグループのお前への勧誘を制限させた』とも言ってました」

「ああ。だからこいつに声をかける先輩方があんなに消極的だったのか」

 合点がいった、という感じでアベルが頷いた。

 ハル達が教室を出てから学食に着くまで、ハルは何度か先輩に声をかけられたが、全て軽い挨拶程度だった。そうなったのは里奈の計らいのお陰、というわけである。

「私はそのとばっちりを受けたがな」

 五月が嘆息しながら呟く。

 ハルの代わり、というわけではないだろうが、五月はかなり多くの上級生から勧誘を受けた。ただ、特入試験で五月もそれなりに目立っていたため、それも当然なのかもしれない。

「それで、どうでしょう?」

「会うだけなら大丈夫だと思う……ちなみに、理由は聞いてる?」

「詳しいことはなにも……でも、多分天城さんを生徒会にお誘いするんだと思います」

「生徒会に?」

「はい。生徒会も一つのグループなので。私も里奈さんに誘われて生徒会に入りますし」

「へぇ」

 その横で、アベルが呟く。

「しかし、他のグループの勧誘を制限させて、自分のグループに誘うのか……あの生徒会長やることがえげつないな」

「お前は学生帳を読んでないのか」

 その呟きに、五月が呆れた声を出した。

「……学生帳をきっちり読んでる奴いるのか?」

「はぁ……『生徒会は生徒グループの最上位に位置し、その他のグループの行動を制限出来る』と書いてある。生徒会が他のグループの勧誘を制限することは別に卑怯なことでもなんでもない。教員グループは元々勧誘などしないしな……若干、反則っぽくはあるが」

「自分の気にいったものはどんな事を使ってでも手に入れる、って小さい頃からずっと言ってましたから、里奈さん」

 蓮華が苦笑しながら言う。強く言えないのは、自分も今回はフォローできる状況ではないと思ったからだ。

「でも、俺もう他のグループに入っちゃってますから、ちょっと難しいかもしれないです」

「……え……そう、なんですか……?」

「はい」

「…………」

 蓮華はショックを受けた。

 里奈のやり方は少し強引だと思っていたが、ハルと一緒に生徒会に入れるなら、とも思っていたからだ。

(本当はいけない事なのに……天城さんと一緒に生徒会の活動してることを考えたら……でも……)

 何度目かわからない葛藤を始めてしまった蓮華。自分の恋心に気付いていないことも、この混乱に拍車をかけているのだろう。

「参考までに、冬樹さんはどこのグループに入るか決めてますか?」

「いや、まだだ。真里奈先生の言う通り、ちゃんと全てのグループ活動を自分の目で見てから決めるつもりだ。まぁ、剣技の鍛練を中心とするグループに入るのは確実だがな」

「アベルは?」

「俺は中学園の時の先輩の伝手があるから、そのグループに入るつもりだ。信頼も出来るしな」

「成程ね……でも、全部のグループを見るのって大変そうですね」

「そうか? たかだが百前後で、教員グループを除けば五十にも満たない。全然だろう」

「へぇ、四年の先輩ってそんなにグループ作ってないんですね」

「は? もちろん全員作ってるに決まっ……天城、お前もしかして四年の数が一・二・三年と同じだと思ってるだろう?」

「え? 違うんですか?」

「「……はぁ~」」

 ハルの台詞に、五月と、アベルまでもが大きなため息をついた。

「悪かった、エンレンス。学生帳を読む読まない以前の奴がいた」

「いや。これは流石の俺も呆れる」

 そう言って、二人はハルにとことん呆れた目を向けた。

「な、何でそんな目をすんだよ、二人とも。俺何か変な事言ったか?」

「言った。お前、学園案内読んでないのか?」

「い、色々忙しくて……」

(忘れてただけだけど)

 更に呆れられそうなので、もちろん口には出さない。

「はぁ……この学園は他の学園と同じで、三年になったら殆ど卒業するんだよ」

 アベルが、仕方ない、といった感じで説明を始める。

「桜楼は特殊な制度があるから、希望者には卒業した後もう一年だけこの学園に通うことと、グループを作ることを許される。主な理由としては、進路の幅を広げるためだな」

「じゃあ、三年で卒業した人は何を?」

「そこまで大きな団体や企業に入るつもりがないか、故郷に帰ってそこの騎士団に入るかの、どっちかだな。まぁ、殆どが後者らしいし、俺も多分そうなる」

 ハルや五月のように、東京の外から来ていきなり五学園に特別入学するのは、実は珍しい部類に入る。小さい頃から東京に来て、試験の簡単な中学園に通ってから五学園に入学するのが殆どなのだ。

「つまり、今四年にいる先輩は、生まれも育ちも東京か、もう東京から離れるつもりのない人だ。桜楼に三年通った、ってだけで、地方の町なんかではかなり優遇されるから、四年まで進む必要もないしな」

「あ~、成程」

「……言っておくが、これは一般常識だぞ」

 五月が冷たく言い放つ。

「ってなわけで、グループはそんなに多くないんだ。冬樹の言ってた数程度だな」

 そう締めくくり、アベルは一気にお茶を飲み干して一息ついた。

「まさか、こんな中学園に入りたてのやつでも知ってることを今さら説明するとはな」

「あ、あはは……あ、ありがとう、アベル」

 苦笑しながら、ハルは頬をかく。

「あの、天城さん」

 そこで、今まで黙っていた蓮華が口を開いた。

「天城さんが入ってるグループって……誰がリーダーなんですか?」

「あ、それは俺も気になってた」

「と言うより、何時の間にグループに入ったんだ?」

 蓮華の言葉を皮切りに、他の二人も興味津津に身を乗り出した。

「ああ。リーダーは神ざ」


『1-Dの天城ハル。至急、一階の職員室まで来なさい。繰り返す……』


 ハルの言葉を遮り、学内放送が流れた。

「……俺だ」

「お前、何かしたのか?」 

「いや、別に……でも、早く行かないと嫌な予感がする。蓮華さん、生徒会長に会うのって今日じゃないと駄目かな?」

「い、いえ。多分、天城さんがお暇な時で大丈夫だと思いますよ」

「そっか。じゃあ、時間が出来たら伺いますって伝えてもらってもいいかな?」

「…………」

「蓮華さん?」

「は、はい。わかりました」

「? じゃあ、よろしくね」

 ハルは急いで皿を片づけ、席を立った。

「あ、おい。リーダーの名前は?」

「今度言うよ。皆、また明日」

 そう言って、ハルは慌ただしくその場を後にしたのだった。


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