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~第21話~

「お、おはよう、天城さん」

 始業式、兼、入学式の翌日の朝。

 ぼー、っと席に座っていたハルに、蓮華が若干強張った声で話しかけた。

「おはよう、蓮華さん……何か、顔赤いけど、大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です」

「なら、いいけど……堂島さんは一緒じゃないんだね?」

「お仕事があるから、今日は学園には来れないらしいです」

「仕事か……よくわからないけど……アイドルって大変なんだね」

 ハルの言葉に、蓮華は、クス、と笑った。

「絵梨ちゃんはどんな仕事も楽しいって言ってますから、あんまり大変とは思ってないみたいです」

「へぇ」

「でも、残念とは思ってるかもしれません。絵梨ちゃん、このクラスの皆と喋るの楽しみにしてましたから。もちろん、天城さんとも」

「そうなの?」

「はい。絵梨ちゃんは、何て言うか……」


「根っからのお喋りなんだよ。お祭り気質とも言っていいけどな」


 耳にピアスを開けた長身の美系少年が、二人の話に割って入った。

「おはよ、アベル」

「お、おはよう、エンレンス君」

「おう。おはようさん、ハル、楠木」

 少年は二人に爽やかな笑みを向けた。

 少年の名前は【アベル・エンレンス】。長い髪に不良っぽい外見だが整った顔立ちの、気さくなクラスメイトである。

 席はハルの丁度後ろ。なので、初日もハルと少し話をしており、お互いにコミュニケーションが得意だったこともあって馬が合い、ハルの男友達一人目になった。

 ちなみに、蓮華の兄の健吾は先輩なので友達とは言えない。

「アベルは二人と同じ中学園だったっけ?」

「おう。それも、三年間同じクラスだ」

 鞄を床に置き、ハルの後ろの席に腰掛けるアベル。机に足を乗っけたり、尊大な座り方をするわけではない。見た目に反して、実は行儀はいいのである。

「堂島は中学園にいた時から何かと騒がしいやつだったからな」

「へぇ……昨日は?」

「昨日は初日だったから少し抑え気味だったけど、結構はしゃいでたぞ。初対面の奴にあそこまで干渉するような奴ではないんだけどな」

「干渉? 誰に?」

「お前だよ」

 ビシッ、とハルは指差された。

「お、俺?」

「あと、冬樹五月だな。二人とも、東京の外から来たんだろ? 外に興味でもあるんかね、あいつは」

「多分、天城さんと五月さんが気の許せる人達だって感じ取ったんだと思います」

「そんなもん、か……」


「座れー、HR始めるぞー」


 そこで、昨日と同じ様に担任の真里奈が教室に入った。

「じゃあ、私はこれで失礼します」

 蓮華は軽く頭を下げ、自分の席に戻った。

「……あいつも変わったな」

「? 誰が変わったって?」

「楠木だよ。あいつ、中学園の時は男子に対して滅茶苦茶人見知りだったんだ」

「……まぁ、想像は出来る」

 蓮華が顔を赤くして男子と話している姿を、ハルは簡単に思い浮かべることが出来た。

「それなのに、さっきのお前との会話はなんだよ。普通の男女の談笑と全く変わんないじゃねーかよ……中学園を卒業してから桜楼に入るまでに何かあったのかね」

「俺はよくわからないな。初めて会った時から蓮華さんとは普通に喋れてたし」

「……そう言えば、お前楠木のこと下の名前で呼んでんだな」

 アベルはじーっとハルを見る。

「そもそも、何で外から来たお前と楠木がそんなに仲がいいんだよ?」

「話せば長くなるから、また後でな」

「いや、今話せ! そうしないと、お前の首を限界まで絞める」

「だから」

 ハルが嘆息してアベルを落ち着かせようとした瞬間、 


 ヒュッ!


 何かがハルの頬を掠めた。

 そして、バキィ、という音とともに、一本の≪チョーク≫がアベルの机に深々と突き刺さった。

「「…………」」

 アベルは恐る恐る顔を上げ、ハルもゆっくりと振り向いた。

「あたしの話を邪魔したら、こうなる……わかったな?」

 一見、真里奈はクラス全員に語りかけているように見える。しかし、その鋭い目線は明らかにハルとアベルに向けられていた。

「「っ…………」」

 二人は無言のまま何度も頷く。周囲の生徒も、同様に汗を浮かべながら頷いていた。

「ふん……では、話を続ける。今日から授業が本格的に始まる。午前の授業は特に言うことはないが、重要なのは午後の『グループ』だ。一度入ったら一年間そのグループから抜けることが難しくなるから、グループの活動をよく見て考えるように……それと、天城!」

「っ! は、はい?」

 突然名前を呼ばれたハルは姿勢を正した。

「お前の場合、色々なグループから誘われるだろうから、覚悟しておけよ」

「? ……あ」

 一瞬、何の事か理解できなかったハルだが、始業式での視線を思い出して思わず手を打った。

(そっか。あの視線はそういう意味もあったんだ)

 有能な新入生をグループに加えるのには様々な理由がある。

 例えば、桜楼学園で行われる様々な行事の殆どはグループ単位での参加になるので、この行事で良い成績を収めてグループの評価を上げるため、というものがある。

 ちなみに、クラスで行う行事ももちろんあるが、それでもやはり≪戦闘に関する行事≫ではグループで動くことが多いのだ。

 それに加え、≪世界機構≫の依頼を効率的に多くこなしたいため、などの理由もある。

「真里奈先生。グループって二つ以上入ってもいいんですか?」

「基本的に互いのグループのリーダーが認めればオーケーだ。だが、その分だけ自分の負担が大きくなることを忘れるなよ。他に質問があるやつはいるか?」

 手を挙げる生徒はいなかった。

「なら、今日はこれまでだ。個人的に相談のあるやつはあたしのところまで来い……授業サボるなよ」

 真里奈はそう言い残し、教室を出た。

「……俺の机はどうすればいいの?」

 アベルの呟きに答える者はいなかった。


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