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~第17話~

 生徒が全員座ったのを見て、女性教員は口を開いた。

「あたしがお前達の担任、【真里奈まりな・スカッタート】だ。よろしくな」

(ん? スカッタートって……もしかして)

「何人かピンと来てるやつもいると思うが、ここの教員の【ルーク・スカッタート】はあたしの夫だ」

 その言葉に、クラスが一気にがざわついた。

 実際にルークと面識があるのはハルぐらいなのだが、彼の名前が余りにも有名だったからだ。

(マジかよ……あの人、既婚者だったんだ)

 そんな中でも、なまじ顔見知りなだけに、ハルはそれなりに大きな衝撃を受けた。それと同時に、先程のルークのおかしな態度の理由を理解した。

(確かに、スカッタートって呼んだらややこしくなるな)

「あー、はいはい。静まれ、静まれ。……って訳で、あたしやあいつにアプローチしても無駄だから止めておけよ。特に、この中であいつにアプローチした女子は容赦なくぶっ飛ばすから覚悟しておけ」

 爽やかな笑顔で物騒な事を言う真里奈。

 アプローチされるのが当たり前と思っている辺り、大層な自信家なのだが、確かに真里奈はそれだけの美貌を持っていた。

 男らしい口調に似合うショ-トカットだが、整った顔つきはとても女性らしく、出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。健康的な美女、といったところである。

 イケメンのルークと並び立てば、それはもう立派な絵になるだろう。

「さて、お前達の自己紹介は後にして、まずはこの学園のことだな。一回しか言わないから、耳をかっぽじってよく聞くように」

 頷く生徒たちを見渡し、真里奈は話を続けた。

「知ってるやつもいると思うが、ここの授業体系は他の学園と少し変わってる。まず、午前は一般教養だけの授業を受け、午後から『魔法』や『体術』なんかの『特殊技能』を学ぶ。だが、その『特殊技能』はこのクラス単位でやるわけではなく、『教員』や『四年の先輩』の『グループ』に入ることになる」

 この少し変わった体系は、桜楼の教育理念が深く関わっている。

 桜楼は、何を学び、何を伸ばすのか、全て≪生徒自身≫に決めさせている。なので、クラス単位で体術や魔法の授業をするわけにはいかない。

 そこで、学園の通常授業は午前で終わらせ、午後の全てを≪特殊技能≫に割り当てた。更に、自分と同じ≪戦闘スタイル≫の先生や、≪魔法≫の得意な先輩のグループに自由に入れるようにしたのだ。

「『一人を除いた』私達教員は全員グループを持ってる。それなりに人数は多いが、教え方は超一級だ。教員が『リーダー』のグループを『教員グループ』、四年の生徒がリーダーのグループを『生徒グループ』と言う」

 ちなみに、四年生がグループを作る理由は、進路にかなり有利になるからだ。

「お前達は必ずどこかのグループに入らなければいけない、というわけではない。グループに入らなかった生徒は午前の授業が終わったら家に帰ってもいい。だが、戦闘は独学じゃ限界があるし、桜楼の施設を効率よく使いたいなら、誰かのグループに所属することをお薦めする。他にも、『世界機構』から学園への依頼を比較的簡単に受けられるしな」

 東京の外で実際に魔物を相手にする≪世界機構≫の依頼では、実戦経験を積むことが出来る。

「最後に、私が今話したのはあくまで基本的なことだけだ。グループのことについては、私達教員も色々と口利きしてやる。それほど堅苦しく考えるなってことだ。」

 この様な制度を徹底してしまうと、裏で色々工作する者が必ず現れる。例えば、暴力で下級生を自分のグループに無理矢理引き込んでしまう、などだ。

 その様な事態を避けるために、ある程度の自由は持たせてある。

「一番重要なのは、自分に合ったグループを見極めることだ。魔法を上達させたいのに、体術を優先させる教員や先輩のグループに入る、なんてことのないようにな」

 そこまで話をして、真里奈は大きく息を吐いた。

「これで一応、授業体系の説明は終了だ。まぁ、グループのことは時間をかけてゆっくりわかればいいさ。……あとは、ここの学則のことだが」

 その後、十五分ほど真里奈の話が続き、それぞれ自己紹介した後に解散となった。



    *****



「ねぇ、ねぇ、天城君」

「? 何、堂島さん?」

 放課後、ルークの助言に従って保健室に行こうとしたハルを、絵梨が引きとめた。

「これから親睦会を開くんだけど、天城君も来ない?」

「親睦会?」

「そう♪ 今回は私と、蓮華と、冬樹さんと、天城君で♪」

「冬樹さんも?」

 ハルが絵梨の背後を見ると、楽しそうに喋っている蓮華と五月の姿が目に入った。

「天城君、意外だ、って顔してる」

「まぁ、実際に意外だったから」

「ふふ♪ 私も最初は冬樹さんのこと堅い人なのかな、って思ってたんだけど、そんな事全然なかったの。何て言うか……包み込んでくれる優しさがあったんだ。頼れるお姉さん、みたいな感じかな」

「へぇ」

「だから、人見知りする蓮華もあんなに気を許してるんだと思う」

 蓮華と五月の話している姿は、確かに仲の良い姉妹のようであった。

(同い年とは思えない……いや、同い年かどうかなんてわかんないけど)

 桜楼学園には≪成人≫を迎えていなければ誰でも入れる。

 五月は特別入学生なので、彼女の年齢を知る者は恐らくこの場にはいないだろう。

(かと言って、女性に年を聞くのはな……)

「で、どうするの?」

「え、あー……今日はちょっと」

「そうなの? 何か用事?」

「うん。まぁ……」

 曖昧な顔して頷くハル。

 何となく、自分が魔法適正検査を受けていないことを知られたくはなかった。

「ふーん……それじゃあ、仕方ないね」

「ごめん。わざわざ誘ってくれたのに」

「気にしなくていいよ♪ けど、次はちゃんと来てね。蓮華のためにも♪」

「? うん」

 何でここで蓮華の名前が出るのかわからなかったが、ハルはとりあえず頷いておいた。

「うん♪ それじゃあ、また明日ね♪」

「また明日」

 蓮華達の元に向かう絵梨の背中を見ながら、ハルはふと思った。

(堂島さんって人気アイドルなんだよな……もったいない事したかな?)

 なんて事を今さら思っても仕方なく、ハルは頭をかいて教室を出た。

(次に誘われたら行こう)

 そう決めたハルはポケットをまさぐって学生帳を取りだした。

(……しかし……どんだけ広いんだよ、この学園。下手したらこれ見ても迷うぞ)

 学生帳に書かれた地図を見ながらハルが辟易していると、

「天城」

 と、またしても呼びとめられた。

「はい?」

 何の心構えもせずに振り返ったハルが見たものは、誰かの≪迫りくる拳≫だった。

「っ!?」

 ハルはそれを、本当に一瞬で拳だと認識出来た。玲奈と闘った時の感覚を身体が覚えていたため、あれレベルの速さでなければ、それなりに対応出来るようになっていた。

 だが、不意打ちは不意打ち。この拳が避けられるかどうかは、話が別である。

(間に合うかっ!?)

 ハルは顔を引きながら、左に回り込むようにその拳を避ける。

 高速の拳が頬を掠ったが、相手の攻撃は避けきった。

(っよし! 食らえ!)

 ハルはそれと同時に、右の拳を思いっきり振り抜いた。

 狙いは、誰か知らない相手の顔面。

 全く容赦のない、つい最近覚えた氣の応用をフルに使った、今のハルが出せる最大威力の拳がカウンターとして相手に迫る。


 パァン!!


 甲高い音が、桜楼の廊下に響き渡った。

「……全く手加減無しだな」

「っ!?」

 ハルの渾身の一撃は、相手の左手に防がれていた。

「まぁ、当然の反応か」

 そして、ハルの拳を防いでいた、つまり、ハルにいきなり攻撃を仕掛けたのは、

「ま、真里奈先生!?」

 ハルの担任、真里奈・スカータットだった。

「な、何するんですか!?」

 叫びながら、真里奈から距離をとるハル。当然ながら警戒は解いていない。

「そんなに警戒するな、天城」

 対する真里奈の調子は軽い。

「しますよ! いきなり顔面狙われたんですよ!? しかも、担任に!」

「それは謝る。この通り」

 そう言って、真里奈は頭を下げた。

「う……」

 簡単に頭を下げられてしまったハルは、逆に戸惑った。

「……説明してくれるんですよね?」

 一応、ハルは警戒を解いたが、まだ距離はとっている。

「あたしの旦那と玲奈からお前の話を聞いてな、ちょっとお前の実力を直で見てみたかったんだ」

「直で、って……これから幾らでも機会はあるでしょう。何で、今日急に」

「何て言うか……我慢できなかった」

「……はぁ」

 ハルは怒りを通りこし、呆れてしまった。真里奈だけにではなく、その理由にちょっと共感してしまった自分にも。

 大抵の人の心の奥底には、強い相手と闘ってみたいとか、心ゆくまで戦闘を続けたいなど、闘いを楽しみたいという気持ちが少なからずある。犯罪者が罪を犯すのも、この気持ちが多少なりとも作用している。

 真里奈とハルはそんな気持ちが、犯罪者ほどはないが、一般人より顕著なのであろう。

(俺も含めて……そんなのただの戦闘狂なのに)

「はぁ……」

 ハルはもう一度大きなため息をついた。

「そんなに怒るなって天城。お詫びに飯でも奢るから」

「いえ、結構です……それで、満足して頂けたんですか?」

「ああ……十分過ぎるほど、な」

 真里奈はほほ笑んで頷いた。

「そうですか。それじゃあ、これからはやらないで下さいよ。俺にも、他の人にも」

「ああ。分かってるよ」

「じゃあ、今回はこれでいいです。俺は保健室に行くんで、これで失礼しますね」

「保健室に何か用事か?」

「はい。ちょっと」

「そうか……気をつけて行けよ」

「あなたがそれを言いますか」

 ハルはジト目で真里奈を睨み、ブツブツ文句を言いながらその場を離れた。

「…………」

 この時、ハルが注意深く真里奈を見ていたら気付いたかもしれない。

 彼女が会話の時に、一度も≪左手を動かしていなかったことに≫。


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